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魔王の提案


「やっぱりイリスとティセがいると楽じゃな」


 アリアは、そう呟きながら人間の上を歩く。

 床は死体で埋まっており、足に伝わる柔らかい感触が少しだけ心地良かった。


 人間たちの死因としては、ティセによる臓器機能停止が五割、イリスによる同士討ちが四割、ドロシーによる魂の抜き取りが一割だ。


 死体の顔を見ていると、イリスとティセに見せられた地獄が想像できる。

 逆にドロシーの手にかかった死体は、何も苦しまず安らかに死んでいた。


「まったく。無駄に数だけが多いから、掃除が大変になるじゃろうが」


 この光景を見て、アリアはうんざりするように愚痴をこぼす。

 常人が見たなら発狂してしまいそうな光景だが、魔王であるアリアからしたら花咲く野原と何ら変わりはない。


 むしろ。

 片付けのことを考えるとゴミの山なのだが。


「――うわっ」


 突然足に走る感覚。

 そこに視線を向けると、男の手ががっしりとアリアの細い足を掴んでいた。

 どのようにして三人から身を隠していたのか――耐性を持っている実力者か、はたまた運がいいだけの下っ端か。


 油断していたこともあり、様々な考えがアリアの頭の中を駆け巡る。

 しかし、もうそんなことは関係なかった。


「《空間掌握》」


 死体だらけの空間が歪む。

 アリアの周りが、全てスローモーションになった。

 足を掴んでいる人間がどのような攻撃をしてこようとも、確実に回避できる空間だ。


 ディストピアの内部で、アリアに勝てる人間など存在しない。


 そもそも、このディストピアはアリアが作ったダンジョンであり、自分が最も優位に立てる場所となっている。


 わざわざ地下に作ったのも、窓を用意しないで済むためだ。

 《空間掌握》を使う上で窓が開いていたとしたら、バケツに穴が空いているのと同じように効果がなくなってしまう。


 領域や部屋の大きさに比べて、扉が極端に少ないのもそのためである。


 テンションが上がった際は、扉を自ら蹴り破ってしまうという癖があるが、ロゼという名の修理屋もしっかりと用意していた。


「――って、死にかけではないか」


 死体の中から本体を引きずり出したものの、身体中に切りつけられた傷跡がある。

 イリスによって同士討ちした者の末路だ。

 未だに息があるのが奇跡とも言えた。


「期待させおって」


 今更アリアが手を加えるまでもない。

 最後の執念というものに感心しながら、アリアは紙クズのように投げ捨てた。


「しかし、これで当分人間たちは攻めて来ないじゃろうな。しばらく退屈な日々が続きそうじゃ」


 アリアは背伸びをしながら歩き回る。

 死体の上を歩く感触は、いつまで経っても飽きるものではなかった。

 戦いの後の楽しみと言っても過言ではない。


 これから先はなかなか味わえない感覚であるだけに、チビチビと高い酒を飲むような気持ちで楽しんでいる。


「そうじゃ! あやつらに休暇をやれば喜ぶかもしれん!」


 丁度暇になるであろう日々。

 アリアは、最大の褒賞を思いついた。



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