ガイトの尋問
「やっぱり入り込まれてるみたいだぞ、フェイリス。気を抜かずにいこう」
「分かったなの」
リヒトとフェイリスは、ロゼが取りこぼした人間を処理するため、ディストピアの各領域を歩き回っていた。
正直に言うと、今回の戦いでは二人の活躍の機会がかなり限られている。
フェイリスの《怨恨》は殺された場合に発動するが、一人だけしか道連れにすることができない。
つまり、相手が多くなるほどフェイリスは機能しなくなる。
また人間相手に、ロゼを始めとする下僕たちが殺されるとも思えないので、リヒトも同じ立ち位置だ。
「でも、リヒトさんは単純な一対一で勝てるなの?」
「大丈夫。元々Sランクの冒険者として頑張ってたんだから、大抵の人間になら勝てるよ」
フェイリスの質問に、リヒトは心配させないような答えを返す。
並の兵士には勝てると言っても、隊長レベルの格上では流石に分が悪い。
フェイリスもそれは同じだろう。
「――リヒトさん。いた」
その緊迫した状態で敵を確認するフェイリス。
先に気付いたのはこちら側だが、それも誤差に過ぎない。
敵もリヒトたちに気付いたようで、剣を抜きながらジワジワと距離を詰めてきていた。
「――ッ! アイツ、見たことあるぞ。名前は……ガイトだったな」
「有名な人なの?」
「人間の中ではな。かなりやり手だったけど、まさかこんな所にいるなんて……」
ガイトの存在は、リヒトの頭の中にも残っている。
レサーガ国の人間なら、全員が知っていると言っても過言ではないほどの人間であり、歴代で三人しか与えられていない勲章まで手にしていた。
リヒトを小魚に例えるとしたら、ガイトはサメだ。
逆立ちしても勝てる相手ではない。
「……フェイリス」
「分かってるなの」
リヒトの指示が出る前に、フェイリスは一歩前に出た。
自分のするべき動きを完全に理解している。
普通の人間であれば、フェイリスが攻撃をする前に殺すはずだ。
(……なんだ、あのガキは?)
しかし。
この一歩で、ガイトの動きが止まる。
(おかしい。武器も持たずに近付いて来ている。ただの馬鹿か、それとも……)
ガイトの人生で、フェイリスは初めて出会うタイプの敵だ。
故に、かなり慎重に対応しなくてはならない。
剣は構えているものの、攻撃をするまでには至らなかった。
「……」
「来ないのか?」
「――っ」
お互いの攻撃が当たる間合いに入ったところで。
何もしてこないフェイリスを、挑発するようにガイトが話しかける。
こうなると、フェイリスから攻撃を仕掛けるしかない。
太ももに隠していたナイフを取り出して、隙をつくように襲いかかった。
(心臓――と見せかけて武器!)
ここでフェイリスが狙ったのは、ガイトの心臓ではなく剣だ。
ガイトの剣を奪うことができれば、その剣で己を貫くことによって勝利が手に入る。
道具を使った自殺は、その道具の持ち主でないと意味が無いため、どうしても必要な手順だった。
「ノロマが!」
しかし、そんな簡単に武器を奪えるような相手ではない。
ガイトは、フェイリスの攻撃を軽く躱しながら、足でナイフを弾き飛ばす。
たった一つの武器を失ってしまった少女を捕らえるのは、赤子の手をひねるように容易かった。
「うぐっ」
(なんだコイツは……弱すぎる……)
あまりに呆気ない勝利。
フェイリスは両腕を拘束され、頬を地面に押し付けられている。
この状態から逆転する方法は存在しない。
ガイトは、チラリとリヒトの方を見た。
「おい、男! これからどうするつもり――って、お前どこかで見たことがあるな」
ガイトは言葉に引っかかる。
リヒトがガイトのことを知っているのと同じように、ガイトもリヒトの顔に心当たりがあった。
どこで覚えたのかは正確に思い出せないが、間違いなく人間界の出来事だ。
決してスルーできる事実ではない。
「お前、人間だな。どうしてここにいる。名を名乗れ!」
「さあな――」
リヒトがその問いに答えることはなかった。
そして、覚悟を決めたように駆け出す。
フェイリスを拘束するために、片腕を使っている今がチャンスだ。
リヒトは、直線上にあるフェイリスのナイフを拾いながら、ガイトの喉元を狙って突っ込んだ。
「――おっと」
それでも。
ガイトを殺すにはまだまだ遠い。
ナイフが突き刺さる直前で、ガシリと腕を掴まれてしまった。
ガイトのオーガにも劣らない握力は、完全にリヒトの腕を固定している。
もがけばもがくほどに走る激痛。
数秒後には、震える腕がポロリとナイフを落としてしまう。
「お前――いや、お前たちには聞きたいことが沢山ある。質問には答えてもらうぞ」
そう言ってガイトが取り出したのは、一本の丈夫そうなロープだ。
何十人がぶら下がっても切れないほどの耐久力を誇っている。
ロゼやアリアならば簡単に引きちぎることができるだろうが、リヒトやフェイリスでは流石に荷が重い。
二人は背中合わせになる形でぐるぐる巻きにされると、足を払われて綺麗に倒される。
こうなってしまうと、起き上がることさえままならなかった。
「いてっ――フェイリス、大丈夫か……?」
「うん……アハハ」
何故か不敵に笑うフェイリス。
これは喜んでいるのか――それとも違う何かか。
やはり何を考えているのか分からない。
心配した分が勿体なく感じてしまうほどだ。
「さて、まずは一つ目の質問だ」
「――!!」
そのセリフと共に、リヒトの肩には一本のナイフが突き刺さった。
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