99 クラン『冬景色』です
火龍を狩った翌日、狩りには行かずに休んだ。
遠征の疲れを癒す為にお休みなのだが、家でごろごろしているのもアレだから、フルルと連れ立ってノミ市場を見て回ることにした。
迷宮都市は大陸の中央部に位置していて、その性質上、大陸全土から人が行き交う。必然的に文化も混じる。
ノミ市場は、そんなごちゃ混ぜ感が強く現れている。
氷菓子を売っている隣で防寒用品を売っている。その向かいにではペットの猫とその餌が置かれている。本当にカオスだ。
おまけに、頻繁に商人の顔触れも、品物も変化するので何回来ても飽きない。
そんな中で俺は面白い物を見つけた。
俺とフルルがよく遊ぶボードゲーム『魔物遊戯』の駒と盤なのだが、普通の品と違って、凄く豪華で華やかな装飾がなされているのだ。
俺がまじまじと見つめていると、店主が声をかけて来た。
「どうだい兄ちゃん。これはな、そんじょそこらの市販品とは比べることも馬鹿馬鹿しい、一品物だ。なんせ、これが作られたのは200年以上前、あの芸術家モルテスが一駒一駒丁寧に作ったもんなんだ。この独特な形状と手に吸い付く様な肌触りが、大勢の人を虜にしてきたのさ」
俺は店主の言葉に乗せられて、駒の一つを手にとった。
――なるほど、確かにいい感じ。正直欲しい。ただ値段が高そうなんだよな……。
因みに、あのモルテスとか言われても、そいつの名は知らない。それでも。こいつは気に入った。
「それで、これ幾ら?」
「挑戦料1万ゼニーだ」
「安! …………挑戦料?」
「ああ、これだけの品となると、持ち主にもそれ相応の技量があるべきだ。だから、俺にゲームで勝ったら商品として渡すよ」
なるほど、面白そうだ。
「乗った」
そして、勝負が始まった。その内容は、
「いけ、ゴブリン、おっさんにぶちかませ」
「甘いな、若造、ゴーレムとはこう使うんだよ」
「ならこれだ! ブラックタイガーの突撃」
「それも、想定内だ。大鳥の飛び跳ねだ」
「げっ!」
「まだまだだな」
「なにくそ、これならどうだ?」
「なっ⁉︎ ワームの突進だと⁉︎」
「 更に、いけドラゴン!」
「くっ!」
「どうだ、おっさん。これで、トドメだ!」
「やるな若造、だが、切り札は最後に切るものだ、 不死鳥よ飛び立て!」
「な、なんだとー」
「中々の腕だ、だが俺に勝つには10年早い」
「うわあぁぁぁ!」
まあ、大体そんな感じだ。
「あー……負けたー」
「いや、中々良い腕してたぞ。正直、俺が戦った相手の中でも5本の指に入る」
「そう? 因みに、ソレを賭けてどれっくらい勝負したの?」
「そうだな、すでに300回近く勝負したかな」
「それで全部勝った訳か、スゲーな」
「いや、いい加減、持ち主が現れて欲しいのだがな。はっはっは」
「そうか、そうか」
俺は財布からもう1万ゼニーを取り出して、店主に渡した。
「ん? 再戦か?」
「いや、次は俺じゃない」
そう言って、隣のフルルの肩を叩いた。
「え? 僕?」
「ああ、そうだ、おっさんの望みを叶えてやれ」
俺は力強くフルルの背中を押した。
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「いやー、名勝負だったな」
俺はノミ市場を歩きながら、隣の勝者を褒め称えた。
「決着がついた時に、周りから拍手が湧くとか相当だぜ?」
「でも、なんか悪い気が……」
まあ、勝敗が決まったとき、おっさんは蒼白だった。
でも、後からいちゃもんをつけたりせずに、「大事にしてくれ」そう言って賞品を手渡してくれた。
そういうのも含めた上で名勝負だったと思う。
「気にしない、気にしない。ところで、そろそろ昼飯だけど何食う?」
「んー……お肉がいい」
「いいね、だったら…………」
俺が考え混んでいると、知らない男が、
「よければ、ご馳走するよ」
と、声をかけて来た。
(誰だ?)
全く知らない顔だ。年は20代なかば。ただ、体つきは鍛えられているし、身なりは高級品だと一目で分かる。
間違いなく上級冒険者。そう思ったが間違っていなかった。
男はおれ達に、にこやかに挨拶した。
「はじめましてだな、ヒビキ=ルマトール。私の名はヴァイス=ララバイ。クラン『冬景色』のサブリーダーをしている。率直に言えば君に『冬景色』に加わって欲しい。少し、話をしないかい?」
凄く、朗らかで好感の持てる男だった。
少なくとも、出会ったばかりの、この時は。




