モブ女子、平和に終われない2人です
今回も読んで頂き、ありがとうございます!
すんなり終わるかと思いきや、そうはいかないのがこの2人のようです。
新たにできた道を進んでいくと、その先には小さな祠のようなものがあり、その祠の一番手前には青い小瓶があった。
何の神様を祀っているのかは分からなかったが、とりあえず手を合わせてここまで来させてもらったことの礼を伝える。
隣でアルフ様が何をしているんだ?と不思議そうにしてたから、とりあえず真似してお礼を伝えてください、と無理無理礼を取らせた。
習慣の違いで異世界だと、こういう祠を見ても手を合わせないのかもしれない。
「えっと・・・この小瓶でいいんだよね?」
「そうだろうな」
「!?」
そのままアルフ様が何の躊躇もなく、その小瓶を取ろうと手を伸ばしたので、慌ててその手を掴んで止める。
「ちょ、ちょっと待った!!」
「な、何をするんだっ?!こ、この手を離せ!!」
顔をなぜか真っ赤にしているが、そんなことを気にしてる場合ではない。
私は手をつかんだまま、ずすいとアルフ様に顔を寄せる。
ここからは、少し早口でお送りします。
なんでかって?
ゲームのことを語るときは、勝手に私の心が熱くヒートアップしてるからです!!
「・・・・・いいですか?アルフ様は知らないでしょうが、こういうダンジョンの奥にある宝物には、必ずそれを守るガーディアンとか、魔物のボスが大概はいるものなんです!!」
「は?」
「そもそも、まだこのダンジョンにはボスが1人も現れてません!こういう場合、最後の最後に宝物の直前でボスが現れ、なおかつ連戦の可能性もあるし、宝物を取りに来た主人公の仲間がその宝物に取り憑いた何とかの怨霊とかにとりつかれて、敵としてバージョンアップして後から出てくる場合もあるんです!!その時になぜか同じ肉体のくせにメチャクチャ強くなってて、戻ってきたらあの強さはどこへ?ってくらい拍子抜けで、なおかつレベルもそのまま!!そもそも、敵の時に強かったキャラが仲間になるととんでもなく使えないキャラなのは、ある程度お決まりでむしろそのキャラ経由で繋がる仲間の方がはるかに使えて・・・・・・って、あの、アルフ様??」
「ーーーーーーー」
私のゲームあるあるスイッチが入ってしまい、ついつい熱弁をその手を強く握りしめながらしてしまったが、アルフ様はポカーーーーーンと電池のきれたおもちゃのように、動かなくなっていた。
うーーーん、レオやグレンさん辺りなら、私がヒートアップして話しても、冷静にそれってなぁに?それはなんなんだ?と1つ1つ興味をもって聞き返してくれるんだけど、アルフ様にはどうやら異次元過ぎて魂が飛んでしまったらしい。
まぁ、確かに本物の王子様なら、もし本当にこの世界にゲームがあってもやらないよね?
なんとかの王子様はゲームや漫画の中でそれはそれは溢れてるんだけどなぁ〜〜今度、ラケットみたいなの作って持たせてみようか?
「おーーーい、アルフ様?」
「・・・・・・・」
目の前で手を上下左右に動かしたり、目の前でパチンと手を叩いたり、ほおを軽くペチペチしてみたけどダメだった。
よくある、ほおをバチンバチンすることも考えたけど、さすがにそれは後から殺されると思って、それは最後の手段にと取ってあります。
「おーーーい!アルフ様のでべそ」
「・・・・・・・お、俺はでべそじゃないッ!!!!」
ボソッと試しに呟いてみたが、まさかのこれで覚醒!?
「よ、よかったぁ!!」
「よくない!!きさま!!今すぐ今言ったことを訂正しろ!!」
怒ったアルフ様は、そのまま剣を抜こうとする。
「す、すいませんでしたーーーーー!!」
もしかして、あの時も本当は聞こえてたりしないよね?
