懐柔
「ねぇ、リヒト。人間界に行ってみない?」
「……え?」
今日の分の仕事を終えたリヒトに、ドロシーはササッと近付いて話しかけた。
リヒトとドロシーは数週間ほど連勤しているため、そろそろアリアから休暇の許しが出てもおかしくない。
休暇の時間をずっと読書に費しても仕方ないとドロシーは判断したようだ。
「ほら、たまたま休暇の期間が被ってるのがリヒトだし。リヒトとボクなら同じ人間だからさ」
「でも人間界は――」
「もちろんレサーガ国なんかじゃないから。ボクだってあんな国に行きたくないさ。魔王様の友達がいるラトタ国に行こうよ」
「んー……それならまあ――うーんでも」
なかなか踏ん切りがつかないリヒト。
もし休暇が貰えたら、ずっとダラダラしようと考えていたため、なかなかうんと頷くことができなかった。
レサーガ国ではないというのは大きな点であったが、人間界であるのことに変わりはない。
旅行感覚で行くような場所ではないだろう。
「いいじゃんリヒトー。久々にショッピングとかしてみたいんだー」
「……もし一人で行けって言ったらどうする?」
「…………ごめんね? 無理に誘ったりして……グスッ」
「――行くから! 俺も行くから!」
ほぼ反射的にリヒトはオーケーの返事を返す。
確かにドロシーは涙をポロリと流したはずだが、気が付くともう満足そうに微笑んでいた。
騙されたか――という疑惑が一瞬だけリヒトの脳裏に過ぎるものの、すぐにブンブンとその考えを取り払う。
仲間にそのような疑いはかけたくない。
そもそも了承してしまったため、今更そのことを考える必要もなかった。
「ありがとねー、リヒト。魔王様には既にリヒトの分の休暇を貰ってるから心配しないで」
「え? それって最初から――」
まあまあ――と。
リヒトが聞き返そうとしたところで、ドロシーに軽く流されてしまう。
いつの間にか、後はもう出発の準備をするだけの状態になっていた。
「一応聞いておくけど、アリアは許可を出してくれたんだよな? 勝手に行動して怒られるのはごめんだぞ?」
「もちろん。魔王様は優しいからね。お土産買ってくるって言ったらすぐにオーケーだった」
「買収されてるし軽すぎるだろ……」
意図せずアリアのチョロい一面を見ることになったリヒト。
イリスやティセに悪用されては困るため、このような情報はリヒトで絶対に塞き止めておかないといけない。
「それじゃあ、明日迎えに来るからよろしくね。お金はボクが用意するから心配しなくていいよー」
「……ああ」
最後までずっとドロシーに流される形。
リヒトは難なく懐柔されてしまった。
これから、深いため息をつきながら自分の部屋に戻ることになる。
ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!




