後始末
「いったぁ……」
兵士に蹴り上げられたお腹を触りながら、ミズキはズキズキとした痛みに不満を吐き捨てる。
一人の兵士だけ生きて帰したのは良かったが、まさか蹴ってくるとは考えてもいなかった。
久しぶりに与えられた痛みであるため、なかなかその感覚が消えることはない。
とりあえず今は、顔を傷付けられなかっただけマシと考えておく。
「おいおい。一人逃げてしまったではないか。あと、その腹は大丈夫か?」
「……うん。大丈夫」
「なら良いのじゃが。次からは気を付けるんじゃぞ」
ミズキと人間たちの一部始終を見ていたアリアは、小さな体を利用して直接窓から飛び降りてくる。
予想通りミズキと兵士の会話は聞こえていなかったらしく、ただ単にミズキが油断して兵士を取り逃がしてしまったと認識しているようだ。
ダメージは受けてしまったが、会話が聞かれていないのなら問題はない。
これで魔王との関係も人間からの攻撃も心配しなくていいだろう。
ミズキは全てが上手くいったことに安堵しながら、お腹の痛みを我慢して立ち上がる。
「とにかくお主は合格じゃ。儂はビビッて結局何もできぬと思っておったぞ。なかなかやるではないか」
「……失礼な」
「それに、蒼い炎は初めて見た。頼りになりそうな魔法じゃ」
「……それはありがとう」
アリアの口から出る、茶化すような言葉とシンプルな誉め言葉。
ミズキはそのどちらもを受け取ると、一つ大きなため息をついた。
「……今日は誰かのせいで早起きしちゃったからもう休む」
「そうか、かなり健康的な生活じゃな。今度はもう少し遅い時間に訪ねるのじゃ」
「また来るの?」
「うむ。暇でどうしようもない時に来るのじゃ」
それじゃ――と、アリアは大きくジャンプして視界から消える。
暇な時とはいつなのか。
事前に連絡は貰えるのか。
そもそもアリアはどこに住んでいるのか。
それらの疑問を投げかけることもできず、半ば強引に別れる形となってしまった。
「……行っちゃった」
アリアが消えていった空を見上げて、ミズキはそう呟くことしかできない。
元々自分の家の前であるのにもかかわらず、何故か置いてかれたような気持ちである。
(……まぁいいか。それより――)
気を取り直したところで。
ミズキは恐る恐る横にある黒焦げの死体を見る。
アリアに帰られてしまったため、この死体を掃除するのは自分の仕事だ。
怪しまれないよう威力の高い魔法を放ったということもあり、自分でも引いてしまうほど無惨な光景になっていた。
「掃除の魔法も勉強しとけば良かった」
ミズキは今日何度目か分からないため息をつきながら、嫌々転がっている死体に手をつけ始めたのだった。




