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103 クラン『冬景色』その5です。

 ヴァイス=ララバイは機嫌が悪かった。

 昨日、おまけの無限術師と本命の空間術師の勧誘に失敗し、その過程で起きたイザコザのせいで、ギルドへの釈明、そのギルドからのペナルティへの対処、くだんの料理店への補償に、今回の件に関わりのなかったクランメンバーからの不満や、これからどうするんだ⁉︎ という苦情などなど様々な問題が起き、それを今日の正午まで一睡もせずに対処し続け、やっと一息つけそうな所で、自分が苦労している元凶の分身が、クランのホームにやってきたからだ。

 そして、にこやかに、


「やあやあ、ヴァイスちゃん。どうやらお疲れの様で、悪い事をしたら報いがあるって覚えておくといいっすよ」


 ふざけた挨拶を投げてきた。隠す気もなく喧嘩を売ってきている。


「ふん! 分身に任せて、後ろで引っ込んでいる時は偉そうじゃないか」

「無限術師ってのは後衛職ですからね、後ろでふんぞりかえっている方がいいんすよ。そんな後衛職を騙して前衛の距離で偉ぶっている誰かさんより、マシじゃないですか?」


 分身の口は、本人以上に悪かった。おそらくは、やられても構わないからだろう。ここにはヴァイス以外にも幾人もの上級冒険者がいて、この不愉快な騒動の元凶の分身には、かなり物騒な視線が注がれているが、気にした風もなく話を続けた。


「それでですね、今回の件ではかなり怒ってんすよ。うちの副隊長を無理矢理勧誘したことも、結果、怪我したこともね……大体、今、隊長の方は警邏の所でたっぷりお灸を据えられてるんすよ? それで、それについて、あんたらはどう謝罪するつもりがあるんですかね? まあ、ヴァイスちゃんが僕が悪かったんです〜。許してください〜。って頭を下げるなら許してや……」


 ドン! 右手で机を叩いて、戯言を断ち切った。


「……馬鹿にしているのか? 次にヴァイスちゃんなどと呼んだら殺すぞ」

「馬鹿にしてるし、喧嘩売ってんすよ。言っときますけど、こっから先は俺らのターンっすよ。あんたらに主導権を渡す気はねーです。そういう意味では昨日が、あんたらの勝てる唯一のチャンスだったのにご愁傷さまです。そんでもって、これです」


 無限術で作られた分身は懐から一枚の紙を取り出して、フっと机の上をすべらせた。

 ヴァイスは目の前まで流れて来た紙を取り上げた。

 それは、闘技場でのクラン決闘の挑戦状だった。

 目を疑いながらマジマジと見つめていると、分身が説明を始めた。


「見ての通り、ギルドを通して作られた正式な決闘状です。ルールは基本的なクラン決闘。……まあ、こっちはパーティーですけど、あんたらに合わせてクラン戦にしましたよ。あんたらが勝ったら、ヒビキ=ルマトールが、副隊長ごと、あんたらの傘下に入ってあげます。ギルドにも『冬景色』は悪くなかったと、今の謹慎と監査を終わらせる方向に証言します。でも、こっちが勝ったらクラン『冬景色』の即日解散を要求します。さて、どうします? 決闘を受けますかね?」

「……『冬景色』を相手に勝てると思っているのか?」

「負ける気は、欠片もない。とだけは言っときます。それで、受けますかね? ……まあ、解散がかかっているんすから逃げる方が賢明かもしれないっすよ。でも、ヴァイスちゃんが、たかだか一人の無限術師が怖くて逃げ出しましたって、周りから噂されるかもしんないっすけどね……」


 はっはっはっと陽気に笑う分身に、氷のような言葉で答えた。


「いいだろう。決闘で決着をつけよう。それと……次は殺すと言ったはずだ」


 ヴァイスは右手を掲げた。そして、スキル『闘刃』を発動させ、笑う分身を袈裟懸けにした。

 分身は何の反応も出来ず左肩から右腰のラインで二つに切り裂かれた。

 上半身も下半身も、地面に転がった。

 普通の人間なら即死だが、分身だからだろうか、一切の苦痛を見せずに、転がったまま話しかけて来た。


「じゃ、一週間後に、全力で叩き潰してやりますよ」


 そう言い残すと、上半身も下半身も血糊すらも虚空へと消えた。


「ちっ! それはこちらのセリフだ」


 そう吐きすてると共に、落ち着けと念じて、冷静さを取り戻していく。

 そして、10秒。

 普段の調子に戻ったヴァイスは、隣のメンバーに問いかけた。


「どういうつもりで、決闘を仕掛けてきたのだと思う?」


 たった二人で上級冒険者、数十人からなるクランに戦いを挑むなど狂気の沙汰だ。どんな勝算があって、そんな馬鹿なことをするのか測りかねた。

 問われたメンバーは、慎重に自身の考えを告げた。


「……クラン決闘ですから、よそのクランに助力を頼むことは、ルール上、可能なのでは?」


 確かに、それならクラン対クランになる。あちらに勝ち目も出来るだろう。だが、


「他のクランが動くか?」


 少なくとも、タダでは動かないだろう。そう思うのだが、


「それこそ、空間術師ごと仲間になると言えば、どこのクランも動かせるかもしれません」


 と言われれば、頷かざるを得なかった。『冬景色』を潰す為に、他のクランに加入するのは本末転倒とも言えるが、人間、感情を優先するものだ。それに、ヴァイスにとっても不本意なことに『転移』を持つ空間術師の存在が広まってしまった。他のクランも熾烈な勧誘をかけるだろう。どの道、どこかのクランに所属せざるを得ない筈だ。


(ちっ! おとなしく『冬景色』に所属すればいいものを!)


 内心で苛立つヴァイスに一人が尋ねた。


「それで、どうする? 決闘を受けるのか?」


 その答えは決まっていた。


「ああ、受ける。勝って『転移』を手に入れて、俺たちが『龍殺し』を越え、序列1位の座を勝ち取る!」


 その言葉に周りは頷いた。


「ガラサド。メンバーに決闘の準備をするよう通達してくれ。バドは情報屋を使って奴が他のクラン、特に『龍殺し』と『要塞』との接触があるかを調べてくれ」


 矢継ぎ早に指示を飛ばすとヴァイスは席を立った。

 どちらへ? と視線で問うてくるメンバーに、


「クラン決闘となると、クランリーダーの許可が必要だ。だから、姉に会いに行く」


 という理由を述べ部屋を後にした。


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