客人
「アルシェ様。客人でございます。どうなされますか?」
「客人? 珍しいですね。どなたでしょうか?」
「ハイエルフと思われる姉妹と、一人の人間でございます」
「あら……イリス様とティセ様だとすると、もう一人はリヒト様でしょうか。通してあげてください」
「かしこまりました」
ハイエルフの姉妹と人間――この情報だけでも、客人を予想することは容易い。
アルシェの頭の中に、その条件に当てはまる者たちは一人ずつしかいなかった。
幸いなことに、ちょうど仕事が終わったばかりであり、出迎えられるほどの余裕はある。
わざわざ三人の方から訪ねてくるとは、只事ではなさそうだ。
話を聞く義務が、アルシェにも当然あるだろう。
(ですが、こんなに唐突なんて。何か大変なことが起きたのでしょうか……)
三人の要件を一応予想してみるものの、心当たりはどこにもない。
ディストピアに派遣しているエルフたちの評判も、かなり良いものだったと記憶している。
自分たちがミスをしたというわけではなさそうだが、まだまだ不安な気持ちを取り除くことはできなかった。
「……アルシェ様、本当に大丈夫なのでしょうか? 客人はやけに周りを気にするような態度で、怪しいというわけではないのですが……少し」
「フフ、あなたは心配しなくても大丈夫です。悪い人じゃない――と言って良いのかは分かりませんけど……」
「……?」
そう言って、一人の従者が三人を呼びに部屋から出る。
アルシェは、まだ他のエルフたちに魔王軍のことを伝えていない。
余計な混乱を招かないためという理由であるが、時間が経つに連れて、言い出すタイミングを完全に見失ってしまったのだ。
強者には従うべき――その考えはきっと理解して貰うことができる。
しかし。
エルフたちの中には、魔王に怯えてしまう者もいるかもしれない。
伝えるべきか伝えないべきか――アルシェの中で、この問題はずっと解決できずにいた。
「アルシェ様、何か問題があるのでしょうか? 危険というのなら、私が追い返すことも可能ですが」
「いえいえ、そういうことではありませんから」
アルシェの見せた迷いの表情が、意図せず従者の不安を煽る。
遺伝子にまで刻まれている忠誠心は、主の僅かな表情の変化でさえ見逃さない。
アルシェ自身としては、従者と共にいる空間でリラックスできないという問題もあるが、簡単に治せるようなものでもなかった。
「……それでは、客人をお呼び致します。数分ほどお待ちください」
「よ、よろしくお願いしますね」
渋々納得した様子で。
従者は務めを果たすために部屋を出る。
日頃から何度も繰り返し教えているため、いきなり客人に向かって手を出すことはないはずだ。
コキコキ――と、首を鳴らすような音がどこからか聞こえてきたが、それは従者のものでないと信じたい。
ブクマ、評価、感想よろしくお願いします!




