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ロゼの戦い方

「いい加減にしろ。どこまで馬鹿にすれば気が済むんだ」

「…………ンフフ。それは初めて見る表情です」


 堪忍袋の緒が切れた。

 いくら優しい心を持つロゼと言えども、もう我慢することはできない。


 ランシアが触れてはいけないところに触れてしまったから。

 アリアを馬鹿にするというなら、たとえ相手が誰であろうと関係ない。

 ロゼはランシアに一歩近付く。


「ランシア様、遊びすぎです。早くこのヴァンパイアを殺して報告に戻りましょう」

「そうね。久しぶりだったからはしゃいでしまいましたわ」

「――ということだ。貴様、覚悟しろ」


 さっきからずっと傍観していた眷属が、待ちくたびれたようにランシアの隣に立つ。

 ランシアの危機を察したからなのか、それともただ単純に待つことに飽きただけなのか。

 どちらにせよ、戦いが始まることに変わりはない。


 ランシアの眷属ならば、能力もそれなりに高いはず。

 何も考えずに戦うことを選択してしまったが、今は自分が不利と言わざるを得ない状況だ。


「じゃあね♪ ロゼ」

「――!」


 ランシアの爪がロゼの頬を掠める。

 やはり早い。

 ロゼの反射神経でも完璧には躱しきれず、頬に三本の傷が付いた。


 まともに食らっていたら、顔の筋肉が引き裂かれていただろう。


「あら? 逃げないでください――眷属、囲い込め」

「はっ!」


 ランシアの命令に、眷属は素早く従う。

 ランシアがいつもの喋り方をやめた時。


 それは、彼女が本気で集中している証拠だ。

 眷属は距離を離すロゼに近付くのではなく、逃げ場を塞いでランシアをサポートするように動いた。

 一方向からではなく二方向からの攻撃。


 どちらかに集中すれば、どちらかがおろそかになる。

 ここから逃げることもできない。

 勝負は決まったようなものだ。


 ――ロゼが普通の相手であれば、だが。


「その判断は大間違いです」


「――なにっ!?」


 サポートに回っている眷属が、ランシアの手の届かない範囲に行ったのを確認すると。

 ロゼは急に方向を転換して眷属の方へ突っ込んだ。

 まさかランシアに背を向けて攻撃を仕掛けてくるとは。


 普通なら絶対にしないような発想。

 眷属も驚きで対応が遅れてしまう。

 そして。


 コンマ一秒を争うこの場で、それは死に直結する問題だった。


「――っぐぐうおおおぉぉお!?」


 ロゼの体当たりで壁にヒビが入る。

 ロゼと壁で押しつぶされただけでも、眷属の内臓はズタズタの状態だ。

 しかし、ヴァンパイアの生命力をもってすれば、これでも致命傷には届かない。


 それが分かっているロゼは。

 鋭い爪で眷属の体に右手を突っ込み――心臓を握りつぶした。

 ヴァンパイアを確実に殺すなら、心臓を破壊するのが一番だ。


「ロゼェェエエエエー!」

「……チッ」


 眷属の死で焦りを見せたランシアは、ロゼの名を叫びながら爪を立てる。

 できるだけランシアと離れた場所でのとどめ。

 それでもノーダメージで一対一に持っていけるわけではない。


 そんなことはロゼも重々承知している。

 だからこそ、このダメージは一対一の状況を作るために必要な代償だ。

 防御はギリギリ間に合う。


 ロゼは急いで振り返ると、背中を狙ったランシアの爪を腕で庇った。


「いっ……つぅ!」


 痛みに耐えるロゼ。

 腕の肉が裂けて骨も見える。


 軽傷とはとても言えないダメージだ。

 だが、これでいい。

 もし防御が間に合っていなければ、同じ傷を背中に全て受けていた。


 そうなっていたら、もう戦いどころではないだろう。

 ランシアは致命傷を与えるチャンスを逃し、自分は眷属を殺した。

 素晴らしい判断だと自分を褒めてあげたい。


 昔アリアに教えてもらった戦い方だ。


「はぁ……はぁ……クク。痛そうね、ロゼ」

「……この程度のダメージでイキがらないでください。ほら――」

「うっ……!?」


 ロゼはランシアのみぞおちを蹴り上げる。

 防御はしようとしていたみたいだが、少しだけ遅い。

 純粋な反射速度の問題だ。


「オ、オエェっ……! ロゼェ!」

「立たないんですか? 今のなんて傷にもなっていないのに」

「ちょ……待って……息が」

「……は?」


 ロゼは言葉が出ない。

 ランシアはうずくまってお腹の辺りを押さえていた。

 苦悶の表情。


 みぞおちを攻撃したため呼吸ができないのは分かっているが、敵の前でこんな姿を見せるとは。

 殺してくださいと言っているようなものだ。

 ロゼはランシアの髪を掴んで顔面に膝蹴りを入れる。


「アアアアァァァ!?」

「ランシア……戦いの経験が少なすぎです」


 みっともなく喚くランシア。

 そんなランシアに、ロゼは呆れたように言い放った。

 ランシアの攻撃力は申し分ない。


 これは元々ランシアが持っているポテンシャル。

 ヴァンパイアとしての実力だ。

 だが、ここで問題なのはダメージに対する耐性があまりにもなさすぎること。


 一回の攻撃で、まるで子どものように痛がっている。

 格上、もしくは自分と同程度の実力を持つ敵と戦ってこなかったのだろう。

 絶対に反撃してこない相手にばかり攻撃していたツケが回ってきた。


 そんなランシアにロゼが負けるわけがない。


「ランシア。ヴァンパイアが同族に吸血されたら、どうなるか知っていますか?」

「し、知らない……」

「炎に燃やされるような苦しみの中、何時間もかけて死ぬことになります。……アナタもね」


 ロゼはランシアの首を掴んで服の胸元を破る。

 吸血がもっとも行いやすい角度。

 ランシアが抵抗しようとしても、ダメージのせいで力が思うように入らない。


 このままでは殺されてしまう。

 それを察したランシアは、咄嗟に口を開いた。


「ロ、 ロゼ! 私を殺している暇なんてあるんですの?」


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