和解
「リヒトさん! あのっ! 申し訳ありませんでした!」
「……へ?」
ラエルたちがエルフの国へ向かったという報告を聞き、安心してくつろいでいたリヒト。
そんなリヒトの前に現れたのは、ここにいないはずのラエルであった。
出発前とは打って変わって、誠意に溢れた気持ちをリヒトに向けている。
この短時間で何が起こったのか。
あまりにも飛躍した出来事で、リヒトの理解は追いつかない。
「急にどうしたんだ……?」
「私は……リヒトさんに対して酷いことを言ってしまったのです。全くリヒトさんの気持ちを考えていませんでした。リヒトさんは人のために能力を使っているだけなのに……」
ラエルの懺悔にも似たセリフ。
人のために使っている――という箇所には少し間違えもあったが、それを指摘するほど空気が読めないリヒトではない。
それに、ここまで反省しているのだ。
途中で話を折れるわけがなかった。
「とにかく……! 色々すみませんでした!」
「大丈夫だよ」
「……え? 良いのですか?」
ラエルは深く下げていた頭を、ヒョイっと上げてリヒトの顔を見る。
これほど簡単に許してもらえるとは思っていなかったのだろう。
追加で用意していた謝罪の言葉が、もう必要なくなってしまった。
「別に俺は気にしてないよ。むしろ、こっちだってラエルのことを考慮できてなかったし――お互い様だな」
「で、ですけど――!」
「ラエルも気にするな。分かってくれたなら、それでいいんだから」
それ以上、ラエルの口から言葉は出てこない。
いい人ではないけど悪人でもない――イリスの言葉の意味が分かったような気がした。
「……えっと。すぐ帰ってくると思わなかったから、そろそろドロシーの所に行く約束をしてたんだけど――行ってもいいか?」
「あっ。は、はい……」
ラエルの返事を聞くと、リヒトは軽く手を振ってその場から立ち去る。
もう少しだけ話したい気持ちもあったが、わざわざ止めることも不可能だ。
ただただ、その背中を見ていることしかできなかった。
「……行っちゃったのです」
「そうじゃな」
「――!? いつの間にいたのですか!?」
零れるような独り言に返ってきた相槌。
その声の主は、決して忘れられない魔王である。
どの段階からここにいたのかは分からない。
もし謝るところからなら、かなり恥ずかしいところを見られてしまったということだ。
「い、一体何の用なのですか!」
「そう警戒するでない。もう仲間ではないか。じゃろ?」
「――うっ……」
それで――と、アリアは話を続ける。
「お主を心配しておったのじゃが、もう問題なさそうじゃな。最初に比べると何倍もマシになっておる」
「……」
「エルフの国で何があったのかは気になるところじゃが、イリスかティセに聞かせてもらうとするかの」
「……別に何も無かったのです」
ラエルは恥ずかしさを隠すように下を向き、ただ一言そう告げた。
アリアから溢れ出す不気味な雰囲気に、まだ慣れることはできない。
ずっと蛇に睨まれているような感覚だ。
「フフ。まあ良い、リヒトに感謝するのじゃぞ――貴重な命じゃからな」
「……っ!?」
ゾワッと体を襲う寒気。
別れ際のアリアのセリフは、いつまでもラエルの頭の中で響き続けていた。
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