三日
「それで、お主が殺されるというのはいつ頃なのじゃ?」
「それは……少なくとも三日以内に起こると思います。暗殺者の正体や数は分かりません」
「時間帯も分からぬのか?」
「はい……」
アリアは、面倒くさそうに用意された椅子へと座った。
時間帯が分からないということは、朝も昼も夜も警戒しなくてはならないということである。
アリアもリヒトも気が長い方ではないため、この任務はかなり精神力を削るものとなりそうだ。
「とにかく。お主が殺されても構わんが、殺されるところを見られてはならんのは分かっておるな?」
「それは勿論です」
「つまり、お主はこの部屋に引きこもっておればいい。人間は誰も近付けさせないようにしておくのじゃぞ」
的確な指示に、ベルンは迷うことなく頷いた。
この作戦は、ベルンも思い付いていたらしい。
何も良いアイデアが思い浮かばないリヒトは、話の邪魔にならないようにアリアの後ろで口を閉じている。
「しかし……国が混乱しているので、完全に人間との関わりを断つのは厳しいかもしれません……」
「それなら、部屋から指示を出せば良い。顔を合わせなければ問題はないからな。一人くらいは信用できる部下もいるじゃろ?」
「部下……はい。一人だけいます」
ベルンの頭にいたのは、いつも一緒にいるメイドであった。
人間との関わりを断つということは、アンナとも顔を合わせるわけにはいかない。
そう考えると、少しだけ寂しく感じてしまう。
(――って、何考えてるの。アンナを伝達役にするなら、普通に話すことはできるじゃない)
それでも、ベルンは自分の安全の方が優先だ。
アンナと会うことによって、アリアの作戦が水の泡になったら全てが終わる。
たかが人間一人のために、そこまでリスクを冒すほど愚かではなかった。
「決まりじゃな。これでベルンの正体がバレるということは無さそうじゃ」
それで――と、アリアは付け加える。
「もしベルンが死んでも、すぐ蘇生できる位置にリヒトを置きたいのじゃが、我慢することはできるか?」
「……え? いや、ちょっと待てアリア――」
「風呂場とまでは言わんが、共に行動する時間はかなり多くなりそうじゃ」
「大丈夫です」
リヒトが話に加わる前に。
一瞬で話は決定してしまった。
ベルンがここまで抵抗する素振りを見せなかったのは、アリアにとっても予想外であるらしく、かなり驚いた顔を見せている。
「う、うむ。心配なさそうじゃな」
「はい。よろしくお願いします」
「…………よ、よろしくお願いします」
ベルンの丁寧なお辞儀を見てしまうと、リヒトに断るという選択肢は取れなかった。
これで断れるほど、リヒトのメンタルは強いわけではない。
気まずいというわがままだけで、この作戦を潰すわけにもいかないため、何も言わず受け止めることとなる。
「じゃあ、儂は寝ておるから敵が来たら言ってくれ」
「分かったよ、アリア」
「あ、あれ……? 大丈夫なのでしょうか……?」
アリアは、ベルンのベッドの上にボフッと飛び乗る。
目をつぶれば、すぐにでも寝てしまいそうだ。
その様子を見て、ついつい不安な顔を浮かべるベルン。
ここまでくつろいでいると、そうなってしまうのも無理はなかった。
「何を言っておるのじゃ。こうなったら、その暗殺者というやつを待つだけじゃろ」
「……た、確かに」
冷静に考えると、こちら側がすることはかなり限られている。
待つだけといっても過言ではない。
アリアからしたら、人間を逃がすことなど有り得ないため、襲撃中に眠っていたとしても十分間に合う。
こうなると、ベルンから言うことは何も無かった。
「そ、それでは、リヒトさん。これからよろしくお願いします……」
「こ、こちらこそ」
こうして。
極秘の女王護衛任務は始まることになった。
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