戦いの終わり
「リヒトさん! 大丈夫でしたか!? 酷いことをされませんでしたか!?」
「あ、あぁ。別に大丈夫だったけど、どうしたんだ?」
ロゼがコウモリになった状態で城の中を飛び回っていると、フラフラと迷子になっているリヒトを発見する。
特に怪我は見当たらず、ヴェートの言っていたことが嘘だと判明した。
「リヒトさんが捕まっているという話を聞いて……無事みたいで良かったです!」
「そうだったのか。結構強敵だったけど、何とか勝てたよ」
ロゼの満面の笑み。
不安そうだった顔との変化を見ると、かなりリヒトのことを心配していたようだ。
過去にあった失敗を、未だに引きずっているのかもしれない。
「あ。そういえば、ドロシーさんはどこにいらっしゃるのでしょうか?」
「え? 俺は知らないぞ。ロゼと一緒じゃなかったのか?」
「え?」
ロゼは辺りを見回す。
しかし、ドロシーの姿を見つけることはできない。
一体どこにいるのか。
万が一殺されてしまっているという可能性も考えると、ゆっくりはしていられなかった。
「リヒトさん! 捕まってください! 探しに行きましょう!」
「――うおっ!?」
リヒトが捕まろうとする前に、ロゼはがっしりと体を掴む。
その細い腕からは考えられないほどの力によって、足掻くことすら不可能だ。
「リヒトさん……もしドロシーさんがやられていたらお願いしますね。取りこぼしの敵は私が殺します」
「た、頼もしいな……」
背後から聞こえる怒りのこもった声に、リヒトはブルリと体を震わせた。
吸血鬼狩りとの戦いで、ロゼに何があったのかは不明だが、かなり恨みができているらしい。
変に理由を聞かない方が良いと、リヒトの本能的な部分が叫んでいる。
「でも、ドロシーが負けたってあまり考えたくはないな……」
「負けてないと思います。でも、ダメージを受けて動けない可能性もありますから。早く私たちが見つけてあげないと……」
ロゼはそう言いながら、凄まじいスピードで飛び続けた。
このペースだと、見つけるまでに時間はかからないだろう。
廊下を歩くメイドたちとは、目を合わせる前にすれ違ってしまう。
「――いました! ドロシーさん!」
結局。
数分後には、廊下で座り込んでいるドロシーを発見することができた。
二人分の死体の中心で、くたびれたような姿。
派手に飛び散っている血が、戦闘の激しさを生々しく伝えている。
子供が見たら、トラウマになりそうな光景だ。
「あ、ロゼさん。服に血がついてるよ」
「ド、ドロシーさんもですよ!」
優しく手を振って再会を喜ぶドロシー。
ここに三人が集まったということは、戦いが終わったということである。
その事実をすぐに理解したドロシーは、にへらと笑顔を作っていた。
「リヒトもお疲れ。お願いがあるんだけど、このメイドさんを生き返らせて欲しいんだ」
「分かった――けど、ドロシーは大丈夫か? それ、首のところ」
「あ! ドロシーさん! 怪我してるじゃないですか!?」
ドロシーの首には、赤い手の跡がしっかりと残っている。
それは、ロゼにとって到底見逃せるものではない。
「ど、どうしましょう! もしかしたら一生残る傷になってしまうかも……!」
「え? 大丈夫だと思うけど……」
人間とヴァンパイアでは治療法も全く違うため、今はアタフタすることしかできなかった。
この城に備わっている薬草などでは、人間であるドロシーに適合する可能性が低い。
多くの物が、人間界では毒として扱われているものだ。
「――あれ……私……? あ、リヒト様」
場が混乱している中で。
死んでいたメイドが、リヒトの手によって蘇生される。
心臓の辺りを気にしているところから、記憶はちゃんと残っているらしい。
「あぁ、良かった。ありがとう、リヒト」
「これくらいなら任せとけ。ドロシーも、蘇生できたら傷は治るぞ? ほら、ロゼもいるし」
「確かにそれなら薬はいりませんね――って、私にそんなことは出来ませんよ! リヒトさん!」
納得したような顔から、ブンブンと慌てて首を振るロゼ。
いくらリスクなくドロシーの傷を治せるとしても、自分の手で仲間を殺すことなど不可能だ。
ドロシーがその方法を望んでいるというわけでもないため、また別の方法を探すしかなかった。
「あ、あの……ドロシー様。冷やすものは、すぐにでも用意できるのですが」
「――よし」
ドロシーの小さなガッツポーズ。
そのメイドの言葉をきっかけに。
リヒトたちは、戦いの後の休息を取ることになる。
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