表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/206

空の旅


「ロゼ……この移動方法はどうにかならないのか……?」


 リヒトは、遠い地面を見ながらロゼに問いかける。

 人生三度目の空の旅だ。

 やはり何度やっても慣れるものではない。


「でも、地上からとなったら何倍も時間がかかってしまいますよ?」


「そりゃそうだけど……」


「リヒトが怖がりなだけだって。慣れると楽しいよ」


「ドロシーは慣れるのが早すぎるんだ!」


 高所に恐怖しているリヒトをフォローするように、ドロシーとロゼが隣を飛んでいた。

 気持ち良さそうに飛んでいる二人を見ていると、大きな損をしているような気分になってしまう。


 ドロシーに関しては、今回が初めての飛行であるにも関わらず、ロゼに引けを取らない飛行技術だ。

 心做しか、服を掴んでいるコウモリも喜んでいるように見える。


「そうだ、リヒトさん! お話をして気を紛らわせましょう!」


「こんな時にする話なんてあるか……?」


「ボクは、ロゼさんの昔話が聞きたいかも」


「……確かに気になるけどさ」


 ロゼの気遣いによって、リヒトは一瞬だけ空を忘れることができた。

 目を瞑って強引に紛らわせようとすると、逆に空を意識してしまうという意外な盲点。

 そう考えると、全く関係のない話をするというのは、意外と良案なのかもしれない。


 今は、ロゼが必死に昔のことを思い出そうと努力している。


「私は……泣いてばっかりの子どもでしたね。今考えると、お父様やお母様に甘えていたのかもしれません」


「この前も号泣してたしな」


「あ、あれは、リヒトさんが大怪我をしたから――!」


 リヒトの一言に、ロゼは顔を赤く染めて言い返す。

 あの時の罪悪感と不甲斐なさは、どれだけの時間が経っても忘れることなどできない。

 ただのワガママで流していた――子どもの時の涙とはわけが違う。


「逆にドロシーは泣かないイメージがあるけど、実際はどうだったんだ……?」


「ボクは毎日師匠に泣かされてたよ。子どもの時から弟子入りしてたからさ。今はもう笑い話だけど」


「大変だったんだな……」


 リヒトの中で、ドロシーのイメージが崩壊した瞬間だ。

 努力とは無縁そうな存在であるドロシーも、過去には血のにじむ特訓をしていたらしい。

 永遠の死霊使いは、毎日の積み重ねによってできていた。


「といっても、国王やお偉いさんに反発してたら殺されちゃったんだけどね。アハハハハ」


「それは笑い話なのか……? えっ、でも、魔物との死闘の果てに命を落としたって聞いたことがあるぞ?」


「そんなの嘘っぱちだよ。本当は寝込みを五人でグサリとね」


「……これは闇が深そうだ」


 楽しい会話にするつもりが、人間界のダークな部分に足を踏み入れてしまった三人。

 ゆるゆると育てられていたであろうロゼは、話を聞いただけでもブルブルと体を震わせている。


「え、えっと! 好きな動物は何ですか! 私は犬が好きです!」


 何とか空気を変えようと試みるロゼ。

 その健気さが、リヒトの心に罪悪感を植え付けていた。

 少なくとも、ロゼの前でする話ではない。


「……何となくだけど、ロゼさんって犬みたいだよね。すごく良い意味で」


「へ!? そ、そうですか……!?」


 ドロシーの褒め言葉(?)が、ロゼの顔をさらに赤く染める。

 ロゼ自身は満更でもなさそうだ。


 主人であるアリアのために力を尽くしているところや、褒められると素直に喜ぶところなど、確かに一致している部分は多々あった。


「ド、ドロシーさんは猫に似てると思います! マイペースですし!」


「褒めてるんだよね……?」


 特に意味の無い会話。


 それでも。

 ドロシーとロゼの距離は近付いたような気がした。

 他の仲間たちと仲良くなりたいという、ドロシーの内心を知っているリヒトは、恐怖心も忘れてその光景を眺めている。



「――あ! ありました! ありましたよ! あそこが私の実家です!」


「う、嘘だろ……」


「うわぁ……」


 ロゼが指さすその先には。

 かなり遠くからでもハッキリ見えてしまうほどに、巨大すぎる城があった。



ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