モブ女子、大切なのは・・・。
読んで頂き、ありがとうございます!!
酔っ払って記憶を無くしても、家に帰れる人間の本能?という名の神秘がいまだに不思議でなりません。
心がとてもフワフワしていた。
目に映る色んなものがどれもキラキラ光っていて、とてもきれい。
久しぶりにその背中に乗ったマーズはとても暖かくて、気持ちがよけいにフワフワポカポカした。
うん、とってもいいきもち〜〜♪
マーズの背中でうつ伏せになりながら、目の前のキラキラを見つめる。
とてもきれいな音楽が流れる中で、きれいな女の人とすてきな男の人がクルクルクルクル回ってる。
小さい頃によく見てた、万華鏡を覗いているような気分だった。
カシャ、カシャ、カシャ
それは音を立てながらその様をどんどん変えて、色んなきれいな形になっていく。
本当に、なんてきれいなんだろう。
その中で、時々黒いものがキラキラを邪魔するように不自然な姿で動く。
「・・・・・・ひっく、なにあれ?」
黒い何かはカサカサと、そのキラキラのある部屋の周りで変な動きをしていた。
「くろくて、カサカサ・・・・・」
頭の中に、そこから連想するのはイメージするのも私がどうしても嫌なアイツだ!!
「!?!?」
そう思ったら、その黒い物体がでかいそれにしか見えなくなる。
「ヒック・・・・・いらない」
ゴオォォォーーーー!!!!
クローディアの声とともに黒い物体に赤黒い鎖が一瞬で巻きつき、全身が炎に包まれる。
「な、何事だっ?!」
「・・・・・ヒック」
クローディアの視界には、せっかく退治した黒いアイツがまた何匹も増えていた。
「うぅ、きもちわるい・・・・ぜんぶ、いらない。きえろ」
ゴオォォォッ!!
ゴオォォォッ!!
ゴオォォォーーーーッ!!!
「「「ーーーーーーーぐぁぁっ!!!」」」
次から次へとその黒い物体は全身を赤黒い鎖と炎に包まれて、叫び声すらも炎にかきけされていく。
その数、ざっと十数個。
クローディアが見ていた、キラキラの部屋を囲むようにして息を潜めていたその黒い物体は鎖で身動きが取れないまま、全員がその炎によって倒されていた。
「うん、これでキレイになった〜〜〜♪」
真っ赤な顔をニンマリと満面の笑顔にすると、クローディアは近くに見えた城の中庭のベンチへとマーズから降り、その上に横になって猫のように体を伸ばす。
「ヒック!すご〜〜〜い、お空がグルグルまわってる♪」
ニヤニヤしながらそのベンチの上でゴロゴロと寝転がるクローディアを、近くの木のそばで黒ずくめの男が息を潜めて見つめる。
「くそっ!!あんな女1人のせいで、我が精鋭部隊が全滅するなどありえない!!かくなる上は俺自らが、この鉤爪で全身をズタズタに引き裂いてくれる!!」
アビゲイルから『インズ』と呼ばれていた、暗殺集団のリーダーである彼は溢れ出る殺気をすぐさま抑えると、気配を消しながら彼女へとゆっくり近づく。
一瞬でもそのスキを捉えれば俺の勝ちだ!
この鉤爪に襲われたものは息をする間もなく、全身から血を吹き出して苦しみながら死んでいく。
あの光輝く黄色のドレスは、この自分の力によって深紅のそれへと変わるのだ。
「うーーーーーん、いいきもち♪」
「・・・・・・!!」
あんな完全に泥酔したただの酔っ払いなど、恐れることはない!!
今だっ!!!
インズが地面を蹴って、一瞬で彼女の間合いへ飛び込みその柔らかい体にこの鉤爪を突き刺す!!
ズブッ!!!
