帰省
「リヒト君にドロシーさん! 貴方たちには本当に感謝しています。ロゼを生き返らせてくれたという事実に加えて、私たちをも守ってくれるとは」
「お二人の実力に、もう疑いはありません。ありがとうございました」
休暇の最終日。
別れの食事の席では、アリウスとカミラが頭を下げていた。
リヒトとドロシーは毎度のことながら、気まずそうに顔を見合わせている。
「い、いえいえ……どちらにしても、あいつらは俺たちの敵でしたから」
「そんなことは関係ありません。私たちを助けてくださったという事実は、変わらないのですから」
「リヒトさん。お父様もそうおっしゃっているのですから、遠慮なんてしなくていいんですよ?」
「そうは言ってもさ……」
ロゼの言葉に、リヒトはチラリとテーブルの上を見る。
そこには、何とか気合いで食べ切った後の皿が残っていた。
朝からこれほどの量を食べさせてどうするのか――と、突っ込みたくなるほどの数。
もうお腹が破裂してしまいそうだ。
「今日は最終日なのでしょう? もう少しゆっくりしていって貰いたいという気持ちもありますけど、仕方がありませんね……」
「すみません、お母様。でも、二度と会えなくなるというわけではありませんから! また休暇をいただけたら、絶対に帰って来ますね!」
「ロゼ……母はずっと待っていますから、いつでも帰って来てね」
お互いに一粒の涙を零すロゼとカミラ。
(……おい、ドロシー。家族の時間を邪魔しちゃ、駄目なんじゃないか……?)
(そ、そうだね、リヒト)
リヒトとドロシーは、空気を読んで部屋の外に通じる扉へ手をかける。
アリウスはそのことに気付いていたが、二人の心情を察したらしく、特に止めるようなことはしない。
かなりありがたい優しさだ。
「ロゼ。仕事が辛かったら、いつでも言っていいからな。多少の手助けはできるだろうから」
「お父様、そのことはもう心配ありません。私……ディストピアのみんなと働くことがとても楽しいんです」
それに――とロゼは付け加える。
「みんなのいるディストピアが好きですから」
ロゼは、自信に満ち溢れた顔でそう言い切った。
アリウスとカミラの頭の中にある、幼いロゼはもうどこにもいない。
ヴァンパイアとして、どこに出しても恥ずかしくない娘に育っている。
その成長が、親としてはただ嬉しかった。
カミラに至っては、ハンカチを二枚用意しているほどだ。
「どうやら、いらぬ心配だったようだな」
「そうね、アリウスさん。ロゼはもう大人ですから」
「えへへー」
ここに、ロゼを引き止めようとする者はもういない。
大事な娘が離れてしまうというのは悲しいが、それでも娘の意志を尊重するというのが親である。
頼りがいのある仲間も、最強の魔王もいるため、心配する方が失礼なのかもしれない。
「そうだ、ロゼ。リヒト君なんてお似合いだと思うんだが、どう思う?」
「……へ? な、なな何を言ってるんですか!? お父様! リヒトさんの目の前で――ってあれ!? いなくなってる!」
「母はとても賛成だわ。優しいし、強いんだから」
「お、お母様……恥ずかしいです……」
真っ白な肌を赤く染めながら、ブンブンと首を横に振るロゼ。
恋愛の話になると、昔からこのような反応を示す。
この部分に関しては、子どもの時と全く変わっていなかった。
この様子だと、リヒトには何一つアプローチをしていないだろう。
お節介によって嫌われてしまう可能性――それでも、アリウスとカミラが放っておけるはずかない。
「リヒト君には、ロゼのことをしっかりと伝えておいたぞ」
「ちょっ!? 勝手なことをしないでください! あぁぁ……どうやって言い訳すれば……」
「返事によると。どうやら、リヒト君もロゼに興味があるらしい」
「……え?」
ロゼの体が固まる。
言うまでもなく、アリウスの言葉を聞いたことによってだ。
何回も頭の中でその意味を繰り返し、勘違いでないのを確認すると、更にもう一段階顔を赤く染めた。
「ほ、本当ですか? お父様……?」
「あぁ。私がロゼに対して嘘を言ったことはないだろう?」
「そ、そうですよね! ありがとうございます! お父様!」
ぎゅーっと。
アリウスの胸へ、ロゼは飛び込む。
先程までの態度とは真逆の態度。
嘆いていたことが、まるで嘘だったかのような笑顔だ。
「……そろそろ時間だな」
「は、はい」
ボーン――と、響くような時計の音。
この音は、ロゼたちの出発を合図している。
家族の時間は、とても短く感じてしまうものだ。
お互いが名残惜しそうな顔で見つめ合う。
「……それでは、リヒトさんたちを待たせてはいけないので。またいつか帰って来ますから、その時はよろしくお願いします」
「体を大事にするんだぞ」
「それじゃあね……グスッ」
「はい!」
最後は涙を見せることなく。
ロゼは、元気にリヒトたちの元へ向かって行った。
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