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竜人の里


「ん? ラルカ姉さん、どうかした?」


 湖に立つ竜人の姉弟。

 そこで、姉であるラルカは何かを感じ取ったように手を止める。


 現在、罠にかかった魚を回収している最中であり、それを中断するほどの出来事だ。

 弟であるカインも手を止めざるを得ない。


「いや、何か嫌な予感がしたような――しないような?」


「……?」


「ごめん。でも、今日も早く帰った方がいいかも」


 カインの質問に、かなり曖昧な答えを返すラルカ。

 いつもはハッキリとした性格であるラルカが、このようになってしまうのは珍しい。


 熱でもあるのかと考えたが、また何事も無かったかのように作業に戻っている。


「……まあいいや。早く戻らないといけないのは本当だし」


「そうそう。お母さん、今かなり大変な状態なんだから」


 遊んでいる場合ではない――と、二人は活きのいい魚をカゴの中へ移し続ける。

 二人の頭の中にあるのは、病床に伏している母親のことだけだ。


 早く元気になってもらうため、汗を流しながら一生懸命作業していた。


「お母さん……本当に治るのかなぁ」


「何言ってるんだよ。そもそも、ラルカ姉さんがそんな弱気じゃ駄目だろ?」


「そうだけど……最近ご飯もあまり食べてくれなくなったし……」


 ラルカは悩んでいた。

 それは当然母親のことであり、弟に愚痴をこぼしてしまうほどである。


 弱っている母親は、まともに食事さえ取れていない。

 栄養を摂取出来ていないということは、ジワジワと死に近付いているということだ。


 いつかパッタリと死んでしまうのではないか――という思いが、四六時中ラルカの心に居座っていた。


「やっぱり、回復の魔法を使える人を呼んだ方がいいのかなぁ……」


「多分呼んでも意味が無いよ。怪我を治す魔法があったとしても、病気を治すような魔法なんて聞いたことがない」


「そう……だよね。ひ、ひとまず帰ってみようか。もしかしたら、ちょっとでも良くなってるかもしれないし」


 そんなことはない――二人は分かっていたが、口に出すようなことはしなかった。



***************



「何だか、外に出るとリフレッシュしたような気分になりますね。リヒトさん!」


「そうだな……えっと、たまには休んだ方が良いと思うけど……」


 リヒトとロゼは、アリアの指示で竜人の里へと向かっていた。

 本来はリヒトが一人で行く予定であったが、そこで急遽名乗りを上げたのがロゼである。


 身を粉にして働いているロゼの仕事が、一旦片付いたのがつい先日のこと。

 仕事の疲れをリフレッシュするための外出――というよりかは、何か仕事をしていないと落ち着かないというロゼの心を満たすための外出だ。


 日光を効率良く集めてしまいそうな、漆黒の傘をさしながらリヒトの隣を飛んでいる。


「それより、まさか空を飛ぶ日が来るなんて、考えてもいなかったよ」


「そうなんですか? 実際、空を飛んでみると楽しいですよねっ」


 リヒトは、服を掴むコウモリの力を感じながら、世間話のように話しかけた。


 歩いて竜人の里に行くとなると、やはりそれなりの時間がかかってしまうため、今回はロゼの力を借りて空の旅をすることになっている。


 ロゼはヴァンパイアの翼を使って、スカートがめくれないよう器用に飛ぶ。

 リヒトは、ロゼの使役しているコウモリに掴まって(掴まれて)初めての空中を味わっていた。


「ロゼって日光に当たっても大丈夫なのか? 一応ヴァンパイアだろ?」


「大丈夫ですよ。もう日光が弱点なんて時代は終わりました」


「そうなのか……」


 自慢げにリヒトを見るロゼ。

 しかし、素肌を出さないような長袖を着ていることから、弱点ではないものの苦手ではあるようだ。

 頭にも、日光が大嫌いだと言わんばかりの大きな帽子をかぶっている。



「そうだ、リヒトさん。竜人の里に着いたら、まず何をするんですか? いきなり襲われたらどうします?」


「いきなり襲われたら……戦うわけにもいかないしなぁ……」


「え? 戦ったらダメなんですか?」


「うん。武器や防具を加工してもらいたいから、竜人と仲良くなってほしい――って、アリアが言ってた」


 復活したばかりのディストピアには、武器や防具を作れるような設備が揃っていない。

 竜人と親交を深められれば、来てもらうことは不可能でも、依頼くらいはできるはずだ。


 今回は竜人に興味を持ってもらうために、アリア秘蔵の武器まで貸してもらっている。

 そう簡単に失敗するわけにはいかなかった。


「あ、リヒトさん。竜人の里が見えてきましたよ。掴まってください!」


「――へ?」


 どうやって下りれば良いのか分からずにいるリヒトを、ロゼは飛び込む形で抱きかかえた。

 これからは、ロゼの翼で着陸することになりそうだ。


 手を離した日傘は、ポンという音を立ててコウモリに変わり、そしてまた音を立ててアクセサリーへと変わる。


「到着ですよっ!」


「お、おう……」


 ロゼの声が、キーンとリヒトの耳の中で響いていた。



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