不運
「……ありえない」
全方位からアリアへと目掛けて飛んでいく剣。
十数本もの量であるが、それらは一本もヒットすることなくかわされてしまった。
それだけでなく、かわす度にアリアの余裕が増しているようにさえ思える。
何か能力を使っているというのは分かるが、それがどういうものなのか全く見えてこない。
ここまで得体の知れない存在は初めてだ。
「儂が何をしたか分からん――って顔じゃな」
「……」
ニヤリと笑いながら、アリアは一歩ずつ玉座へと近付いて行く。
自分が負けることなど微塵も考えていない――そんな顔だった。
このような態度を取られると、西の魔王としてのプライドも黙っていない。
剣を飛ばして様子を見るのはもう終わりだ。
ドロシーを殺した時と同じように、念力をアリア本体に向けて行使する。
剣と違って目に見えるものではないため、避けることはどうやっても不可能だ。
「――ほぉ」
アリアも異常に気が付いたらしい。
足や腕だけでなく、体全身に今までにない負担が訪れた。
まるで自分の周りだけ重力が数百倍になったかのような感覚。
ドロシーいわく、まともに動くことすらできなかったという話であったが、それも理解できるような気がした。
「なかなか面倒な技じゃな。こうして動けなくさせているうちに始末するつもりか」
なるほど――と納得するアリア。
本来なら、全力で捻り潰そうとしている念力に耐えているアリアが異常なのだが、それには気付いていないようだ。
このままだと、本当にアリアが言っているような戦法になってしまう。
「……どちらにせよもう終わり。このまま動けずに死ね」
ようやく玉座から立ち上がり、動けないであろうアリアの元へと近付いていく。
念力に押し潰されず耐えられるのは予想外だったが、手順が一つ増えただけだ。
ドロシーのように首をへし折っても良し、確実に殺すため首をはね飛ばしても良し。
生殺与奪の権利は完全に西の魔王が握っている――はずだった。
「――ヴッ!?」
西の魔王がアリアの首に手をかけた途端。
逆にアリアが、西の魔王の首を力強く掴んだ。
念力を弱めたつもりはない。
今アリアは、深海の水圧を優に超える力を受けているはずである。
どうしてアリアに笑っている余裕があるのか。
その圧倒的な力に理不尽さを感じていた。
「お主は運が悪かったな。リヒトに目をつけたのは流石じゃが、ちょっとばかし遅かったようじゃ」
「グッ……!」
アリアの言う不運。
リヒトの性格だと、先に声をかけた方の仲間になっていたであろう。
もしも西の魔王が。
リヒトが処刑された後に声をかけることができていれば、未来は変わっていたかもしれない。
「ちなみに。剣をかわす時には能力を使ったが、今は能力を使っておらんぞ」
最後までアリアの能力が分からないままで。
西の魔王の意識はプッツリと途切れた。




