姉弟喧嘩
「ラルカ姉さん。加工の進捗はどう?」
「うん! やっと仕上げが終わった! これなら、リヒトさんも満足してくれると思う!」
「やったね。まさかここまで時間がかかるなんて……見たことの無い素材だし、どれだけ価値があるのかすら分からないよ」
竜人の姉弟であるラルカとカインは、作業場で必死に汗を流していた。
リヒトが二人に渡した武器は、驚くほど加工が難しく、とても気の長くなる作業が必要である。
今の段階に至るまで、かなりの時間を費やしてしまった。
「やっぱり、本当に凄い人だったのかも。最初あれだけ威嚇しちゃったのに、全然怒っているような気配はなかったし……」
「余裕ってのがあるんだろうね。まぁ、あれだけの能力を持っていたら当たり前か」
出来上がった武器を太陽にかざしながら、ラルカは零すようにその言葉を呟く。
武器の隙間を掻い潜って顔に当たる眩しい光が、作業の終わりというものを実感させていた。
「とにかく、リヒトさんが来るまでに間に合って良かった……当分ここに来ていないからって、油断はできないしね」
「そうだね、ラルカ姉さん。恩を返さなくちゃいけないのに、こんなところで躓いている場合じゃないよ」
カインは、ラルカからその武器を受け取ると軽く空中で振り回す。
この数秒の動きだけでも、この武器の切れ味を感じることが可能だ。
軽く――そして鋭い。
建物であろうと地面であろうと、豆腐のようにスパッと切れてしまうだろう。
絶対に値段が付けられない代物であった。
「そういえば、最近人間たちがこの辺りを彷徨いているらしいけど……知ってる? 何が目的なのかは分からないし、無視してても良いのかなぁ?」
「人間たち? この武器を狙ってるのなら、間違いなく盗賊か何かだと思うけど、みんなに言っておく?」
うーん――と、二人の中で考えが交差する。
人間が彷徨いているというのは、あくまで噂でしかない。
その不確かな情報で、仲間を混乱させるのには抵抗があった。
「カイン。あんたが言い出したんだから、自分で確かめてきてよ」
「え? 嫌だよ、この武器の仕事で疲れてるのに……」
「言うじゃない。徹夜してずっと研ぎ続けてたの誰だと思ってるの?」
「それを言ったら、形成の作業なんて全部俺に任せてたじゃん!」
いい度胸ね――とラルカは一歩近付く。
カインの口調も、ヒートアップしていくにつれて弟らしさが現れていた。
子どもの頃のように、気取らず素直な気持ちをぶつけている。
「来なさい。昔みたいに泣かせてあげる」
「姉さん、遠慮はしないから」
カインとラルカは、お互いの手をガシリと掴んで力を入れる。
ここからは単純な力比べだ。
先に屈服した方が負けであり、約十年ぶりの再戦であるため、決着はどちらに傾くか分からない。
これまでは、ずっとラルカが勝利してきたため、カインは姉の下から脱出する唯一のチャンスだった。
『はわああぁぁ!? 落ちるのですー!!』
優勢なカインがあと一歩のところで。
二人の決闘を邪魔する何かが、近くの森に落ちてきた。
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