イタズラ
ディストピアの領域の中でも、イリスとティセの住む領域には自然が溢れている。
今日も今日とて。
二人は特に何もすることなく、のんびりと草の上で座っていた。
仕事をサボってゆっくりと過ごすことは、アリアも公認している事実だ。
ティセの巨大な胸部を背もたれにして、イリスはリラックスするように息を吸う。
「お姉さまお姉さま、初めて見る人がいる」
「本当だ、イリスちゃん。魔王様が連れてきたのかしら……?」
領域に迷い込んできたラエルを、イリスとティセは遠目から発見する。
地下であるにも関わらず、自然が溢れているこの領域に困惑しているようだ。
キョロキョロと周りを見渡し、樹海をさまよう人間のように歩いていた。
「あれ? お姉さま、こっちに来てる。どうする?」
「イリスちゃん、攻撃したらダメよ? 大事なお客さまかもしれないし、もしかしたら新入りさんかも」
「――おっとっと」
ティセの言葉によって、イリスのスカートにかかる手が止まる。
もう少し遅れていたら、妖精たちがラエルに向けて攻撃を仕掛けていたかもしれない。
「すみませーん! 迷ってしまったのですが、どこから出られるのですか?」
「あっち」
「ありがとうなのです!」
自分の命が危ぶまれていたという事実を知らないラエルは、答えたイリスに精一杯のお礼を言う。
リヒトやドロシーと違い、生命の禁忌を犯していない存在だと分かっているらしい。
「あの、どうなされたのですか?」
「あ、初めまして! これからお世話になることになったのです! ラエルといいます!」
「……よろしく」
ラエルの自己紹介。
イリスとティセに対しては、警戒心が嘘のようになくなっていた。
ロザリオの効果もあるが、二人の穏やかな雰囲気も大きいだろう。
引き寄せられるのは、動物だけでなく聖女も同じようだ。
「お二人は何をなされているのですか?」
「……イリスはお姉さまと一緒にいるだけ」
「私もイリスちゃんと一緒にいるだけです」
イリスはそう言って、背もたれにしている巨大な胸部にくっつく。
ティセに体を預けている時が、最も安心できる時間らしい。
このままぐっすりと眠ってしまいそうだ。
「あ、魔王様には言わないでくださいね。怒られたりしたら怖いので」
「わ、分かったのです!」
「言ったらラエルさんも同罪。これで仲間になったってことで」
「あ、ありがとうございます!」
ラエルの感謝の言葉。
ハイエルフ流の歓迎である。
これで、仲間として認めて貰ったということだ。
「その首にかけてるの……珍しい。えい」
「――あっ!? と、取っちゃダメなのです! それだけは――!」
ラエルのロザリオに、珍しく興味を持ったイリス。
話を聞く前に、妖精を使ってサッと取り上げた。
まさか、そのようなことをされるとは思ってもいなかったため、ラエルも抵抗する暇なく奪われてしまう。
「か、返すのです!」
「――きゃっ」
イリスは身の危険を感じ、咄嗟にロザリオをティセへとパスする。
しかし、今回はそれが自分の首を絞めることになった。
「う、うおぉぉ……死ぬぅ……」
イリス越しにラエルは手を伸ばすが、巨大な胸部が邪魔をしてギリギリ手が届かない。
前と後ろから塊に挟まれたイリスは、上手く息ができずに苦しむことになる。
バチが当たった瞬間だ。
「お姉さま……返してあげて……」
「ごめんなさいね、ラエルさん」
「気を付けてほしいのです!」
ラエルは、プクーと怒りの感情を見せる。
イリスはこれがトラウマとなり、ラエルにちょっかいを出すことはなくなった。
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