ドレスアップ
「隣国の使者が来ている……ですか?」
「そうなのです、ベルン様。これまでの使者は追い払っていたのですが、どうしてもベルン様にお会いしたいと申しておりまして……」
昼食を食べ終わったベルンの元には、困ったようにしている従者が訪ねてきた。
話を聞いてみると、隣国からの使者が来ているらしい。
これまでラトタ国は、他国との関わりを露骨に拒んでいる。
それも、ベルンが妖狐であることがバレないよう、保身に走った結果であった。
様々な言い訳で国民の疑問から逃れてきた過去――今回も、同じように追い返すことになるのだろう。
「どうしても会いたいと言っているようですが、詳しい用件は聞きましたか?」
「はい。この前お話したダンジョンについてのようです。我々と同じように、隣国もその存在に気付いているようでした……」
「……クソ」
「……ベルン様? 何かおっしゃられましたか……?」
「いいえ、何でもないわ」
ベルンは気を取り直すように一息。
最近、ディストピアというアリアの住処を把握したばかりだ。
隣国が気にしているダンジョンというのも、このディストピアという場所なのだと予想される。
そうとなれば、隣国は敵だった。
「それで……どうなさいましょうか。これまでのように断ることも可能ですが、隣国と協力をした方がダンジョン攻略には良い気もします」
(どうしよう。断ってもいいんだけど……そろそろ厳しくなってるかも。むしろ、魔王様と打ち合わせをして、隣国の冒険者を一網打尽にしたら褒められるかな……)
ベルンの頭の中で、これからの展開がパラパラと繰り広げられる。
冒険者というのも、ベルンからしたら自分を守るための駒にしか過ぎないため、多少の犠牲は目を瞑る予定だ。
全てのことが、アリアを中心に考えられていた。
「分かりました。使者の方とお会いしましょう。準備をしますので、少し待っててくださいね」
「かしこまりました。使者にもそう伝えておきます」
従者は、その言葉と共に部屋を出る。
恐らく、ダンジョン攻略は協力してほしいと考えていたのだろう。
ベルンの考えが変わらないうちに――と、従者の姿は見えなくなっていた。
「アンナ。着替えるわよ」
「はい! ベルン様!」
アンナは、クローゼットから数ある服を取り出してベルンの前に立つ。
地味目のものから派手なものまで――その日の気分によって決めていた。
アンナに全てを任せてしまうと、パレードのような服装になってしまった経験があるため、今は取り出す係専門だ。
「こちらの服なんてどうでしょう!」
「……それはピエロ? 何でそんなのがあるのよ……終わったら捨てておいてね?」
「……はい」
しょぼんと落ち込むアンナ。
どうやら、このピエロ風の服に自信を持っていたらしい。
処分されるということを知らされて、重々しくその事実を受け止めていた。
「あんまりふざけている時間はないんだから……それじゃあ、このドレスにするから」
そう言って、ベルンは純白のドレスを選択する。
ドレスは、着るものが決まってからの方が大変だ。
アンナはドレスを着せるための行程を必死に思い出しつつ、クルクルとベルンの周囲を回りながら着せつけた。
「ベルン様、そう簡単に使者と会っても大丈夫なのでしょうか……? もし危険な相手なら、ベルン様のお体が心配です……」
「大丈夫よ、アンナ。ある程度の男に襲われても、勝てるくらいには強いんだから」
「そうなんですか!? 流石ベルン様です!」
憧れの視線が、ベルンの顔に突き刺さる。
実際に人間の冒険者程度なら、どれだけのランクでも勝つことは容易い。
数で襲いかかられるということも考えにくいため、アンナの心配は杞憂に終わりそうだ。
「でも、もしピンチになったらアンナに助けてもらおうかしら」
「はい! 任せてください!」
自信満々に、アンナは小さな力こぶを作った。
かなり頼りない山であるが、それが可愛らしく感じてしまう。
ベルンがプニプニと力こぶを数回触ると、またドレス着付けの作業へと戻るアンナ。
(……あ。思い切って魔王様のダンジョンに向かわせたら、まとめて片付けてくれるかも)
全ての作業が終わるまでの二十分間は、ずっとアリアの前に差し出す冒険者のことを考えているベルンだった。
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