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竜人たちの救世主


「竜人の里……やっぱり国というよりも、里という表現の方が合っていますね」


「人間よりかは少数で暮らしてるらしいな」


 竜人の里に着いた二人は、チラチラと入口付近で様子を伺っていた。

 そこには、かなり個性的な住まいが広がっており、尖っている家や丸く収まっている家など、規則性が見当たらないものばかりである。


 石で作られているその家々は、何とも言えない冷たさがあった。


「どうします? 突撃しますか」


「何でだよ。こういう時は、まず話しかけないと駄目だ。どこかに一人で歩いている竜人を見つけよう」


 リヒトは目を凝らして竜人の影を探す。

 話が出来そうな者――そして、それが一人であればベストだ。

 一人であるならば、話だけでも聞いてもらえる可能性が高い。


 二人以上になると、戦いになっても勝てるという判断をされ、先手を取るために問答無用で攻撃してくる場合がある。


 これまで自分の為に蓄えていた知識が、仲間のために使われることになるとは思ってもいなかった。



「あ! リヒトさん、いました! えっと……二人ですね。結構若い竜人です」


「二人か……でも、武器は持ってなさそうだし、他に竜人がいないから仕方ないか」


 二十分ほど探していた結果。

 ロゼが二人組の竜人を見つけることになる。

 今日だけたまたまなのかは不明だが、あまりにも竜人が見当たらない。


 あの二人組をスルーしてしまっては、今日中に出会えない可能性だってあった。

 妥協という形になってしまうが、危険性が無さそうだと判断し、一応不死身のリヒトが前に出て話しかける。


「こんにちはー……」



「――ラルカ姉さん。人間だ」


「カイン、気を付けて。男の方は人間だけど、女の方は人間じゃなさそう。かなり不気味な気配だよ」


 カインと呼ばれた少年は、魚が入っているカゴを地面に置き、爪を立てて威嚇のような行為をした。

 かなり警戒されてしまっているらしい。

 この様子だと、一人や二人組など関係なく戦いになってしまいそうだ。


「おい人間! 一体何の用だ。ここはお前らが来るような場所じゃないぞ」


「そんなに警戒しないでくれ! 俺たちは敵じゃない! 君たちと取引をしたくてここに来た!」


「……商人か。人間の持つものなど、大したことがないのは知っている! 今すぐ引き返すなら見逃してやるぞ!」


「それはこれを見てから言うんだ」


「――あの武器は!?」


 カインそしてラルカは、リヒトの取り出した武器に目を釘付けにされる。

 これほどまでに素晴らしい武器があっただろうか。

 一目見ただけで分かるほど、それは限りない輝きを放っていた。


 これを見逃してしまうほど、ラルカやカインは愚かな者ではない。

 そして、少しの希望が見えたような気がした。


「ラルカ姉さん。あれほどの武器を持つ人間なら……母さんを治せる薬を持っているかもしれない」


「まさかそんな夢みたいな話……でも、聞いてみる価値はあるかも」


 二人の意見が一致する。

 リヒトを普通の人間ではないと確信した二人は、藁にもすがる思いで一つの望みを賭けた。


「おい人間。例えば難病を治すような、そんな薬を持っていないか? もし持っているなら――いくらでもいいから、譲って欲しいんだ」



「薬……? ロゼ、持ってないか?」


「すみません、ニンニクしか持っていません」


「何でよりによってニンニクなんだ……ヴァンパイアなのに……」


 薬――それは、今のリヒトたちの荷物とはかけ離れているものだ。

 ニンニクは体に良いと聞いたことがあるが、明らかにカインたちの求めている物ではないだろう。


 ニンニクを渡したあかつきには、それこそ戦いが始まってしまうかもしれない。


「薬ってどういうことなんだ? 少し話を聞かせてくれ」


「……俺たちの母親は病床に伏している。それを治すための薬が必要なんだ。今持っていなくてもいい。あるなら持ってきてくれないか」


「それは……もしかしたら治せるかもしれないぞ」


「何だと?」


 カインの目の色が変わる。

 ダメ元で言った言葉に、望み通りの答えが返ってきたのだ。

 目では確認していないが、ラルカも同じような反応をしているであろう。


「……どうやってだ?」


「俺のスキルだよ。母親の所に連れて行ってくれたら、力になれるかもしれない」


「――グッ……もしそんな能力があるのなら、今証拠を見せてくれ! それならお前を信用してやる」


 最後に。

 カインはリヒトの力を確かめるため、一つの試練を与える。

 出会ったばかりで信用できるか分からない人間を、易々と母親の前に近寄らせるわけにはいかない。


 これは、絶対に必要な過程であった。


「証拠って言われても……これでどうだ……?」


 リヒトがそう言うと。

 カゴの中にいた魚が、何匹も蘇ったかのようにピチピチと跳ね始める。


 たまたまとは考えられない。

 そもそも、確実にトドメをさしたのはカイン自身だ。

 カインとラルカの視線は、この一瞬で神を見るかのようなものへと変貌していた。


「ラルカ姉さん、これって――」


「あの人が救世主……」


 突然現れた命を司る存在に。

 二人の竜人は無意識のうちに跪いていた。



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