モブ女子、舞い降りた天使
お読みいただき、ありがとうございます!
色んな新キャラ出てますんで、もう少し落ち着いたら登場人物2をやります!
み、皆さん、こんにちは。
クローディア=シャーロット、ようやく地獄からの帰還という名の、一時的な休憩を頂きました!!
もうあの部屋に帰りたくありません!!
私が今夜の社交界に出ても恥ずかしくないようにという、淑女猛特訓はものすごかった!!
本気スイッチが入った王妃様とエリザベスはそらもう怖くて、その手にはないはずのムチが途中から私の目にはしっかり見えていましたよ。
たとえば、靴1つにしても。
前世だってろくにヒールも履いたことのない私が、まさかの10cm以上はある靴をはくとは!!
確かにシルエットは美しい!
それをはいたエリザベスも王妃様の足首も、美しい靴のシルエットによりいっそう足首の細さが際立っていましたよ!
でも、女性の脚を最も美しく見せるヒールの高さは『7cm』と言われていたじゃないですか!!
しかもそれで頭に乗せた分厚い本を何冊も落とさずに歩けって、確かに何かのゲームで見たことがある気がする。
たかだか10、15cmと思ってるそこのあなた!!
一度履いて1時間本気でウォーキングをしてみたらいい、足がすぐに悲鳴をあげるから。
私も正直、舐めてました。
他にも色々拷問特訓エトセトラ・・・!!
あれを日常で、何でもないようにすんなりとこなすエリザベスを心から尊敬しました。
もう身体中がミシミシ、ギシギシ色んな音を立てております!!
「はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜」
そして、ようやくコルセット&ハイヒールはそのままですが、ドレスは直しをするからということで別の青い簡素な、と言っても十分にステキなドレスを着て以前エリザベスと来た中庭の木のベンチの上に両手足を投げ出して座り込んでいた。
「・・・・・うわぁ〜」
試しにチラッとスカートの裾をめくってみれば、ウォーキング中に転びすぎて足は青あざだらけ。
痛々しい我が足の有り様に、青い顔になりながらもごめんよ〜と泣く泣く突然のハプニングに満身創痍の両足を撫でて労を労う。
悪役令嬢や貴族のお嬢さんではなく、街のレストランの店員Aというモブに転生したことを、ここまで心から感謝したのは初めてだったかもしれない。
あれが毎日繰り返されるとか耐えられない!!
もしそうなってたら『悪役令嬢、これからは庶民になります!!』とか言って早々に逃げ出したに違いない。
「・・・・・・あの」
いや、そもそも悪役令嬢だったら、アルフレド様が婚約者でしょ?
それなら始まるのは『悪役令嬢、喜んでこちらから婚約解消いたします!!』とかかな?
いや、アルフレド様が嫌いとかじゃなくて、私が好きなのはーーーーーーー。
「・・・・・あ、あの」
「ん?」
「す、すいません!」
「!!??」
キラキラキラキラ・・・・
あれ?目の前に天使がいる。
私、特訓が激し過ぎて、とうとう魂が飛ばされてしまったのかしら?
私の視界いっぱいにうつる、前髪は真っ直ぐに、そして下も肩につくかつかないかあたりで切り揃えられた金髪と、明るい草木の黄緑色の瞳を持つその美少女?美少年?いや、天使が私の前に降り立っている。
大きなクリッとした丸く大きい目に、羨ましいほどのバサバサなまつげ。
前世でいう、小学生の3・4年生くらいの背丈で、身体はとても華奢だ。
とても同じ人間とは思えない、いや羽をもしかしたら隠してるかその辺で落としてきたのかもしれない!
天使が一般人を勇者にスカウト!とか、確かそんなゲームも昔にあった気がする!!
「あ、あの・・・・そんなに見つめられると、恥ずかしいのですがっ」
「!!??」
天使が顔を真っ赤にして顔を横に背ける。
か、可愛い!!
「て、天使様、すいません!あまりにあなた様が可愛かったもので!!」
「て、天使?!い、いえ、ぼくはただの人間ですよ??」
おっと、美少年だったか!
「へ?」
「も、申し遅れました!ぼくはラファエル。ラファエル・ルカ・ド・オーギュストです!」
「・・・・・へ??」
さすが!と言うぐらい、有名な天使の名を持つ目の前の美少年は、あっけにとられる私の前で、大変礼儀正しく胸に手を当てて頭を下げる。
ちょっと、待て。
ラファエル・ルカ・ド・オーギュストって、まさかこの子は天使じゃなくて、本物の王子様じゃないかーーーーーーいッ!!!
「だ、大丈夫ですか?」
幼くとも、キラキラオーラ全開の麗しい王子様が、意識を遠くにやりそうな私の肩をつかんで支える。
「・・・・・だ、だいじょうぶ、です」
なんだ?
