作戦?
「人間たちが攻めてくるって……本当なのか? 死にに来てるとしか思えないぞ……?」
「その通り。当たって砕けろという勢いでやって来るらしいのじゃ」
「そこまで踏み切るって、かなり危険視されてるらしいな……」
ゆったりとした時間の終わりは早い。
壮絶な死闘の後の休みも、人間たちによって邪魔されてしまう。
捨て身の覚悟で突撃してくるというのが、余計に気だるさを加速させた。
どの種族にも関わらず、覚悟を決めた相手が一番厄介だ。
死ぬ直前の雑魚モンスターに、Sランク冒険者が深手を負わされたという話を、リヒトは何回も聞いたことがある。
「というか、そんな話どこから聞いたんだ……?」
「ベルンから全部入ってきたぞ。レサーガ国というところが、ベルンの元へ擦り寄ってきたらしいのじゃ」
「レサーガ国って……どこまでもしつこい奴らだな……」
レサーガ国。
リヒトを追放した国との運命は、どれだけやっても断ち切れない。
ラトタ国を巻き込んでまで、このディストピアを潰そうとしているようだ。
「残念じゃが、敵の戦力までは正確に分からなかったみたいじゃ。そこでリヒト。元々住んでおった国じゃし、何か有益な情報はないか?」
「有益な情報って言われても……女の冒険者が少ないくらい――」
「ドロシー、お主は何か知っておらんか?」
プイっとドロシーの方に顔を向けるアリア。
かなり早い段階で、どうでもいい情報だと判断されてしまった。
実際に何も知らないため仕方がないのだが、少しだけ悲しくなってしまう。
「申し訳ないけど、ボクがいたのはかなり昔だから、有益な情報っていうのは難しいかも」
「それなら仕方ないのじゃ。気にするでない」
「明らかに俺の時と扱いが違わないか……?」
ドロシーに対するアリアの反応は、とても暖かいものだった。
リヒトの時に比べると、別人かのように対応が違う。
何とも言えない気持ちが、心の中でグルグルと渦巻いた。
「まぁ、どうせ勝てるじゃろうから、変に気張らん方がいいな。冒険者が攻めてくるタイミングは、ベルンが調整してくれるようじゃし」
「そんなことまでしてくれるのか。やっぱり優秀なんだな……」
「ということで、リヒトもドロシーもゆっくり準備してくれ。試したい戦法とかがあったら、今回で試すのもアリじゃぞ?」
「あ、リヒト。ちょうどいいから、バズーカ作戦を試してみようよ」
「断る」
ベルンの活躍もあって、戦いの前とは思えないほどゆるゆるとした三人。
この三人に限らずとも、ディストピア全体がそういった雰囲気である。
相手が人間というのもあり、油断してしまうのは強者として仕方のないことだった。
「それじゃあ任せたぞ。儂はもう寝るのじゃ」
「おやすみ――って早いな。まだ昼だぞ?」
「種族が違うんだから、ボクたちの生活リズムと違ってもおかしくないよ。きっと魔王さんは夜行性なんじゃないかな?」
「いや、普通に昼夜逆転してるだけなのじゃ」
「ごめん、リヒト」
「……健康的な生活を送ってくれよ、アリア」
二人の心配を受けながら、不健康な魔王は堂々と部屋から出て行く。
大事なことは全て伝え終わったらしい。
作戦から何やらまで、全てを任されてしまった。
「……任されちゃったね」
「とりあえず、イリスとティセに話してみよう」
残されたリヒトの口から出てきたのは――ハイエルフの姉妹。
戦場において一番信頼している二人の名前だった。
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