サポート
「あの、血は拭けました。もう泣かないでください」
「……ありがとうなのです」
「…………」
ロゼは備え持っていたハンカチで、返り血と涙を拭き取る。
いつもなら元気よくお礼を言っていたであろうラエルだったが、今は形だけの静かな言葉だけだ。
明らかに気分が沈んでおり、到着したばかりのリヒトとロゼでは追いつくことができない。
「ラエルさん……どうなされたのでしょうか?」
「分からない……けど何かあったのかもな。もしかすると、あの人間たちに何か吹き込まれてたり」
「なるほど――クッ。あの時気付くのが遅れなければ、こんなことには……」
悔しそうに過去の自分を責めるロゼ。
ラエルがこのような態度になった原因は、全て自分のせいであると思い込んでいるようだ。
精神的な傷は、肉体的な傷よりも厄介である。
「まさか、私たちが嫌われたってわけじゃないですよね……?」
「……どうだろう。人間を殺すことに、かなり反発している様子だったからな」
「そ、そんな……! ラエルさんには、衝撃が強過ぎたのでしょうか……」
ガックリと――絶望した表情をロゼは見せた。
頭の中で謝罪の言葉を考えているらしく、アワアワと小刻みに動いている。
「すみません、リヒトさん。少しだけ一人にしてもらっても良いですか? 遠くに行くということはないですから」
「あ、あぁ……俺たちは先に戻ってるぞ」
このラエルの行動を、リヒトが止められるはずはない。
触らぬ神に祟りなしだ。
落ち着いてくれさえすれば、まだ話はできる状態になるかもしれない。
そんな淡い希望を抱きながら、フラフラとどこかへ離れて行くラエルの背中を見つめていた。
「大丈夫なんでしょうか……今からでも、謝ってきた方がいいですかね」
「いや、今は何も言わない方がいいと思う。一人になりたいって、よっぽどのことだろうし」
「私は……ラエルさんの考えがあまり分かりません。人間であるリヒトさんに、色々教えてほしいのですけど――」
「ごめん、俺もよく分からない」
ヴァンパイアと人間では、思考の大事な部分が大きく違う場合がある。
ロゼがリヒトを頼ろうとするのは必然とも言えた。
誤算だったのは、リヒト自身もよく分かっていないということだけだ。
「それじゃあ、機嫌が良くなってくれるのを待ちましょう! もしダメなら、魔王様の力を借りて!」
「アリア……には期待しない方がいいかも」
「じゃあフェイリスですか?」
「……案外ありかも」
ラエルのサポートをするのは。
リヒトでもアリアでもなく、また別の誰かなのかもしれない。




