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朗報?


「あれ、リヒト? その果実どうしたの?」


「イリスとティセの領域に遊びに行ったら、お土産で貰ってきた。美味しいらしいけど、一人で食べ切れないからドロシーにもあげるよ」


「分かってるじゃん。せっかくだから一緒に食べようよ。ボクも一人では食べ切れないからさ」


 見回りの業務に充てられている時間。

 リヒトは、ドロシーの部屋で軽食を楽しもうとしていた。

 最初はしっかりと見回りをしていたものの、敵が全く来ないことから、最近は手を抜きがちだ。


 これはリヒトだけでなく、イリスを始めとした下僕たちのほとんどに当てはまっている。

 魔王であるアリアがサボりに寛容過ぎる――どころか、率先してサボっているため改善の兆候は見られなかった。


 真面目に今も働いているのは、恐らくロゼだけであろう。


「でも、本当に敵が来ないよね。死霊が見張っててくれるから、ボクたちの仕事もほとんどなくなってるし」


「まぁ、魔物とかが迷い込むような作りでもないからな。俺は落ち着いてる方が好きだからいいけど」


「ボクも、これくらいゆったりしてた方が好きだよ。戦いばっかだと疲れるからね」


 リヒトとドロシーは、比較的平和な日々を送っている現在に満足しているようだ。


 アリアの戦闘欲が目覚めるまでに、しっかりと休んでおく必要がある。

 もし目覚めてしまったら、それから働き詰めの毎日だ。


 アリアの気まぐれは天災のように訪れるため、如何なる時でも心構えをしておかないといけなかった。


「というか、ボクたちがゆっくりしている分、ロゼさんに全部仕事が回ってるんじゃないかって思っちゃうんだけど……どうなのかな?」


 ドロシーが気にしていたのは、やはりロゼの仕事量であった。

 ディストピアで働き始めてから、ロゼが暇そうにしているところを見たことがない。

 具体的にどのような仕事をしているという情報はないが、常に動き続けているようだ。


「一度手伝おうとしたことがあるんだけど、大丈夫って断られちゃったんだ。もしかして、ボクたちじゃできないような仕事なのかな?」


「ヴァンパイアだからな……全然想像ができないや」


「もしかして嫌われてるのかな……? それなら泣いちゃいそうなんだけど」


「ロゼは人を嫌うようなタイプじゃないから安心していいと思う。多分」


「多分なんだ」


 ロゼに対しての疑問が、埃のように積み重なっていく。

 隠し事をしているというわけではないだろうが、好奇心というのは簡単に止められるものではなかった。


「リヒトって、ロゼさんと仲良かったっけ?」


「……そう言われると自信ないな。嫌われてるかも」


「ロゼさんは人を嫌うタイプじゃない――って言ったばっかりじゃん」


 呆れたように果物を口にするドロシー。

 ロゼと仲良くなるのは、まだまだ先の未来らしい。

 リヒトの人望にも疑問を持ち始めた瞬間だ。


「えっと……フェイリスとは仲が良いぞ?」


「フェイリスさんは……不思議な人だよね。あんまり話したことないんだけど」


 ロゼの代案として、リヒトはフェイリスの名前を出す。


 共に戦場を経験したフェイリスは、戦友という意味で仲が深まっていた。

 会話の内容は、記憶に残らないほど適当なものであるが、それでも部屋に呼ばれる程度の仲である。


 何度も蘇生したことで、謎の信頼感がフェイリスの中に生まれているようだ。


「そういえば、フェイリスさんってあんまり部屋から出てこないよね? 遊びに行ってもいいのかな?」


「……うーん。あの様子じゃ暇だと思うから、遊びに行ってあげると喜ぶんじゃないか?」


 ドロシーの質問に、リヒトは不確定の情報しか出せなかった。


 何度か部屋に招かれているリヒトだが、フェイリスが本を読んでいる姿を見たことがない。

 積まれている本も、表面が埃で覆われている。

 これらのことから、本に手をつけてないと予想された。


 しかし。

 あの本だらけの部屋で、本を読まずにどうやって過ごしているのか。

 仕事をしているといった雰囲気でもないため、謎はどんどん深まるばかりだ。



「たのもー!!」


「――うわっ!」


 何の前触れもなく。

 バタンとドアが蹴り破られる。


 リヒトとドロシーが慌てて目を向けたその先には、見慣れた魔王の姿があった。

 少し息が乱れている――急いでこの場に向かってきたらしい。


 妙な笑みが溢れているところから、喜ばしい報告があるのだろう。

 二人はゴクリと唾を飲み込んで、次に発される言葉を待つ。


「人間たちが、このディストピアに攻めてくるらしいぞっ! 準備じゃ!」


 平和だったディストピアに転がり込んできたのは、なかなかに物騒な話であった。



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