その確認はさすがに怖くてできませんでした。
って、そうそう小瓶ですが、あのあとすぐに緑の魔女様からの声が聞こえて。
『そんな捻った小細工は一切施してないから、安心して小瓶を持ち帰っていらっしゃい』
だそうで、何ともすんなりゲットできてしまいました。
「お前のせいで、無駄な時間を使ったじゃないか!!」
「仕方がないでしょう!?私はゲームでは慎重派なんですーーー!!」
「お前が慎重派?トラブル見つけたらとりあえず突っ込んで行くやつの、一体どこが冷静なんだ?笑わせるな!!」
「行動派と言ってください!!ゲームでは準備に準備を重ねすぎて、寄り道王だなんて名誉も頂いてしまうぐらいラスボスに突っ込んで行かない慎重派なんです!!」
「それはもう慎重とかいうレベルじゃないだろっ!!」
確かに、ごもっともで。
そんなこんなで私たちは無事に青い小瓶をもって出口へと向かう。
出口は祠の辺りを振り返ったら1つの扉ができており、その扉を開いたら元の木の廊下に出ていた。
おかしい。
宝物をゲットしたんだから、もっと感動に涙しあってもいいくらいなのに、何で私たちはずっと口喧嘩をしてるんでしょうか??
しかも、なぜかうっかり手を繋いだまま。
それに気づいたのは、緑の魔女様とジークフリート様達がいる部屋に戻った際に、ニコニコニッコリのあの顔で言われたからだ。
「まぁ、本当に2人は仲がいいのね〜〜」
「へ?」
「は?」
それがお互いに無意識だった為に、2人して顔を真っ赤にしながらものすごい勢いで手を振り払った。
「ち、違う!!この女が先に手をつかんできたんだ!!」
アルフ様!!人を指差しちゃいけない!って教わらなかったんですか!!
「ちょ、ちょっと、誤解されるようなこと言わないで下さい!!あれは、むやみやたらに触らないようにと止めただけじゃないですか!!」
ここで引いたら認めたことになると、私もアルフ様に食ってかかる。
「フンッ!そのあとも強く握ってきたのはそっちだろう!!」
「それは、ついついゲームのことで熱弁したからで・・・・そもそもアルフ様だって、自分から手を離そうとしてなかったないですか!!」
「そ、それはお前が離さないからっ!!」
「いいえアルフ様がっ!!」
「もういいっ!!!」
「「 !!?? 」」
まさに鶴の一声。
その場にジークフリート様の低い美声が力強く響き渡り、私とアルフ様は全身ビクッ!!と震えながら会話を一斉に止めた。
「それで、緑の魔女様から言われた小瓶は?」
な、何やら本気で怒っているようで、今までにない怖さをジークフリート様から感じております。
「・・・・こ、ここに」
それはアルフ様もそうらしく、あんなに赤くなっていた顔が真っ青だ。
「ならば、2人ともケガは?」
「「 ・・・・あ、ありません!! 」」
素晴らしい!こんな時なのに、見事なハモりだ。
そして、そんな震え上がる私たちのそばまでジークフリート様が近づいてくる。
「「 !!?? 」」
雷が落ちる!!と覚悟を決めた私たちに、ジークフリート様はその肩を抱いてポンポンと叩いた。
「よく、無事に帰ってきてくれた!」
「・・・・・・ッ!!」
「ジークフリート!」
多分、任務を終えた騎士院の兵に対していつもやっていることなんだろうと思った。
その穏やかな瞳には、信頼と安堵が入り混じった温かいものに溢れている。
私はその顔を見たらもうたまらなくなって、ついついその体に抱きついて泣いてしまった。
ジークフリート様も私の背中に手を回して、落ち着くように何度もその背を撫でてくれる。
いやいや、こんなところでうっかり惚れ直してる場合じゃないんだけど、すいません!本気でこれはトキメキました。
「あらあら・・・・もう一杯、お茶の用意が必要かしらね?」
緑の魔女の家の開け放たれた窓を通して、爽やかな風が通り過ぎていく。
今回の旅も、もうすぐ終わりへと向かっていた。
はい、2人きりにしておくと、勝手にケンカを始めてました。
レオとなら彼が最後は譲るのでケンカにはならず、ジークフリート様ならそもそもケンカにはならなそう。ルーク相手なら、余裕の彼に上手く丸め込まれてクローディアが後で悔しがる感じです。




