ソフィーナ
扉を開けると、そこには薄桃色の髪と目を持つ、ととのった顔をした、二十歳前後の女がいた。
メイド服を着ているので、やはり新しく入った使用人だろう。
ただ、少し不思議な気配を感じる。なんだろうか。
「あ、すいま…て君それ大丈夫なの!?」
その女は、俺を見て驚いた声をあげた。
まあ、体中傷やぼろ布の包帯だらけの四歳の子どもがいれば驚くか。
「ごめんなさい。上がらせてもらうわね。」
そう言って、女は家の中に入ってきて、何かを探すような素振りをした後、仕方無さそうに床に食事をのせたおぼんを置く。
おそらく机の上にのせたかったが、無かったため仕方なく床に置いた、といったところか?
「ごめんなさいね、勝手にあがって、それで、君、名前は?どうしてこんなところにいるの?お父さんとお母さんは?その怪我はどうしたの?いじめられてるの?」
おそらく俺を心配してくれているのだろうが、そんな矢継ぎ早に聞かれても答えられない。
それにしても、やっぱり俺を知らないようだが…
【鑑定】してみる。
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ソフィーナ
種族:人間
性別:女
年齢:19
筋力: 5
耐久力: 5
体力: 5
生命力: 12
魔力: 48
敏捷: 5
スキル
【聖気LV.7】【神聖魔法LV.1】【光魔法LV.1】【回復魔法LV.4】【魔力感知LV.1】【魔力操作LV.1】【生活魔法LV.5】【掃除LV.4】【洗濯LV.4】【料理LV.4】
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なんか地味に凄そうなんだが。
【聖気】?見たこと無いスキルだ。
おそらくさっきからこの女、ソフィーナから発せられている不思議な気配の正体だろう。
この女、何者だ?
聞いてみるか。
「あんた誰?」
「あ、良かった。喋れるのね。えっと、私はここで働いているの。ソフィーナっていうのよ。あなたのお名前は?」
やはり使用人か?
そして俺は話せないと思われていたのか。
まあいい。それより名前か。なんて答えよう。
まあ、タクトでいいか。ステータスにもそう表示されているし。
「タクト。」
「へー。タクト君ていうのね。それで、なんでこんなところにいるの?お父さんとお母さんは?」
「知らない。会ったことない。」
俺がそう言うと、ソフィーナは、悲しそうな顔をして、俺を抱き締めてきた。
暖かい。
「そう。辛かったね。頑張ったんだね。」
そう言って、頭を撫でてくれた。
気づくと、俺は嗚咽を漏らして泣いていた。顔をぐちゃぐちゃにして、ソフィーナに抱きついていた。
やはり俺は、自分が思っていた以上にまいっていたのだろう。
今までなんとか耐えてきたが、ここにきて、ソフィーナの優しさに触れて、心のダムが決壊したようだ。
そのまま、俺はしばらく泣き続けた。
ソフィーナは、服が汚れるのも気にせず、俺が泣き止むまで抱き締めてくれていた。
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「ごめんなさい。本当は、もう少しここにいて、色々してあげたいのだけれど、そろそろ時間が無くて…。でも、夜にまた来るから、それまで待っててね。」
そう言って、ソフィーナは去っていった。
それはそうだ、ソフィーナは使用人。仕事がある。それなのに、しばらく俺の相手をしてくれたのだ。感謝しかない。怒られて無ければいいが。
ソフィーナが持ってきてくれた、昼食を食べながら考える。
髪や目の色で差別しない人間に会えたのは、とても幸運だ。これで、世の中の情報を得る事ができる。
だが、それ以上に、心の支えになってくれるような人がいるのは、とてもうれしい。
夜が来るのが、待ち遠しかった。




