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暇つぶし


「ふふふーん」


 ベルンは一仕事終えた後の自由時間を、尻尾のケアをして過ごしている。

 妖狐として、この作業はどうしても欠かせない。


 たとえ人間界であり、見せることのない部分だとしても、絶対に手を抜いたことはなかった。

 ここをサボってしまうと、本当に自分を見失ってしまうだろう。


 人間界で忙しい日々を送る中で、一番の娯楽かもしれない。


「本当は、アンナに手入れしてもらいたいんだけどなぁ……」


 そう呟きながら、ベルンはモフモフとした尻尾を見つめる。

 人間界に来てからは、妖狐であることがバレないように、尻尾はほとんどしまった状態だ。


 小さなことだが、その積み重なりが徐々にストレスを溜めていた。

 アンナに打ち明けることができたら、どれだけ楽になるだろうか。


 そういった有り得ない未来を想像して、ベルンはまたブラシに手をつける。


「ベルン様。少々お話があるのですか」


「……どうぞ」


 扉の前の声に、ベルンは耳をピコンと立てて反応した。

 一瞬だけアンナかとも考えたが、直後にただの従者であることが判明する。


 少し気持ちが萎えながらも、仕方なく女王らしい態度で従者の入室を許可することになった。


「失礼致します、ベルン様」


「用件は何かしら?」


「はい。冒険者のことなのですが……」


 続けてちょうだい――と、ベルンは従者の話を促す。


「何やら、正体不明のダンジョンが発見されたようなのです。情報はほとんどないのですが、気になっている者が多数いるらしいので……」


「ダンジョン……ですか?」


「そうです。冒険者からの情報なので、どこまでが真実なのかは分かりません。しかし、信じられないほど邪悪な気配を感じるようです」


 邪悪な気配――そして、ダンジョンというキーワードで、ベルンの頭の中にアリアの顔が浮かんできた。

 確実に関係しているとは断定できないが、触らないことに越したことはない。


 そうなると、ベルンのセリフはたった一つである。


「そのダンジョンには、向かわないようにしてください。ラトタ国の冒険者は、近付くことも許しません。良いですね?」


「そ、それは勿論でございます……が、よろしいのでしょうか……? 冒険者からの不満も考えますと……」


「私は、ラトタ国の冒険者のことを第一に考えています。不満は出るかもしれませんが、我慢するしかありません。もう少し情報が集まってからでないと、無駄に犠牲を払うだけです」


 ベルンは、それらしい理由で従者に指示を出す。

 即興で考えた理由であるため、少々粗があるが何とか誤魔化せる範囲だ。

 次の言葉を想定しながら、チラリとベルンは従者の顔を見た。


「そこまで冒険者たちのことを考えていらっしゃるとは……私の浅慮をお許しください」


 どうやら、従者に疑問を持たれるという展開は回避できたようだ。

 少しの罪悪感にも苛まれることなく、ベルンは心の中で静かに笑う。


「それでは、今言った通りのことを冒険者たちに伝えてくださいね。よろしくお願いします」


「かしこまりました!」


 従者は全てに納得したらしく、ビシッと敬礼をして部屋を出た。

 ベルンはその一連の流れを、女王としての余裕を持って眺めている。


 この選択が自分でも正解だったとは言い切れないが、何もしないというよりかは賢明だろう。


「あ! ちょっと待って!」


「は、はい……? どうなされましたか、ベルン様……?」


「アンナを部屋に呼んでおいてください」


「か、かしこまりました……」


 この後。

 一分後には、アンナが部屋にやって来ることになった。



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