聖女
「ありがとうございます! すぐに人間を向かわせました!」
ベルンは感謝の気持ちを体で表すように、髪が地面に着いてしまいそうなほど深く頭を下げた。
アリアは場所を特定しただけでなく、始末まで担当してくれたらしい。
ベルンからしたら、あまりにも大きすぎる借りである。
「あの……なんとお礼したら良いか……」
「別によい。帰るぞ、リヒト」
「分かった」
「――ちょ、ちょっと待ってください!」
特に振り返ることなく帰ろうとするアリアに、それに従って後ろを付いていくリヒト。
このまま帰してしまえば、次に会う時があまりにも恐ろしかった。
爆弾を体に巻いて特攻しろと命じられても、ベルンに断ることはできないであろう。
それならば、たとえ僅かなものだとしても、今のうちに少しでも借りを返しておきたい。
「なんじゃ?」
「えっと……! 実はこの国で面白そうな情報がありまして! リヒトさんは気に入る内容だと思うのですが!」
「……俺?」
ベルンはゴクリと唾を飲み込む。
ここで全く気を引けなければ、最悪の印象でアリアたちは去っていくということだ。
一歩踏み込んでしまった以上、もう逃げることはできない。
自分が調べた情報をしっかりと思い出しながら、ベルンは一言目をようやく発した。
「かつて、この国には聖女と呼ばれた存在がいたらしいです。その人間は神の教えによって、誰も知らない場所で埋葬されたという伝説がありました」
「……なるほど」
「そこでなんと! その聖女が埋葬されているという、誰も知らない場所を記した手帳を見つけたのです!」
意外そうなアリアの顔。
まさか、ベルンが役に立つとは思ってもいなかったようだ。
「やはり女王になったら、普通入れない場所にも入れるみたいです。かなり厳重に保管されていた手帳でしたので、調べてみた甲斐がありました!」
「どうする、アリア? 場所が分かるなら、蘇生させることができるぞ」
「面白いではないか。人手も足りておらんし、少し聖女というのにも興味がある。何か問題があれば、また殺せばいいことじゃし」
ベルンはホッと胸を撫で下ろす。
アリアの興味は、完全に聖女へと移っていた。
魔王からしたら、聖女というのは真逆の存在と言っても過言ではない。
だからこそ、聖女というものを実際に見たいと感じている。
「で、その場所とやらはどこなんじゃ?」
「森……のようですね。詳しい場所は、この手帳に描いてあります」
「森なら暗くなる前にやっておきたいな。アリア、大丈夫そうか?」
うむ――とアリアは返事をすると、ベルンから古びた手帳を受け取った。
死に場所まで神に従うとは、かなりの信仰心を持った聖女だと予想できる。
リヒトの『死者蘇生』は、蘇らせたとしても従わせるという効果はないため、聖女を丸め込むという手順が必要だ。
話し合うとしたら、夜より昼の方が警戒されなくて済むだろう。
「儂は大丈夫そうじゃ。死に場所まで連れて行ってやるから、後はリヒトに任せるぞ」
(こういう時にドロシーがいたらなぁ……)
リヒトはその思いを言葉に出さず、静かに首を縦に振った。
かつてのドロシーのように、聖女が状況を飲み込むのが早ければ特に問題は無い。
しかし。
もし、敵対するような行動を取られれば、余計な仕事を増やして終わるだけである。
森という開けた場所であるため、アリアも全力で戦うことができない。
徒労に終わるかどうかは、リヒトにかかっていた。
「……あ、リヒトさん。役に立つかは分かりませんが、手帳と一緒に保管されてたロザリオです。持って行ってください」
「……ありがとう。頑張るよ」
ベルンの一押しを受け、リヒトの逃げ場は無くなってしまう。
少し嫌そうな顔をしつつも、しっかりとそのロザリオは受け取ることになった。
ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!




