棺桶
「――アリア、この辺だ。降ろしてくれないか」
「分かったのじゃ」
ベルンから貰った手帳に描かれた地図。
上空から確認しているため、普通に探すより何倍も探しやすかった。
もしアリアがいなければ、森の中を歩き回ることになっていただろう。
「――というか、あそこではないのか? 何か墓のような物があるぞ?」
「あっ! あれだ!」
移動係のアリアと捜索係のリヒトで役割を分けていたが、結局どちらもアリアが解決することになる。
アリアの視力とリヒトの視力の差は、簡単に埋められるものではない。
アリアの言う墓のような物と、手帳に描いてある埋葬場所を照らし合わせながら、二人はそこへ降り立つことになった。
「立派な墓じゃな。魔物に荒らされてないところを見ると、何か結界を張っておるのじゃろうか?」
「そうみたいだ。何年ほど経ってるのかは分からないけど、ずっと続く結界って凄いな……」
「どうする、リヒト? 掘り起こすか?」
「俺にそんな体力はない!」
墓の前で動かないアリアとリヒト。
見たことのない種類の石で作られた十字架の下に、聖女が眠っているのは確実である。
もし蘇生するとなったら、掘り起こしてからでないと面倒だ。
リヒトでは物理的に不可能なため、ここでもまたアリアが動くことになった。
「――わっ!?」
アリアが手をかざした瞬間――ドガンと音を立てて土煙が舞う。
必然か偶然かは分からないが、埋まっていた棺桶は傷付くことなくその姿を現した。
棺桶もまた、結界のようなもので包まれているのだろうか。
この結界が聖女による効果ならば、その信仰心の高さが見て取れる。
「ほら、リヒト。やれ」
「あ、あぁ。《死者蘇生》」
バタリ――と、一回だけ動く棺桶。
リヒトの《死者蘇生》は、いつも通り完璧に発動した。
しかし、問題はこれからだ。
復活した聖女が、どのような行動をしてくるのか。
リヒトには全く予想できない。
攻撃してくるとは考えにくいが、全く言うことを聞かない可能性だってある。
アリアを怒らせるという愚行をした場合は、弁護の余地もなかった。
「だ、誰ですか!? 誰かいるのですか!?」
再びバタバタと動き出す棺桶。
少しの時間フリーズしたのは、頭が真っ白になっていたかららしい。
蘇生されたばかりの人間なら自然な反応だ。
「あ、俺が蘇生させたんだ。今から棺桶を開けるから――」
「――あ、貴方!? 何ということをしたのですか! それは神に対する冒涜なのですよ! 絶対に許される行動ではないのですよ!」
「ご、ごめん……」
「もうダメなのです……神様がお怒りなのです……」
「アリア。このまま持って帰らないか……?」
「……そうじゃな」
棺桶を開ければ面倒なことになる――そう確信した二人は、聖女をその棺桶から出すことなく、ディストピアへと持って帰ることを決めた。
その移動時間、ずっと聖女が騒いでいたのはまた別のお話。
諸事情により、投稿頻度は2日に1回となります。
また余裕が出てきたら、毎日更新に戻そうと思いますので、よろしくお願いしますm(_ _)m




