モブ女子、忘れられない記憶
今回も読んで頂き、ありがとうございます!
女子トークしている裏側での話になります!
あの時の彼女の声が、熱さが今も俺の中で繰り返される。
『すき・・・・すきなの』
唇を合わせた彼女から、何度も紡がれた言葉を聞くたびに俺の中で熱さが増した。
彼女の舌に自分のものを絡めて、自分の口の中へ誘い込み何度もその熱さを味わう。
息が苦しくなった彼女は俺の首の後ろに手を回しより力を込めるが、それはより口づけが深くなるだけだったーーーーーーー。
触れても触れても、全然足りない。
より深くと彼女の中に入っていけば、息苦しさに彼女の体が震えつつもそこに応えようと温もりを返してくる。
『俺も・・・・お前が、好きだ』
『!!??』
口づけの合間に彼女へと囁いた言葉は彼女の体を震えさせその涙の量を増やし、俺の首へと回した手により力が入った。
『嬉しい・・・・です』
『!?』
顔を赤くさせながら微笑んだ彼女に俺は再び激しく口づけ、その吐息すらも奪いながら彼女の温もりを本能の赴くままに貪った。
彼女がその意識を手放すまでーーーーー。
「・・・・・・何をやってるんだ、俺は」
イザベル殿が部屋を出て行った後、まだ熱い顔に手を当てながら、ジークフリートは大きなため息を吐いた。
昨夜の出来事が、朝からずっと頭から離れない。
彼女の細い腰を抱いた手から伝わるぬくもりも、合わさった体から感じるお互いの心臓の音も、見つめ合った彼女の涙ぐんだ目もーーーーーー自分の耳に何度も響いた、彼女からの愛の言葉も。
今も脳裏に繰り返され、気をぬくとすぐに彼女の姿が浮かんで顔が熱くなる。
まさか、自分が誰かのことを考えてこんな風になるなんて、これまで考えたこともなかった。
彼女ではなく、イザベル殿が騎士院にお弁当を持ってきてくれたことは本当に感謝だったかもしれない。
恐らく、お酒のせいで昨夜の記憶が全くないだろう彼女に会った時に、そんな彼女に対してどんな顔をしたらいいのか全く分からない。
けれど以前のように俺の勝手で彼女を避けて、悲しい顔を彼女にさせることは絶対にしたくはなかった。
『敵は多そうね?がんばって』
そうだ。
彼女に対して、同じように好意を持つものは自分以外にもいる。
彼女のことが好きだと、日頃周囲になんの遠慮もなく宣言しているレオナルドはもちろん、誰にも関心がなさそうで彼女にだけは強い執着を感じる魔導師のルーク=サクリファイス。
そして、先ほどのグレイも。
あいつは味方でいる時はどこまでも頼りになる信頼の厚い男だが、だからこそ敵になった際は一番怖い。
もう1人、そうかもしれない存在もいるし、確かにイザベル殿の言うと乗り敵は多そうだ。
基本的に人に対して優しく、面倒見もいい彼女のこと。
これからも敵は増えるかもしれない。
自覚をするまでは何も感じていなかった色んな感情が、ジークフリートの心の中を嵐のように巻き起こし吹き荒らしていく。
「・・・・とにかく、近々彼女に会ってちゃんと俺自身の気持ちを伝えないとだな」
いつも彼女が見せる明るい笑顔を思い出し、心が温まる感覚を心地よく感じながらジークフリートは途中になっていた仕事に気合を入れて取り掛かる。
夕方からは、王都に戻ったバーチ殿がいよいよアヴァロニア城に入り、玉座の前で全てを話す時が来たのだ。
昨夜捕らえた者達が第二王妃であるアビゲイルの最後のコマで、かなり落ち込んだ様子で静かに室内でおとなしくしているという。
そして、その日の夕刻ーーーーーーー。
王様・マーサ王妃・アルフレド第一王子・アビゲイル第二王妃・ラフェエル第二王子、大臣他数名の貴族達の集まった前で、数年前まで第一王子の専属の護衛であった、『バーチ=ジェロ』が玉座の前で膝をついていた。
バーチの後ろでは騎士院の長であるジークフリートと、魔法院の長である魔導師ルーク=サクリファイスが王族たちの護衛も兼ねて城の兵士とともに控えている。
「バーチよ、我が前へとよくぞ戻った!!」
「はっ!!!本来、二度とこの地に足を踏み入れることは叶わぬ身のわたしが、再び立ち入ることの許しを頂き恐悦至極に存じます」