「・・・・・・な、なんだ、と?」
だが、彼女の肉体に鉤爪が刺さる前に突き刺さったのは俺の方だった。
「フンフフ〜〜〜ン♪」
そう、これはベンチで鼻歌を歌いながらゴロゴロしている女の仕業じゃない。
「・・・・・誰に、その爪を立てる気だ?」
「!!??」
俺の背後から、低い男の声が響く。
俺の腹を貫く剣の元を辿れば、後ろの男の手に繋がっていた。
「く・・・・くそっ!!!」
そして、その剣から炎が上がり仲間達と同様に自分の全身に赤黒い鎖が巻きつき、斬られた痛みとともに皮膚が焼ける信じられないほどの激痛に襲われ、ついに意識を失って地面に倒れる。
「だ、大丈夫ですかっ!!騎士団長!!」
「・・・・あぁ」
「こ、この男も、まだ生きているのでありますかっ?!」
「あぁ、体へのダメージは大きいが生きている。あとは頼んだぞ!」
「はっ!!!」
そのすぐ後、その場には何人もの城の兵士が現れ、インズを始めとした怪しい侵入者である男達をそのままいっせいに捕らえた。
「・・・・・ぎんいろが、ピカーーー!」
「!?」
その様子を、ベンチに寝そべったクローディアがニヤニヤしながら見つめている。
ちなみに、銀色とは兵士の鎧の色だ。
「だ、大丈夫なのか?クローディア」
「だいじょうぶらって〜〜〜あらら?」
「!!??」
ジークフリートが大きなため息をつきながら近づくと、ベンチから起き上がろうとクローディアが体を自分で動かすが、頭の重みを支えきれずにバランスを崩した体が自然に下へと落ちていく。
それをすぐさま腕を指し伸ばして防ぐと、もう一度大きなため息をつきながら彼女を横抱きにして持ち上げた。
「うわぁ〜〜〜い♪お姫様だっこら〜〜!」
「こら!手足をばたつかせるんじゃない!」
「んふふ〜〜♪いいきもち〜〜〜」
「・・・・・・」
完全にお酒に酔っ払っている彼女を少し休ませようと、ベンチに腰掛けたジークフリートは彼女の頭を膝に乗せて仰向けに寝かせる。
「こんろは、ひざまくらら〜〜〜♪」
始終ニコニコの彼女は相当酔っ払っているようで、いつもよりも幼い感じがした。
普段は、年齢よりもしっかりして見えるし、無理もしてるように感じることも多い。
そして、自分には一番彼女は素の姿を見せてくれていない気がした。
だが今は、それがお酒のおかげなのか本当にスキだらけだ。
「・・・・なぁ、クローディア」
「うーーーーん?なんれすか〜〜?」
「お前が、前に話してた大切な人とは誰なんだ?」
なぜかは分からないが、今の彼女ならそれを聞ける気がした。
「おぉ〜〜〜クイズれすね?それなら、あててくらさい♪」
「・・・・・レオナルド」
「ブーーーーーー!!ハズレ♪」
それならば。
「・・・・・ルーク、サクリファイス」
「フブーーーーー!!ハッズレ〜♪」
やはり、違うか。
それならあとはーーーーー彼しかいないな。
「・・・・・アルフレド、さま」
王子の名前を言う時だけ、少しだけ自分の声が震えていた。
そして、彼女から何の反応もないことに不安になり下を見てみると、ケラケラと笑顔で笑っている彼女と目があう。
「ブブブーーーー!!!ハッズレーーーー!!!」
「・・・・・・違う、のか?」
王子の為にあんなにも献身的になっていた彼女の姿から、絶対に彼だろうとそう思っていたのに。
「うーーーーーん、なんれかんたんなのに、あててくれないんれすか??」
ぶーー!!と両ほほをぷっくり膨らませた彼女は、次の瞬間に想像もしていなかった行動に出る。
「そんなの、あなたしかいないのに」
「え?」
ぐいっ!!!
「!!??」
彼女の2つの手が俺の襟元を掴み、力を込めて一気に引っ張られる。
唇に柔らかいものが当たり、そこから熱が生まれた。
「・・・・・クローディア??」
「まだ、わからないんれすか?」
「!?」
お酒のせいで、真っ赤な顔をした彼女の強い目線に囚われる。
彼女が一気に飲んだという、デス・ディーバのせいなのか、彼女が触れた唇から全身が熱くなるのを感じた。
「・・・・・スキれす。あなたが、スキなんれす」
「!?」
クローディアの瞳に涙が浮かぶ。
「なのに、なんれわかってくれないんれすか?」
「・・・・・・ッ?!」
下から見上げてくる彼女の泣き顔に、自分の体が全て心臓になっているかのような衝撃が走った気がした。
その衝撃が体を突き動かし、俺はその唇に自分から噛み付くようにして口付ける。
「・・・・・ッハァ、んっ」
どれだけ触れても熱さはおさまらず、彼女の全てを奪うかのようにして、かつて交わしたもののようにその口づけはどんどんと深くなっていく。
触れた唇も、その中も舌もーーーーー彼女の全てが熱かった。
その後、お酒の為なのかぐっすりと眠ってしまったクローディアを胸に抱きながら、俺はようやくここ最近の自分の不可解な感情の意味に気づく。
「・・・・・・俺も、お前が好きだ」
自分の声は聞こえていないだろうに、眠りながらも目の端から涙が一筋横に溢れたクローディアのその箇所にも、そっと唇で触れる。
「それを、お酒の入ってないお前にきちんと伝えないとだな」
「・・・・・すぅーー・・・・・すぅーー」
その時、彼女はどんな顔をするだろうか?
それを考えるだけで、ジークフリートは顔が勝手ににやけるのを感じて思わず口元を手で覆う。
だが、次の日から彼女とは全くと言っていいほど会えなくなることを、この時の俺は考えることもできなかったーーーーーーー。
なぜか大事な時に主人公は意識がないという、気づくといつも申し訳ない状況に。
本当にわざとじゃないんですが。
自覚もしたし、これからそこも変わっていけたらと思ってます!




