暗殺者
「……チッ。女王がいないぞ」
暗殺者であるライズは、窓の外から覗き込む形で部屋の中を探していた。
女王がいつもいる部屋は、入念に調べあげている。
部屋の構造まで完璧に頭の中に入っているが、それでも女王の姿は見つからない。
隠し扉のようなものがなければ、この部屋の中に隠れられる場所は存在しないはずだ。
「というより、あの男は誰だ……? 調べた中にはいなかったはずだが」
ライズが女王の居場所より気になっていたのは、自分の部屋のようにくつろいでいる謎の男だった。
この城の従者とは到底思えない。
ボディーガードにしては何も武器を持っていないため、その可能性は考えなくても良いだろう。
(どうする……まだ手を出さない方がいいか? 今なら確実に殺せるが)
ライズの中で起こる葛藤。
あれほど油断している状態なら、自慢の吹き矢で何本でも毒を撃ち込むことができる。
音も痛みもない吹き矢であるため、あの男は攻撃されたことにも気付かずに死んでいくはずだ。
何故か女王がいないというイレギュラーが起きたため、ライズには日を改めるかどうかの選択肢が与えられていた。
もし今日に女王を殺すならば、今のうちに男を殺しておいた方がいい。
心配して男に近寄る女王を殺す方法なら、ライズの頭の中にいくらでも存在する。
(依頼の期限は明後日までだったな……また上手く忍び込める保障はない――ここで決めるか)
イレギュラーの時ほど冷静に――ライズは持ち前の判断力で仕掛けることを決めた。
依頼の内容も考えると、そうゆっくりはしていられない。
女王暗殺という大仕事を成し遂げても、期限を過ぎてしまえば報酬は半減してしまう。
それに加えて、時間をかければかけるほど暗殺の難易度は上がっていく。
ライズは使い込んだ吹き矢を手に持った。
「よっと」
足をへこんでいる部分へとはめ込み、上手く体を固定するライズ。
音を立てずに窓を開けると、大きく息を吸い込む。
吹き矢に口を付けた時には、もう狙いを定め終わっていた。
ライズに背を向けている男の首に、猛毒の塗られている弾を撃ち込んだ。
「――ヒット。問題はここからだ」
男は違和感に気付く暇もなく。
バタリと椅子の上から崩れ落ちた。
本命である女王を仕留める前の予行練習――その一部始終はライズの自信へと繋がった。
後は、これと同じことを女王に繰り返すだけだ。
いつ女王が部屋の中に入って来てもいいように、吹き矢の狙いは重そうな扉へと向けられている。
これからライズは、夜風の冷たさと戦うことになるであろう。
「――あれ? 眠ってたか……?」
(――なっ!?)
何事も無かったかのように起き上がる男に、ライズは反射的に窓を閉めた。
(なぜ生きているんだ……!? 外したか? いや確実に毒は撃ち込まれた。毒が効いていない? いや、それなら倒れることも無かったはず……)
「おっかしいな。やっぱり休暇で全然休めなかったからか……? そう考えると、ロゼはよく体が持ってるよなぁ……」
(――くっ!)
何故か部屋を徘徊し始めた男。
見つかるわけにはいかないため、ライズは咄嗟に窓から手を離す。
どういうことなのかを解明するのはまた後だ。
今は、ただ逃げるしかない。
幸いなことに、あの男は襲撃されたことには気付いていないらしい。
それであれば、まだチャンスはある。
自慢の吹き矢を強く握りながら、ライズは人闇の中へと消えていった。
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