「うむ、堅苦しい挨拶はよい。そなたがなぜこの国を離れたのかを、それを1つの偽りもなくこの場で話すが良い」
「はっ!!!」
「・・・・・・ッ!!!」
バーチの姿に、豪華な椅子に腰をかけていたアビゲイルはその両手を震えながら強く握りしめ、深紅の唇の形を歪ませながら噛み締める。
あれから何度インズのことを呼びだしても、その姿ばかりか声すら自分には届かず、しかも昨夜のパーティーで何人もの不法侵入の賊をそこに佇んでいるジークフリートが捕らえたという。
つまり、インズ達の暗殺計画は失敗に終わったということだ。
そうなれば、相変わらず炎が身の周りにつきまとい何も自分からは動けなかったアビゲイルが今できることは何も無い。
あと1つーーーーー以外は。
「わたしがこの国を出たのは・・・・・・」
そして、バーチは自分が数年前に第二王妃アビゲイルからの命令でアルカンダル王国の兵士として入隊し、そこでの実力が評価されてアヴァロニア城を守る兵士へとなったこと。
その後、王様に目をかけられたことからアルフレド王子の護衛にまで上り詰め、その信頼を得て行ったことを話す。
それは全て、アビゲイルからの命令であった。
その命令に対し、ただ任務としてなんの感情も持たずにこなしていたバーチであったが、長く一緒に過ごすうちにマーサ王妃の優しさと、いつの間にか自らの中に芽生えていたアルフレド王子への愛情から、その命令が自分の中で葛藤となっていた。
時が来たとき、2人を殺す毒を渡す。
その時までは2人の側で信頼を得るがよい。
それがいつ自分に下されるかが分からず、次第にその日が来るのが遠い先になればいいと、2人が死ぬことをどうにかして止めたいと願う気持ちがバーチの中で大きくなっていった。
その数年後にとうとうやってきた、運命の日。
自分の目の前には、アビゲイルの側に常に付き従う暗殺専門集団の長である『インズ』。
『これを2人に』
『・・・・・・ッ!?』
『もしお前がこの任務を放棄し、2人を助けるようなら別のものが2人に毒を含ませるだけだ。馬鹿なことは考えないことだな』
『!?』
それだけを伝えて、インズはすぐさま消えた。
自分の手の中には、小さな小瓶に入った毒入りの液体。
一口でも飲めば、すぐさまその命を奪う強力な毒。
そう、この時の為に自分は兵士としてアルカンダルに来た。
『バーチ!!こんなところにいたのか!ずいぶんとさがしだぞ!!』
『もうアルフったら、バーチが側にいないとすぐに大騒ぎするのだから』
『!?』
そんな自分の目の前に現れる、眩しい金色の少し癖のある明るい髪を髪になびかせ、明るい空と海の色をその瞳に映した、元気よく自分に飛びついてくる少年『アルフレド様』。
『バーチ!きょうもけんのくんれんだ!!』
『ごめんなさいね、バーチ。アルフが相手はあなたでないと嫌だって』
その後ろから同じ金色の緩やかになびく長い髪と、同じ目の色をもちつつ優しい眼差しをそこに宿した美しい『マーサ王妃』がやってくる。
『いえ・・・・アルフレド王子のお相手ができるなど、光栄でございます』
『よし!さっそくはじめるぞ!!』
『2人とも、ケガのないようにね』
アルフレド王子からのまっすぐな好意と信頼を感じるたびに胸は痛み、マーサ王妃からの優しい眼差しと目が会うたびに心は迷いと葛藤に掻き乱れた。
自分がこの毒を捨てて2人を守っても、インズかそれ以外のものが2人を害する為に動き出すだろう。
もしかしたら毒を使うような間接的なものではなく、直接手を下してくるかもしれない。
そうなった時、もちろん自分が2人を全力でお守りする覚悟はあるが、一人きりであの2人を暗殺集団から守りきるのは正直難しい。
『バーチ!あすもいっしょにくんれんだからな!』
『アルフったら、そろそろ剣の訓練以外の勉強もしていきましょうね?』
『・・・・・・』
そうして、悩みに悩んだ俺が選んだ道は『毒』を2人に飲ますことだった。
すいません、ジークフリート様視点での昨夜の出来事を少しだけ書きましたが、書いてるこっちが恥ずかしくなりました。
バーチの話になって、思わず少しホッとしてしまいました。




