モブ女子、影の欲望
お読み頂き、ありがとうございます!
初めて出てくるサイドの話です。もっと早く出しても良かったかなと少し思ってます
ついに、あの女が目覚めてしまった!!
第一王妃として、王からも臣下からも民からも愛された、あのマーサ王妃が!!
バンッ!!
爪に鮮やかな真っ赤な色のついた美しい手をテーブルに叩きつけると、その女性ーーアビゲイルはその爪と身につけているドレスと同じ深紅の唇をギリッと強く噛み締める。
「インズ!!インズはどこじゃっ!!」
「はっ、御前に」
「遅いっ!!」
ガシャンっ!!!
自分の前に現れた全身を黒い布で覆った彼女の『影』に対し、アビゲイルは側にあった花瓶を投げつける。
花瓶は『インズ』と呼ばれた男のすぐ横に落ちて、大きな音とともに散らばった。
せっかく、あの女を命は奪えなかったが、それでも覚めぬ眠りにつかせて王妃の座からどかせて、その間に自分が第二王妃となり王位継承の資格を持つ我が子ーーラファエルを授かったというのに!!
「何をしておったのだっ!!」
「何者かの邪魔が入っており、私以外の者は炎に焼かれて火傷を負いここまで来れぬ状態です」
「ほ、炎じゃとっ?!」
そう、目覚めた王妃をもう一度殺そうと何か行動を起こすたびに火の邪魔が入る。
暗殺を依頼する手紙を書けばそれが燃え、ならばと直接向かえば入り口付近で何かが燃えて外へ出れない。
「くっ・・・・次の王となるのは、我が子のラファエルじゃっ!!あの女の息子のアルフレドなどに継がせてなるものか!!」
その為にここまでのし上がって来たのだ。
生まれついての美貌と色香を使ってこの身1つで身体を売り、あらゆることにこの手を染めてきた、その全ては女としての頂点に立つ為に!!
「王妃様、まだ時間はございます」
「時間じゃと!?」
あの裏切り者のバーチがこの国に戻り王にわたくしの全てを告げてしまったら、そこで全部が終わりだ。
あの男、王妃と王子に毒を盛ってからというものすぐさま行方不明となり、それ以降どれだけ刺客を送ろうとも行方が捕まえられなかったというのに!!
突然その行方が知れたと思ったら、その全てを王に告げるという。
それを差し向けた刺客に告げて、瀕死の状態にして送り返してきた、あの怒りの衝撃はいまだに全身に残っている。
今もこちらに向かうバーチにどれだけ刺客を送っても、そこにもなぜか炎が邪魔をしてくるのだ。
「時間など、もはや少しの猶予もないではないかっ!!」
「いいえ、最後のチャンスが」
「最後だと?」
黒づくめの男がアビゲイルへと近づき、その耳元へとつぶやく。
「今夜の、パーティーです」
「!?」
「あなた様には警戒の為の城の兵士が側につきますが、我らならば自由に動けます」
紅い唇が、ようやく笑みの形を取る。
「今度こそ、失敗は許さぬぞ?」
「はっ!」
「王妃と王子、それにあの女を殺せ!!」
「かしこまりました!!」
そして、その『影』の男がその場から音も立てずに消えると、アビゲイルは椅子に勢いよく座り足を組みながらお気に入りの葉巻に火をつけて煙を吹く。
「・・・・・ラファエル」
自分が失脚することで、息子である彼にもどんな罰が下ることか!
この世界の中で唯一愛する息子の事を思い、彼女は紅い唇を再び噛み締める。
窓からは西日が差し込み、オレンジ色の光を放ちながらとうとうこの日の太陽も沈もうとしていた。
悪には悪の、信念とか野望とかあってそこに向かって真っ直ぐなんですよね。
たまたま主人公サイドからの話になるから悪役だけど、悪役が主人公なら主人公サイドが悪役になるし。感情・欲望が渦巻いていて、とても人間的なのは悪役サイドだなと感じます