私は歩けば大貴族に、それも美形にあたる!とかいうスキルでもあるんでしょうか??
いや、ここは彼らの住まいのお城なんだからいても全然おかしくないんだけど、なぜこのタイミングで?
なんとか意識を保って、あまりの疲れに活動を全力でエスケープしていた頭を無理くりフル回転させる。
ラファエル・ルカ・ド・オーギュスト。
名前の通りアルフレドと同じオーギュスト家の血筋で、彼の異母弟にあたる。
そう、今回のバーチにマーサ王妃・アルフレド王子の毒殺を命じた、アビゲイル王妃の息子にして、第二王位継承者。
噂じゃ、滅多に自室から出ずというよりも、母親のアビゲイル王妃から出してもらえず、城の兵士も中々会えないと聞いていたのに!!
「良かった!あの、迷惑だったらすみません。あなたの隣に座ってもよろしいでしょうか?」
「は、はい!!どうぞ!!」
すごい!!
確か、話によればラファエル王子はまだ10歳辺りの子どもなはずだ。
前世での私の10歳なんて、公園で木登りしてセミとその抜け殻をカゴいっぱい取ったあげくに、自信満々でお母さんに見せたら大きな雷を落とされて泣いてた頃ですよ?
何この、品まで感じさせる大人びたしっかりした感じは!
「失礼ですが。あなたはもしかして、今回の兄の旅に同行した女性ではありませんか?」
「は、はい!!く、クローディア=シャーロットといいます!!」
しまった!
まさかの王子様から名乗らせてしまった!!
「やっぱり、そうなのなのですね!」
「へ?やっぱりって、何か庶民臭でも流れてましたか?」
いや、先ほどまでの足を大きく開いて、木のベンチに両手広げて全ての力を抜ききって座っていた、あのとても品などみじんも感じさせないひどい姿を見れば、誰でも分かることだろう。
「しょみんしゅう?いえ、ぼくはあなたから溢れるそのエネルギーと真っ直ぐな目を見てそう思ったんです!貴族の姫達はみなどこか形にはまっていて、あなたのように自由で元気な雰囲気はとても出せないですから」
「ま、まっすぐ、元気、ですか?」
とても素晴らしい、眩しすぎる天使の笑顔で褒めて頂いてるのに、とても地獄の特訓からどうやって逃げ出そうとか、今すぐお家に帰りたい!とかそんな気持ちでまっすぐでいたことに、胸が痛む。
よくぞあのだらけきった、完全に力の抜けきった姿からそんなことを感じ取れたものだ。
「本当は、ここにいつも来られる方が今日もいるんじゃないかと思って、足を運んだんです」
「・・・・いつも、来られる方?」
「はい!ぼくが憧れてやまない、女神のような人なんです!」
そのとたん、天使の頬に赤みがさす。
「!!??」
か、可愛い〜〜〜!!!
美少女と言っても誰も反論はないだろう、その天使は頬を赤く染めたまま、その人を赤く染まってきた空に思い浮かべているのだろう、いきいきと話し出す。
「その方と直接会って話したのは、本当に一度きりなんです。ぼくが毎日の勉強に少し疲れて、この庭に来た時にその方もこのベンチに座っていて、あの神話の女神がとうとう降臨したのかと思いました」
一年ほど前のあの日ーーーーーー。
勉強は嫌いじゃないものの、さすがに息が詰まって気分が悪いと部屋を逃げ出した。
そのまま部屋にいれば、体調を心配した母親のアビゲイルがすぐさま医者だなんだと事を大きくするからだ。
母上のことは大好きだがあまりに心配性過ぎて、ぼくのやりたいと思うことのそのほとんどが却下されて、ほんの休憩すらも1人で取れない。
自分に関わると危険だと、貴族の同い年の友達は近づこうともしなかった。
ならばと、同じ環境の兄上に会いに行こうとすれば母上にとても強く怒られ、兄上自身もぼくとは目も合わせてくれない。
そしてぼくに関わる人間は、母上がよしとした何を考えているのか分からない大人達ばかりとなってしまった。
彼らはぼくにただの子どもであることを望まず、それなのに賢こくなりすぎることも望まない。
母上や大人の望む自分を演じることにも、だいぶ疲れてしまっていた時だった。
『あら、あなたもここへ休みにいらっしゃったの?』
『・・・・・ッ!?』
頭上から降り注ぐ、太陽の光がその人を映し出し、ぼくの前にその人を映し出す。
高貴な色とされる紫色の長く柔らかな髪と、ドレスを風になびかせながら、その人はぼくに振り返った。
『あなたは、ラファエル様ですね?ご機嫌麗しゅう。わたくしは、エリザベート・サラ・デ・グラッツィアと申します』
その女神はすっとその場から立ち上がると、とても完璧な動作と気品溢れる淑女の礼を自分に行なってみせた。
『・・・ぼ、ぼくは、ラファエル。ラファエル・ルカ・ド・オーギュスト、です』
慌てて、ぼくからもあいさつを返す。緊張のせいか、声がいつもよりも震えてしまった。
『ラファエル様、ここは休むには最適な場所ですが、城の中とはいえ危険は常につきもの。お一人での移動はまだ控えた方がよろしいですわ』
『・・・・あ、ありがとう』
やっぱり、この人も周りの大人達と同じなのだろか?
