不死
「それじゃあ、さっきの質問に答えてもらっても良いかしら? どうして人間の貴方がここにいるの?」
それに――と、レーネは付け加える。
「ヴァンパイアの味方をしているみたいだけど、どういうつもり?」
その質問と共に。
レーネの剣がリヒトの顔へ向けられた。
リヒトの答えによっては、すぐにでも戦いを始める様子だ。
ゴクリとリヒトは唾を飲み込む。
「ヴァンパイアの味方をしたら、何か問題があるのか?」
「……? 当たり前でしょ? ヴァンパイアに限らず、人外に加担するなんて反逆行為もいいところだわ」
「……そうか、そうだよな」
「貴方……イカれてるみたいね。反逆者として始末させてもらうわ」
リヒトの言い訳(?)も届かず。
レーネには完全に敵として認識されたらしい。
既に失われつつある人間としての常識。
悲しい気持ちは全くないが、少しだけ寂しく感じてしまった。
「じゃあね」
こうなると、もう戦闘は避けられない。
元より穏便に解決するなど期待していないが、それでも戦闘は本能が嫌がるものである。
いつになっても、戦いを求めるアリアの心が理解できない。
「くたばりなさい!」
「――クッ!」
素早いレーネの切り付けを、リヒトはギリギリのタイミングで弾き返す。
この段階で、自分とレーネの実力の差は把握できた。
数値で言うと三対七。
奇跡でも起きない限り、真っ当に勝負しての勝利は難しい。
どこの国の人間なのかは分からないが、どこでもトップクラスになれる実力だ。
「少しはやるのね。もし人間の国にいたら、多少は稼げたでしょうに。勿体ない人材だわ」
「……褒め言葉として受け取っておくよ」
肉体のダメージを受ける前に、精神的なダメージを受けるリヒト。
人間界の話は、忘れようとしても忘れられるものではない。
マイナスの話ではなく、プラスの話であるだけに動きも鈍ってしまう。
「あ、もしかしてやらかしちゃったのか。それなら悪いことを言ったわね」
「……」
「さようなら」
その優しい声が耳に入る時。
リヒトの胸には、鋭い剣が思い切り突き刺さる。
どうやら、最初は手加減をしていたようだ。
明らかにスピードが数倍上がっていた。
「――よいしょっと!」
レーネは体から剣を抜くついでに、リヒトの臓器を数箇所破壊する。
人間である以上、死は免れない致命傷だ。
メイドと同じように血を出しながら、重力に従って崩れ落ちた。
「これで一人目……まぁ、これ以上人間がいるとは思えないけど」
レーネはリヒトが死んだことを確認すると、ヤレヤレといったように辺りを見回す。
今のところ、新手の存在はいないらしい。
これほど戦ったにも関わらず、レーネの仕事はまだまだ残っている。
「アルフとヴェートは大丈夫かな……? 上手く挟み撃ちに出来たらいいんだけど……」
ふぅ――と、レーネは無意識のうちにため息をついた。
その瞬間だった。
レーネの右足が一瞬で両断される。
一体何が起こったのか――敵は絶対にいなかったはずだ。
「――なっ!? 確実に殺したのに!」
そこには、先程殺したはずのリヒトが見下ろすように立っていた。
傷は完全に塞がっている。
ヴァンパイアとしても有り得ない回復力だ。
(こ、このままじゃマズい……! どうにかしないと――!)
レーネは距離を取ろうとするが、無くなった足ではほど遠い。
このままでは逆に殺されてしまう。
幸いなことに剣を手放してはいないため、リヒトの隙をついて攻撃すれば勝機はあるはずだ。
レーネはこの瞬間――人生で一番の集中力を見せた。
(来た――でもこの一振りはフェイント。それをあえて――)
リヒトの一振り。
これは、レーネを殺すためのものではない。
確実に一撃を入れるためのフェイントだ。
いつものレーネであれば、このフェイントには反応せず、本命の攻撃だけに対応するだろう。
しかし、今の状態では受け止められるかすら怪しい。
そこで。
あえて左腕を差し出した。
「――グァ!」
「――なっ!?」
左腕に走る痛み。
右足と同じように、左腕も両断される。
だがこれで良かった。
リヒトからしたら、当てる気のなかった攻撃で左腕を弾き飛ばすなど、イレギュラーでしかない。
予想外の出来事が起こった時の人間は――誰であろうと等しく動きが止まる。
レーネが左腕を支払ってまで得たのが、この空白の時間だ。
「食らえええぇぇぇ!!」
最後の力を振り絞って。
リヒトの首へと目掛け、レーネは槍を投げる要領で剣を手放した。
支える腕がないため、顔面からの着地。
外したら死ぬという緊張感の中で、レーネが見た光景は――
(――や、やった! とった!)
断頭するまでにはいかなかったものの、その剣はリヒトの首を深く抉る。
剣が地面へと落ち、ガシャンという音を立てた時には、リヒトの命が終わっていた。
「イカれた化け物が…………とにかくアルフかヴェートを呼ばないと――グッ……」
リヒトを倒したとしても、レーネの身の安全が保証されたということではない。
左腕も右足も失った状態では、流石のレーネと言えども簡単に殺されてしまう。
メイドに見つかってもアウトと考えると、かなり絶望的な状況だ。
「アルフ……ヴェート……お願い……」
人生で初めて。
他人に対して祈るレーネ。
まだ死ぬわけにはいかない。
生きることへの執着故に、仲間二人の名前を呟いていた。
「――あと二人いるんだな?」
「う、嘘でしょ……? ンフフッ……」
再び立ち上がったリヒトに。
レーネはもう笑うことしかできなかった。
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