メイドと女王
「ベルン様、先程は何があったんですか? よく分からない音がなりましたけど……」
「何でもないわ。心配してくれてありがとう」
「そ、そんな! メイド――いいえ! 一人の人間として当然のことでございます!」
アリアとリヒトが帰ったあと。
ベルンは昂った心を落ち着かせるために、アンナを部屋へと招いていた。
自分でも何故かは分からないが、アンナが近くにいると安心してしまう。
アンナは普通の人間であるため、特別な能力を持っているわけではないだろう。
しかし。
頭ではそう思っていても、現に落ち着いてしまう自分がいた。
「アンナ、もう少しこっちに来て」
「は、はい」
本当は、今すぐにでも先程の出来事を話してしまいたい。
それほどまでに、魔王と繋がれたのは大きな成長だ。
胸に秘めておくしかないモヤモヤ感が、ただもどかしかった。
「何だか……ベルン様、嬉しそうですね」
「……そう? 分かる?」
「はい。私まで嬉しくなってしまうほどです」
ベルンは、流れるようにアンナを隣へ座らせる。
キングサイズのベッドが、二人分の重さで小さな音を立てた。
「アンナ。貴女はこの国のことをどう思う?」
「ラトタ国ですか? えーっと……凄く良い国だと思います! 色んな人がいて、冒険者の人も強くて――何より、ベルン様が統治しているんですから!」
「フフ……ありがとう、よしよし」
「えへへー」
ベルンのご機嫌をとることに長けているアンナは、いとも容易くベルンの懐へと入り込んだ。
このようにアンナの頭を撫でていると、心が不思議な意識に包まれてゆく。
女王という立場になってしまってからは、アンナのように友だち感覚で話せるような存在がいなくなっていた。
人とは接するものの、全く楽しくない仕事漬けの毎日。
そんな違う種類の孤独感に包まれているところで現れたのがアンナだ。
メイドとしての能力が秀でているわけではないものの、言葉にはできないような部分の能力で女王のお気に入りまで昇格する。
これも、彼女の才能なのだろう。
妖狐であるベルンが、唯一心を許している存在だと言っても良い。
「あら……アンナの髪が乱れちゃった。クシを貸してちょうだい」
「へ? ま、まさかベルン様にそのようなことは――」
「遠慮しないで。私のミスなんだから」
アンナは少し考えると、観念したかのように携帯していたクシを手渡す。
ここで断る方が不敬だと判断したようだ。
ベルンは、アンナの肩先までかかっている髪を丁寧に整えていく。
クシを入れる度に、何とも言えない心地良さがアンナの頭を駆け回った。
もし尻尾があったとしたら、ブンブンと振り続けていたであろう。
「ねぇ、アンナ。ラトタ国じゃなくて、私のことは……どう思ってるのかしら?」
「……? ベルン様は、私たちのことをしっかりと考えてくださる御方です。私は、この世界で一番尊敬しています!」
らしくないことを言い出すベルンに、アンナは自分の思っていることを正直に伝える。
述べたこと全てが本心であり、嘘は一つも存在しない。
他の人間とは全く違うオーラが、アンナを狂信者と呼べるまで惹き付けていた。
「もし私が魔物になっちゃったら、それでもアンナは付いてくる?」
「絶対に付いて行きます!」
「がおー!」
「きゃー」
そこには。
女王やメイドの肩書きを忘れた、二人の女の子がいた。
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