そう落ち込みかけた時だった。
『ラファエル様、確かに周りからの期待は重苦しいものですが、それに応えられる人物だからこそその期待もそこにあるのです』
『!?』
ニコッと、口元だけ笑みの形を作ると女神はその深い紫の瞳を強く輝かせる。
そして自分のすぐ側までくると、目線が合う高さまであの女神が膝を曲げて自分にその強い瞳を向けた。
『それでも、どの道を選ぶのかを決めるのはあなた自身ですわ。今はただ自分を強く持って周りに流されず、己を鍛えてくれるのだと周りの力を感謝して上手く使えばよろしいのですよ』
『!?』
それだけを告げて、女神はその庭を去っていった。
それ以降、彼女のことは兄上の婚約者として公の場で遠くからその姿を見かけることはあっても、中々部屋から抜け出せずこの中庭にも来れてなくて、今日は本当に久しぶりにこの場所へ来れたのだ。
「・・・・・す、すみません!!」
「ど、どうしたのです!?あなたが謝ることなど、どこにもないではありませんか!!」
いや、あの、ここにいたのがこんな庶民で、本当に申し訳ない!!
それはもう完全にアレですよね?
淡い初めてのアレを私じゃましてますよねっ?!
ここに今来るべきなのは、地獄から舞い降りたマナーティーチャー!のエリザベス様じゃありませんかっ!!
「・・・・いや、たぶんイベントの邪魔をしたんじゃないかと思いまして」
「いべんと、とは?」
「な、なんでもありません!」
キョトンと、天使が不思議そうに首をかしげる。
くっ!!!
なんだこの最強最大の可愛い生き物はっ!!
「・・・・あの、兄はあなたから見て、どんな人でしたか?」
「え?」
萌えという名の欲望に葛藤していた私のとなりで、天使ーーーラファエル様は先ほどとは違う表情で顔を高揚させている。
「ぼくは兄上と仲良くしたいのですが、母上や周りのものの反対も強く、兄上自身にもぼくは嫌われているようで、話すこともできないのです」
「・・・・ラファエル様」
アルフレドが嫌って憎んでいるのは、アビゲイル様だ。
ラファエル様のことはきっと、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い!的に、彼の人格を知ってのことではないだろう。
いや、そもそも。
「アルフレド様は、正直大変な人見知りでラファエル様以外のことも苦手でしたよ?」
「・・・・・え?」
「それに、わがままで俺様で頑固ですぐ怒るし、旅の中でアルフレド様とはケンカばっかりしてました!」
その1つ1つを思い出すだけで、笑いが自然と出てしまう。
「あ、兄上と・・・ケンカなさったんですか?」
「いやしたくてしてるんじゃないんだけど、気がつくといつも口げんかになってて、ヒートアップしたらつい自然と胸ぐらに手が」
「あ、兄上を殴ったのですか?!」
「い、いや、殴ったのは一度きりですし!!あ、あれは流れというか体が勝手にというかですね!!」
心底驚いた顔で見つめるラファエルの表情に、口ケンカばかりか一国の王太子を庶民が殴り飛ばすなど、そっこく打ち首獄門じゃないかと全身から冷や汗が出て慌てて手足をばたてかせるが、もうあとの祭りだ。
「・・・・・羨ましい」
「えっ?!殴られるのが?!」
まさかのM系王子様ですかっ!!
「ち、違います!!あの、対等にケンカできる相手がいることがです!!」
「・・・・ちっ、そっちか」
「あの?」
「な、なんでもありませーーーーん!!」
試しに妄想したら、ちょっといいかも!なんて思ってしまった私を許してくれ!!
だ、だって、ハイヒールにムチ持った女王様なエリザベスに、その女王を愛して彼女から与えられる様々な痛みを全て喜んで受け止める、清純派の優しい美少年ラファエル様。
を少しだけ見てみたいって、ドキドキしただけなんですーーーーーーッ!!!
この際、エリザベスにもごめんなさい!!
と、心の中だけでしっかり謝っておきました。
ラファエル→エリザベス→グレン
の三角関係のフラグができました〜!さぁ、どうなるのかこの恋愛模様!!
年下と年上のどちらを選ぶのか!?
作者のくせに、今はまだ何もわかりません




