真剣
~ラインハルト~
それからしばらく俺は、弟であるタクトをひたすらいじめた。
時間があるときは、剣や徒手での暴行で武術を教え、時間が無ければ魔力暴走を起こし、魔力えの耐性や魔力操作を鍛えた。
他にも食事に毒や薬を盛って、耐性をつけさせたり、分身などを使い、夜中に強い殺気を出しながら襲撃するなどして、危機察知能力を身に付けさせた。
そうすれば、半年もすればそれなりになる。
特に剣術や体術で、相手の攻撃をいなすのは格段に上手くなった。
ま俺が動きを誘導して、一度でも完璧な“いなし”を。まぐれでたまたまできたようにやらせれば、後はその動きを目指すようになる。
この子にまず必要なのは、相手を打ち倒す力ではなく、生き残る力だ。
だから俺は、この半年、出来るだけ死にくくなるよう鍛えてきた。
そして、あの子自身も、俺の技を盗んだり、自分で試行錯誤して強くなる努力をしている。
その目には激しい憎悪が宿っていて、いつか殺してやると言わんばかりだ。
まあ、そう仕向けたのは俺だし、望むところだ。
半年か…
さて、そろそろ次のステップに行くか。
今日もあの子の所に来ている。
さて、いつもはタクトが気配をギリギリ感知できるかできないかぐらいで後ろに立ち、殺気もそのぐらいで蹴りを入れるが…
ドゴッ!
「今日も来てやったぞ。」
今日は完全に消していつもより強めに蹴りを入れる。
弟は驚いたようだが、すぐに殺意をたぎらせながら、こちらを睨む。が…
「ふん。」
「ガハッ」
俺はまた蹴りを入れる。
さて、いつもは木剣や徒手で相手をしてやるが…
俺はいつものように亜空間から“剣”を取り出す。
「っ!」
タクトは亜空間から俺が出した物に驚いたようだ。なんせ、それは木でできた木剣ではなく、鋼でできた、真剣だったのだから。
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~タクト~
また今日も兄が蹴りを入れながらやって来た。
今日はかなり驚いた。
いつも気配や殺気を消して来るが、蹴りの直前や瞬間には何か感じ取れる。
しかし、今回は全くなにも感じ無かった。
それなのにいつもより威力が高い。
なぜだ?
まあいい。それもいつか盗んでやる。
さて、今日もあれをやるのか。
ん?
「っ!」
遂にか。いつかはやるんじゃないかと思っていたが…
真剣。兄が出したのはそれだ。これまでの木剣と違い、容易く人の命を奪う武器だ。
そして、今日はそれでやるようだ。
・
・
・
「今日はこんなものか。それでは、今後も精進するように。」
そう言って、兄さんは去っていく。
俺は、息を荒くして、地べたに這いつくばることしかできない。
体中細かな切り傷で一杯。
これまでは木剣だったから、血は余り流さずにすんでいたが、今回は真剣だ。打撲や擦り傷じゃない。切り傷だ。いくつか後が残りそうなぐらいには深く切られた所もあり、服は血でかなり汚れている。
はっきりいって、このまま寝てしまいたいが、そうもいかない。
なんとか起き上がり、重い体を引きずって川にいく。
そして服を脱ぎ、全裸で川に身を沈める。
「つっ」
やっぱりしみる。体中傷だらけだもんな。だからこそ清潔にしないといけないのだから困ったもんだ。
川から上り、裸のまま家までいく。
いくつか余り汚れていない部類の古着を割いて包帯の代わりにする。
さて、そろそろ昼食が運ばれて来る頃か。
コンコン。
「ん?」
なぜノックをする?
毎食使用人の誰かが持ってきてくれるが、必ず扉の前に置いていく。
ノックなんて今までされた事がない。
コンコン。
「あのー、誰かいませんか。」
またノックされた。
続いて若い女の声で誰かいないか聞いてくる。
まさか、俺を知らないのか?
「どうしよっか。地面に置くわけにもいかないし…勝手に入るわけにも…」
どうしようか。
開けた方がいいのだろうか。
多分、扉の向こうの声の主は新しく入った使用人か何かで、俺のことは詳しく聞いてないのだろう。
…これは、情報を得るチャンスか?
俺は少し悩んだが、意を決して扉を開けることにした。




