飛び入り参加
「竜人のところ? ……確かにもうそろそろいい時期かもな」
「そうなんです! リヒトさんは来ていただけますか……?」
「もちろん。どうせアリアの命令だし」
突然のロゼの頼みを、リヒトは快く引き受ける。
竜人と出会ったのは、かなり前の出来事であるが、まだ何とか記憶の中には残っていた。
武器も何個か完成している頃合だろう。
「ありがとうございます!」
それと――と、ロゼは続ける。
「魔王様から、ラエルさんを一緒に連れて行ってやってくれという指示があったのですが……リヒトさんはどう思われますか?」
「……ラエル? 俺は別に良いけど、付いてくるとは思えないぞ? 人助けって言えば付いてくるかもしれないが……」
「……? よく分かりませんけど、今コウモリたちに探しに行ってもらってます!」
ラエルのことをほとんど知らないロゼは、リヒトの話の半分も理解できていない。
どうして嘘(?)をつく必要があるのか、不思議で仕方がなかった。
狂信者的というアリアのヒントしかないため、ラエルの全体像が不明なままである。
「あの……大丈夫ですよね? 怖い人じゃないんですよね?」
「そういうわけじゃないんだけど、うーん」
「ふ、不安になるじゃないですかぁ……」
リヒトのハッキリとしない反応に、ロゼは不安そうな顔を見せた。
ヴァンパイアという種族は、聖女に悪として認識される可能性が高い。
できれば仲良くしたいものだが、嫌がられることも考えると、声をかけづらい存在だ。
「――うわあああぁぁ!? 離してくださいぃ!!」
そんな二人の空間を引き裂くように。
悲鳴を上げながら、コウモリによって無理矢理連れてこられたラエルが現れる。
バタバタと暴れているが、背中を掴まれているため振りほどくことができない。
地面に足がつかない恐怖のためか、いつもよりロザリオを強く握りしめていた。
「ご、ごめんなさい! 私のコウモリが勝手に――!」
ロゼは慌ててコウモリを回収する。
連れてくるように命令していたものの、まさかここまで強引な形で実現するとは考えていなかったようだ。
コウモリにもそれぞれ性格があるため、ヤンチャなコウモリに任せてしまったロゼの責任となるらしい。
「……な、なかなかハードな日々なのです」
「あの……大丈夫でしたか? 悪気は無かったのですけど……と、とにかくごめんなさい!」
「だ、大丈夫なのです。わざとじゃないのは分かっていますから――あ、でも、どうして私をここに?」
ロゼの思いが通じたのか、ラエルは特に怒りの感情を見せることはなかった。
パンパンと乱れた服を直しながら、ロゼとリヒトの顔を見つめる。
既に醜態を晒しているにもかかわらず、クールキャラを押し通そうとしているようだ。
「ラエル。人助けに興味無いか?」
「人助け! もちろん興味あるのです!」
リヒトの言葉に、ラエルは見事食いついた。
人は人でも竜人であり、助けるといえば微妙なところでもあるが、ギリギリ嘘ではないと自分の心の中で言い訳をしておく。
「も、もしかして参加しても良いのですか……?」
「ああ。付いてくるか?」
「ありがとうございます!! 絶対に付いて行くのです!」
ラエルは迷うことなく了承する。
契約書をよく確認せずにクエストを受注する、若手の冒険者のような光景だ。
後から何か文句を言われることは予想できたため、リヒトは頭の中でその時の言い訳をずっと考えていた。
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