モブ女子、懐かしい温もり
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
バーチの身体から、生命である赤い血が次から次へと身体の外へと流れていく。
それを止めようと必死に手で引き止めても、血に塗れるだけで何の意味も成さない。
ようやく会えたのに。
まだ、何もこの男と向き合って話せてないのにーーーーーーまた俺は目の前で失うのか?
「バーチッ?!ダメだ!死ぬなんて許さないッ!!」
「おれは、あなたを・・・・うらぎりました」
俺を見上げるその顔は、あの頃と全く同じ強面ながら優しい目をしている。
「もうしわけ・・・・ありません」
「嫌だ!!バーチ!!死ぬな!!死なないでくれっ!!!」
どうしたらいい?!
このままでは、本当にバーチが死んでしまう!!
いざとなってみれば王子だろうが、貴族だろうがそんなものは何にも役に立たない。
何で、なんで俺はこんなに無力なんだっ!!
「アルフレド・・・さま」
バーチの血まみれの手が、俺の頬に触れた。
「おおきく・・・なられた」
「!?」
その大きな手を、俺の両手でしっかりと握りしめる。
それは昔から大好きな、俺の頭をいつも優しく撫でてくれた温かい手だ
お願いだっ!!
神でも女神でもいい!!!
誰かっ!!
誰かこの人を助けてくれっ!!
俺は、母上のことを守ってくれなかった!と責め、二度と祈ることはしないと決めた神に心から祈った。
そしてーーーーーーーー。
「・・・・・・大丈夫」
「!?」
その時、俺の目の前に現れた光の中で『彼女』が俺に笑いかける。
「私が彼を、死なせない」
「あ、あなたは・・・・?」
「クローディアッ!!」
気づくと俺の隣に座り込んでいた彼女は、バーチの手を握りしめる俺の手の上からその両手をしっかりと重ねた。
「あなたには、謝る人が他にもいるじゃないですか。その人に会わないまま、死ぬんですか?」
「ッ!?」
バーズはその言葉の意味をすぐさま理解し、苦しそうに顔を歪めた。
そして、クローディアが触れた手のひらから何かとても暖かいものが流れてきて、バーチの傷がどんどん塞がっていく。
「す、すごい!」
「これは・・・・っ」
あんなに土気色だったバーズの顔色が明るくなり、大量に流れ出た血ですらも何ら熱を感じないまま蒸発して消えてしまった。
ついでに傷だらけだった俺自身の体のケガも癒され、身体が一気に軽くなる。
それは、夢でも見ているかのような気分だった。
「・・・・・あなたは、一体?」
バーチは未だに目の前で起きたことが信じられないと、戸惑った目で彼女を見つめる。
「私はただのモブ・・・じゃなくて、王都で暮らす普通の庶民です。さ、傷口が塞がったから、起きあがれると思いますよ」
「!?」
ゆっくりとバーチが身体を起こすと、なんの痛みも感じずに動けた。
信じられないことに、あれだけの大ケガをしていながら手足に少しのしびれや違和感なども全くない。
「・・・・・ありがとう、ございました」
バーチは座ったまま、深く頭をクローディアに向かって下げる。
「いえ、お礼なら私ではなくて、アルフレド様に伝えてあげてください」
「!?」
クローディアの言葉に、ハッとなって彼の方へ顔を上げると、アルフレドが昔のように顔をぐしゃぐしゃにしながら泣いていた。
「アルフレド・・・・さま」
「バーーーチッ!!!」
そして、記憶にある姿よりもはるかに身体の大きくなった彼は、バーチの広い胸の中に飛び込むと声をあげて泣き続ける。
国王陛下と王妃の前では褒められたいからと強がっていた子どもの彼は、泣くのはいつも自分の前でだけだった。
「本当に、すみませんでした」
「・・・・・ッ!!」
いつもそうしていたように、バーチはアルフレドの身体をしっかりと抱きしめる。
二度と触れることはかなわぬと思っていたその温もりに、バーチの目からは静かに涙が落ちた。
「・・・・・・よかった」
目の前の温かい光景に、クローディアはようやく心からほっと胸をなでおろした。
すると単純なこの身体は、魔力を立て続けに大放出した為なのか休息を得たい!とすぐさま強烈な睡魔に襲われる。
「・・・・・・・ッ」
抵抗する気力もわかず、そのまま頭の重みで引っ張られるようにして体が地面へと倒れていったが、私の体は地面に横たわることはなかった。
「本当に、よく頑張ったな」
倒れていくクローディアを抱きとめて横抱きにすると、ジークフリートは優しい眼差しで彼女を見つめる。
腕の中の彼女は、すでに小さな寝息を立てていた。
ジークフリートの肩口には炎の鳥のマーズが定位置とばかりにそこへ収まっており、眠る主を確認すると空へとしずかに溶けていく。
先ほどまで戦っていた銀の騎士は、戦いの最中に突然動きを止めて剣をおさめると
『今日のところはこれまでだ。残念ながら、今すぐ戻れとの命令だ』
とだけ俺に告げ、歪んだ空間の中へと消えてしまった。
結局、『彼』の正体については何も分かっていない。
「あいつとは、いつか決着をつけなくてはな」
『次に会う時は、今よりも強くなったお前を期待して待っている』
空間に消える間際、銀の騎士はそれだけを告げていった。
あいつの望む、昔の俺には戻らない。
だが、今の俺のままではあいつには勝てないのも分かる。
そして、そう遠くないうちにその時が来ると、なぜかは分からないが確信できた。
「うーーーん・・・・・」
「!?」
「ジーク、フリートさまぁ〜〜・・・・」
腕の中の彼女が自分の胸の方へと顔を寄せてきたと思うと、俺の名前を呼ぶとともにフワリと笑う。
それはそれは、幸せそうに。
「ーーーーーーッ」
気づいた時には身体が先に動いていて、ジークフリートは彼女の額へとそっと唇を寄せた。
その瞬間、『愛しい』とただそれだけを感じて、彼女の身体をよりしっかりと抱きしめる。
彼女に守られるのではなく、これから先に何があっても彼女を守れる強さが欲しい。
それだけを強く思った。
最後、もう少しいけるかと思ったんですがまた眠ってる時なのでこの辺で。
亀のような歩みの2人ですが、どうぞ温かい心で見守ってあげて下さい。




