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父母登場


「まだ残ってたみたいですね……嬉しすぎて言葉が出てきません」


「そうか……」


 とてつもなく巨大な城の前に降り立った三人。

 リヒトは、ロゼと全く違う理由で言葉が出てこなかった。

 これほど巨大な城――人間界の物と比べることすらおこがましい。


 山奥でひっそりと暮らしているのを想像していたということもあり、いつまでも目を離せないままでいる。


 そして、それはドロシーも同じだ。

 首が痛くなるほど上を見上げなければ、その城の全貌を捉えることができない。

 城から感じる重圧だけでも、今すぐ押し潰されてしまいそうだ。


「ただいま帰りました!」


 そんなリヒトとドロシーに構うことなく、ロゼは噛みしめるようにドアを開けた。

 百年ぶりの帰宅――邪魔をするわけにはいかないが、それでも心の準備だけはしておきたい。


 ふぅ――と深呼吸をした後。

 二人は慌ててロゼの後ろを付いて行く。


「ロ、ロゼお嬢様!?」


「た、大変! ロゼお嬢様がお戻りに!」


 ドアの先からは、混乱するメイドたちの声が聞こえてくる。

 一人二人の数ではない。

 何十人ものメイドたちが、ロゼの帰宅に戸惑っていた。


「リヒト、もしかして……」


「ああ……」


 耳に入ってくる情報だけでも、この城の規模が想像できる。

 城に火を放ったとしても、ここまでは騒ぎにならないだろう。

 ロゼが帰宅したという情報は、音速とも言えるスピードで城の内部を巡っていた。


「ロゼお嬢様……ご無事だったのですね……」


「はい。心配をかけて申し訳ありませんでした。お父様とお母様に会いたいのですが」


「も、もちろんでございます! どうぞこちらへ!」


 メイドに連れられて、三人は奥に進み続ける。

 かなり広い通路では、すれ違うメイド全てが喜びをあらわにしていた。

 中には、喜びで涙を流している者さえ存在する。


「ねぇ、流石にボクたち場違いじゃないかな……?」


 リヒトとドロシーは、誰にも聞こえないような声でコミュニケーションをとる。


 かなりラフな服装であるリヒトに、魔女のような帽子を着けているドロシー。

 二人の格好は、完全にこの城で浮いてしまっていた。


「こ、こういう時こそ堂々としておくんだ。変に困惑してると、田舎者だと思われるぞ」


「田舎者のくせに……」


 しかし、弱気になることはリヒトのプライドが許さない。

 その無駄なプライドがドロシーを巻き込み、不自然なほど背筋が良い二人組を作り出している。

 まるで、軍隊の行進のようだ。


「リヒトさん……? どうかなさいましたか?」


「いや、何でもないよ。本当に何でもないから」


「は、はい……」



「ロゼお嬢様。こちらでございます」


 三人が連れて来られたのは、これまた巨大な扉の前。

 この奥にロゼの父母がいるらしい。

 ノックをして扉に手をかけるメイドに、何故かリヒトの方が緊張していた。



「――ロゼ! 無事だったのか!」


 そこには、ロゼの帰宅を喜ぶ二人のヴァンパイア。


 父と思われる方は、長く伸ばした髭に片眼鏡、シルクハットを被って威厳溢れる格好となっている。

 二メートルは下らない長身が、さらにその雰囲気を際立たせていた。

 リヒトなど簡単に捻り潰されてしまいそうだ。


「――あぁ……! 母は嬉しいです!」


 母と思われる方も、肩を露出させたドレスで大人の雰囲気を醸し出している。

 ロゼと全く同じ薄紫の髪が、凛とした芯の強さを表しているようだ。

 ロゼがこのまま成長すれば、この母のように美しい女性になるのだろうか。

 ついつい、そのようなことを考えてしまう。


「お父様! お母様!」


 いつの間にか。

 リヒトの隣にいたはずのロゼは、吸い込まれるように二人の元へと駆け出している。

 ボフリと飛び込んだ母の胸。

 その包み込まれるような暖かさが、ロゼの心を支配していた。


「ロゼ……まさか戻ってきてくれるなんて……」


「お母様……」


「今晩はご馳走だぞ。ロゼが好きだったものを全部用意してやるからな」


「お父様……ありがとうございます!」


 三人のやり取りを、リヒトは黙って見守り続ける。

 絶対不可侵――言うなれば、決して邪魔してはいけない領域だ。

 そのくらいの常識は、ドロシーでも理解していた。


 ロゼの花が咲いたような笑顔を見ていると、羨ましいとさえ思ってしまう。


「ところで、ロゼ。あちらの御二方はお客様かい?」


「あ! あのお二人は私の大切な仲間です!」


「ロ、ロゼに仲間が……! 娘の成長を感じられる……母はなんて幸せものなのでしょう……!」


「私が見ていない間に随分と立派になったな。偉いぞ、ロゼ」


「えへへー!」


 その会話。

 リヒトはムズムズとした異変を感じる。

 父母の異様な喜びよう――結婚相手を連れてきたと考えても劣らない。

 母に至っては、どこからか出したハンカチで目元を隠していた。


 百年ぶりと考えても、どこか不自然だ。


「お二人ともかなりお世話になっているんです。歓迎しても良いですよね?」


「当然です。ロゼの仲間だなんて、家族と同じですから」


「そうなると、こちらからも挨拶をしておかないとな」


 ここで、リヒトとドロシーの中に一つの疑惑が浮かび上がった。


 この両親。

 超がつくほど親バカなのではないか――と。



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