悪役的指導
弟が、【鑑定】を使ってきた。
偽装しているので、本当は問題無い。
しかし、この子の今後のため、殴っておく。
もしかすると今後、この【鑑定】を見破る相手とも出会うかもしれない。そしてそういう者は、大抵どうしようもない格上だ。俺のような。
そしてそういう者にこの【鑑定】は不興を買う原因になる。そのため、無闇矢鱈と使わせないようにしなければ。
それと、【鑑定】と似たような技能があることを教えておこう。
さて、とりあえず気を取り直してまずは剣術を教えようと思う。
亜空間から木剣を二本取り出し一本渡す。
「構えろ。」
俺の声に、弟は訳が分からないと言った顔をしながらあわてて正眼に構える。
……なってない。
まず足。なぜ横に開く。どちらかを前に出すか後ろに引くかしろ。
そして棒立ちになるな。咄嗟に動けないし踏ん張れない。
次に背筋。正眼に構えるならピシッと伸ばせ。
臍を意識しろ。重心が安定しないだろ。
最後に腕。なぜ体に引っ付ける。そして致命的に剣先が定まってない。
他にも細かいところを挙げればきりがない。
ああ!もどかしい!
いっそ丁寧に指摘してやりたい。
しかしそれでは悪役ではなくなってしまう。
仕方ない。罵詈雑言を吐きながら、痛みを与えながら、悪役の範囲内で出来るだけ細かく教えよう。やるぞ。俺はやり遂げてみせる!
まずは、スッと近より、利き手の右足を木剣で叩く。
弟はこける。
さらに俺は弟を蹴る。
「やれやれ。こんなこともできんとは。正眼に構えるなら利き脚を前に出すのは基本中の基本。やはり無能だな。さあ立て。まだまだ終わらんぞ。」
弟が立ち上がる。足は多少ましになった。
今度は後ろに回り込み、背中を蹴ってやる。
そして、弟の頭を踏みつけながら言う。
「馬鹿かお前は。正眼なら背中を伸ばせ。まるで突き倒してくれと言わんばかりだ。ほら、早く立て。俺を満足させるまで終わらんぞ。」
また弟が立ち上がる。背筋は伸びている。
お?少しは自分で考えたか。腕を少し体から離している。しかし、腕が伸びきっている。
またスッと近づき、腕を叩く。
「腕を伸ばしきってどうする多少は曲げろ。馬鹿めが。」
そして、木剣で滅多打ちにする。
そんな感じでその日はほとんど俺が弟をぼこぼこにして終わった。
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「はあ、はあ、」
いきなり木剣を渡され、戸惑いながら言われたとおり構えると、そこからは地獄だった。ひたすら暴言を吐かれながら剣で撲られ、足で蹴られる。
しかし、その暴言の中には俺の構えのダメなところを指摘する言葉があった。言われたとおりにしてみると、だんだん体が安定してきたように思う。
次は斬り込んで来るように言われた。
とりあえず剣を上に振り上げ、走って近づき、降り下ろそうとする。しかしその前に兄は俺の左足の前に木剣を置くように動いた。たったそれだけで、俺はつんのめり、地面に顔から突っ込んだ。
そして、兄がまた俺を蹴り、暴言を吐く。しかしその中には強くなるためのヒントがある。
次こそはと思いやってみるが、次も上手くいかず、今度は拳が3つ飛んできた。
一番痛い。
はっきり言って、兄が何をしたいのか分からない。
恐らくストレスの発散あたりだと思う。
剣を教えてくれているようにも思えるが…
まあ、今はそれよりも寝よう。体中が痛い。
あ、ステータス確認してからにしよう。
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タクト=カブラギ
性別:男
年齢:4
筋力:3
耐久力:9
体力:9
生命力:9
魔力:102
敏捷:2
スキル
【深淵適性】【アイテムボックス】【鑑定】【学習】【頑強】【魔力感知LV.7】【魔力操作LV.7】【剣術LV.1】
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【剣術】生えてる。まあ、あの地獄に耐えたかいがあったと言うべきか?
まぁいいか。おやすみなさい。




