序章の始り:ラインハルト
俺は6才になり、あの子も4才になった。
さて、そろそろ動くか。
まずは父上から許可を得ねばならない。
そのため、俺は父上の執務室に着ている。
コンコン
「ラインハルトです。」
「?入れ。」
許可が出たので入室し、扉を閉める。
「それで、どうしたのだ?」
「実は、父上に許可を貰いたいのです。」
「許可?それはどんな許可なのだ?」
「我が弟を好きに使う許可です。」
「!なぜそれを…いや、お前なら覚えていてもおかしくないか。それで、あれを好きに使うとは?」
「そのままの意味です。我が弟は、不吉です。そして、三才で調べた魔法適性は、一つもなかった。しかし、魔力は驚く程高く、あの環境で何故か風邪一つひかない。不気味です。しかし、唯飯食らいをこれ以上置いておきたくも無い。そこで、その頑丈さをかって、私の訓練相手になって貰おうかと。」「訓練相手?しかし、あれごときにお前の相手が勤まるとは思えんが。」
「そこまで高望みはしませんよ。ただ、軽く試し斬り等に付き合って貰うだけですよ。」
「試し斬りか。まあ、いいだろう。ただ、殺すなよ。死体の処分など、面倒なだけだからな。」
「上手くやりますよ。それでは、失礼しました。」
「うむ。」
よし、これであの子に俺が関わっても大丈夫だ。父上には、俺が何故いきなりこんな申し出をしたのかまからんだろうな。まあ、三才の頃からこういう少し普通じゃないことはけっこうやっている。またかと思われるだけだ。
さて、弟を虐げる悪役兄を始めるとしますか。
走って5分程、あの子が住まわせられている小屋に来ている。
あの子…いや弟でいいか。弟は、庭で草むしりしているらしい。
ふむ。魔力量やその操作練度は一流の魔法使いなみ。その生命力も大人顔負け。ただし、力は確かにそこらの同年代よりは強いだろうが、そこまで大きく逸脱しているわけではない。
だが、かなり努力の後が見られる。
どうやら、かなり根性があるようだ。
それに自分の置かれている状況を正しく理解し、出来ることを地道にやっている。
なかなか鍛えがいがありそうだ。
しかし、俺は優しくしてやるつもりはない。
それどころか恨まれるくらいのことをするつもりだ。
なぜそんなことをやるのか?その方がこの子は、将来幸せになれると思ったからな。
さて、それでは幼い頃に兄に虐待され捨てられた弟が、兄を越えようとする成り上がり物語。
その序章の始まりだ。
弟の背後に気配もなく立つ。
ふむ。全く気付いていない。気配感知も鍛えねば。暗殺者に殺されてしまう。
だがまあ、それは後だ。まずは声をかける。
「おい。」
「!っ。だ、だれですか?」
声をかけると、弟は、とても驚いたようだ。まあ、あたりまえだ。
その後、こちらに振り向き立ちあがり、少し困惑した顔で俺に誰何してきた。
「私の名はラインハルト=ヴァン=ブラッドベリー。お前の兄だ。」
「あ、兄。」
心底驚いた顔をしている。まあ、それはそうか、四年も何の干渉もなかったのに、いきなり顔も名前も知らない兄が訪ねてきたら仕方ないだろう。
「それで、いったい何のご用ですか。」
「何、こんなところに一人で寂しいだろうと思い。少し、遊び相手になってやろうと思ってな。」
「遊び相手、ですか。」
「ああそうだ。喜べ、天才である私が貴重な時間を割いてお前の相手をしてやろうと言うのだ。光栄だろう?」
弟は少し渋い顔をした。まあ、それはそうだろう。いきなり訪ねて来て上から目線に話す奴に好印象を持つ奴の方が少ない。
何よりこの子はそんな時間があるならば自己の研鑽に当てたいだろう。
つまり…
「大変身に余る光栄ですが。私のような者の相手をしては兄上にも不都合が生じてしまいます。お気持ちだけお受け致しますので、どうぞ兄上はそのお時間をご自分の為にお使い下さい。」
断るよな。それにしてもなかなか口が回るな。しかし…
「ほう、お前のような出来損ないのゴミが天才である私の意見に逆らうのか。」
「けっしてそのようなつもりは…」
「黙れ。お前は黙って私の言うことだけ聞いていればいいのだ。拒否権など、お前にはない。」
「は、はい…。」
よしよし。この調子だな。
「それでは…草が邪魔だな。」
そう言って俺は、指をパチンとならし、周囲の土ごと草を弾き飛ばした。小屋にもかかっているが、損傷させたり中に入ったりはしないように絶妙な加減をした。
ちなみに弟は泥だらけだ。
「それでは始めよう。」




