表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/206

哲学


「うわっ、リヒト。どうしたのそれ? 誰か入ってる?」


「ああ、中に聖女が入ってるらしい」


「聖女……? また凄い人を連れてきたんだね」


 死霊の確認を行っていたドロシーの前に現れたのは、大きな棺桶を持つアリアとリヒトであった。

 アリアが上部を、リヒトが下部を持って運んでいる。


 中に入っている聖女は、道中で騒ぎすぎてスタミナが切れているようだ。


「アリア、もう開けてもいいんじゃないか? 暴れたりはしないだろうし、ディストピアの中だから逃げられないし」


「そうじゃな。よっと」


 ドスン――と、音を立てて棺桶を地面に落とすアリア。

 運が悪ければ、リヒトと聖女に大ダメージが入っていたかもしれない行動だ。

 リヒトは心の中でヒヤリとしながら、慎重に棺桶の蓋を開ける。


「ひっ――あ、あれ? 人間? あっ!? 魔王がいるのです!」


 眩しそうに外の世界と再会した聖女。


 そしてしっかりとアリアの方に指をさし、魔王であることを言い当てた。

 リヒトが人間であることも見抜いている。

 たった数秒の出来事であるが、聖女としては本物らしい。


「な、なななんで魔王がいるのですか! はわわわわ……神よお助けくださいぃ……」


「リヒト、こやつを落ち着かせることはできんのか?」


「無理そうかも」


 アリアもリヒトも、慌てふためく聖女にお手上げの状態だ。

 話しかけようとしても、狂ったような祈りの声にかき消されてしまう。


 いつものアリアなら、パシンと頬でも叩いて黙らせてしまうであろうが、今回ばかりはそれも火に油を注ぐ行為になるだろう。


 それを見かねたドロシーは、気を利かせて一歩前に出た。


「ねぇ、聖女さん。ボクたちは敵じゃないから、あまり驚かないでほしいな。急に生き返ってビックリするのは分かるけどね」


「……貴女は誰なのですか? 私は……二度生を受けるという禁忌を犯してしまいました。神に背いてしまったのです……」


「ボクはドロシーっていうんだ。ネクロマンサーをやっているよ」


「ネクロマンサー!? あ、あの命をゆがめている存在……! 貴女は間違っているのです!」


「え? えぇ……?」


 ドロシーはチラリとリヒトの方を見る。

 その目からは、助けてくれというメッセージがヒリヒリと伝わってきた。

 まさかドロシーまで通用しないとは、リヒトの想像を遥かに超える面倒臭さだ。


 それほど、神に対しての忠誠が厚いのだろう。


「えっと……貴女の名前は? あと、どこの教え?」


「私の洗礼名はラエルです! ガブラエル教の教えを信仰しています!」


「ガブラエル教なら……恩は絶対に返せって教えがあったはずだよね?」


 ドロシーは少し考えると、ラエルに対してガブラエル教の教えを問う。

 適当に作った教えではなく、たまたまドロシーの頭に入っていたものだ。


 だからこそ、ラエルもハッと真面目な顔に戻る。


「確かにあるのです」


「なら、リヒトがラエルさんを生き返らせたことはどうなるのかな? ラエルさんを、暗闇の中から救い出したとも考えられると思うんだ」


「そ、そんなことは……!」


「神様が運命を決めているなら、ラエルさんが生き返ったことも神様の決めたことじゃないかな? だから、リヒトは良いことをしたと思うよ」


「う、ううっ……」


 うわあああん――と、ラエルは棺桶から飛び出して駆けて行く。


 今すぐ答えを出すには、難しすぎる問題だったらしい。

 生き返ったばかりで、このような問題に直面すれば、頭がパンクするのも無理はなかった。


「……ドロシーって哲学者だったのか?」


「いや、ボクも自分で自分が何を言ってるか分からなかった」


 宗教や哲学の難しさを知る二人だった。



ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 私は……二度生を受けるという禁忌を犯してしまいました。神に背いてしまったのです……」 自殺してみませんか この糞聖女
[気になる点] 「恩は絶対に返せ」って教えがあったとして、死者蘇生されたことを聖女は恩と感じていないように見えるので関係ない気が……。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