手紙
「……まずいわ。この反応はどう考えても……」
ベルンは一人で頭を抱える。
リヒトたちのために馬車を手配した後、信じられないほど大きな魔力を感じ取ることができた。
当然ただの魔物ではない。
かつてアリアが噂していた魔王の中の一人であろう。
ベルンが反応できるということは、既にこのラトタ国へ近い距離にいるはずだ。
「ベルン様? どうなされました?」
「…………」
「……ベルン様?」
「――あっ、何でもないわ。アンナ」
心配そうにベルンの顔を見るアンナ。
どうやら、緊迫感が表情にも出てしまっていたらしい。
今更国民たちに伝えたところで、迫り来る魔王に対応するには遅すぎる。
むしろ、無駄に混乱を招くだけだ。
たとえ信頼しているアンナにでさえ、この情報を伝えるわけにはいかなかった。
(……と、とにかく、リヒトさんとドロシーさんがラトタ国に到着しているはず。すぐにでも来てもらわないと……!)
不幸中の幸い。
今この国には、リヒトとドロシーが訪れている。
味方がいないわけではない。
ベルンがこれからするべきことは、どのような手を使ってでも二人とコンタクトをとることだ。
既にアリアには連絡を送っているが、間に合うことを前提で考えない方がいいだろう。
「アンナ、城にいる兵士を集めてちょうだい。それと、リヒトさんとドロシーさんを街の中から見つけ出して」
「――は、はいっ! えっと……リヒト様とドロシー様ですね」
アンナはベルンの命令を受けると、すぐに部屋の外へと駆け出して行く。
恐らく、リヒトとドロシーの名前は初めて聞いたはずだ。
普通の部下なら、誰でしょうと疑問を持つはずだが、アンナであればその過程を省くことができる。
今は時間が惜しいため、通常なら有り得ないアンナの行動も最適解であった。
「……ふぅ」
アンナのドタバタとした足音が段々聞こえなくなる。
部屋にたった一人。
この静寂の空間が、ベルンの頭をやっと冷やしてくれていた。
大きく深呼吸。
一秒でも早く二人が見つかることを祈るしかない。
(大丈夫……リヒトさんがいるから、きっと私が死ぬことはないはず……もし妖狐であることが人間にバレたとしても、その人間を殺せばいいだけだし)
ベルンは、無理やりにでも今の状況をポジティブに受け入れられるように模索する。
こうでもしなければ、緊張だけで吐いてしまいそうだ。
リヒトがいると分かっていても、やはり死ぬことは怖い。
緊張を緩和するために、体が勝手に笑おうとしている。
「――っ!? なに!?」
ヒヤリと肩に走る冷たさ。
これまで生きてきた中で、初めて体験するものだ。
そこにいたのは一匹の死霊。
もう敵が訪れたのかと身を構えたが、襲ってくる気配は一向にない。
その変わりに、死霊は一枚の紙をベルンに手渡した。
「……? 手紙?」
その手紙には。
ただ一言――そこを動かないでください、と綺麗な文字で書いてあった。
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