モブ女子、信じていたんだ
読んでいただき、ありがとうございます!
それぞれの戦いが次々と進んでいくんで、私が混乱しないようにですね!
ずっと、バーチがなぜあの時俺達を裏切ったのかと分からなかった。
そもそも、最初から裏切るつもりでいたのかと。
俺や母上と過ごした優しい日々は、全てが嘘だったのかとーーーーーーそれを認めるのが嫌で、俺はそのことを考えるのをやめた。
『ゴホッ、ゴホッ・・・・』
『大丈夫ですか?』
『バーチ、父上と母上は?』
『お二方とも、仕事でまだ来れないと』
『そっか・・・・ゴホッ、ゴホッ!』
『アルフレド様!しっかり!』
小さい頃、病がちだった俺の側にいつもいて看病をしてくれていたのはバーチだった。
咳で苦しい背中を大きな手でさすり、苦しくて眠れない時は一晩中手を握りしめて、眠りにつくまで見守ってくれた。
城のすぐ近くにある山で、母上に渡す果物を俺の我儘で取りに行った時も。
俺が過って足を踏み外し崖から落ちそうになったのを、身体をはって助けてくれたのも付き添ってくれていたバーチだった。
『アルフレド様、大丈夫ですか?』
『バーチ!!ちが、ちがたくさんでてる!!』
『これぐらい、大丈夫です。それよりもあなたは?』
『ぼ、ぼくはおまえがまもってくれたから、だいじょうだ』
『良かったです』
その時のバーチのケガは軽いものではなく、打ち所が悪ければ命だって危ない状況だった。
あれも、これも、全部嘘で演技だったとでも言うのだろうかーーーーーーー?
俺や母上を殺すつもりでいたなら、なぜ俺をあの時も助けたりしたんだ!
あの女の命令で暗殺するつもりで側にいたなら、俺を見捨てれば事は済んだのに!!
なぜ俺に信頼をさせてから裏切ったっ?!
「バーチ!!お前にもう一度会えたら、ずっと聞きたかったことがあるっ!!」
ガキンッ!!!
大きな音を立てて、2つの剣が互いの距離を詰めながらぶつかる。
「・・・・なんですか?」
「なぜ、なぜ強力な毒を飲ませたのは俺ではなく、母上だったっ!?」
「何を言うかと思えば、同じ毒ですよ。たまたまあなたが毒に対して耐性ができたいただけでは?」
「嘘だッ!!」
確かに毒は俺にも盛られて、俺と母上は同じ瞬間に倒れた。
胸元が熱く苦しくなって、激痛に意識を失う寸前に視界に映ったのは、母上がゆっくりと地面に倒れていく姿。
優しい笑顔を絶やさないキレイな母が、大量の血を吐いて地面に倒れた姿は、俺の脳裏に焼きついて今でも鮮明に頭の中でも何度も繰り返される。
そして三日三晩苦しんで意識を取り戻した俺とは違い、母上は何の苦しみもなく死んだように眠り続け、そして意識を戻す事はただの一度もなかった。
「全部、アビゲイルの命令なのかっ!!あいつが母上を憎んで!!」
「あなたにそれを答える義務は、今の俺にはありません」
「バーチ!!」
「知る必要はないでしょう?あなたはここで死ぬんですから」
「!!??」
あまり多くを自分からは話さない、無口で無骨な男だった。
顔立ちもどちらかといえば強面で、笑うことも少なかったバーチ。
それでも、自分の側にいてくれたバーチはいつだって優しく、王である父親が国務が忙しくあまり側にいない自分にとっては、父のように慕い全面的に頼りにしていた暖かい存在だった。
その男が冷たい目線で俺を見る。
いや、その瞳には俺すらも映っていない。
『甘かろうがなんだろうが、相手を疑えば疑われるし、相手を信じるから相手から信じてもらえるんですっ!!』
その時、ふと頭に浮かんだのは彼女の言葉だった。
彼女は会ったばかりのあの女を裏切るかもしれないと分かっていて、それでも最後まで信じていた。
裏切られた後も彼女の為にと動き、相手のことなのにも関わらず泣いていた。
あの女だからまだ良かったものの、そんなもの相手が違ければ、こちらが痛い目を見て終わりだ。
本物の悪党は、どこまでも悪党でしかない。
では、バーチは?
何のためにあんなことをバーチがしたのかを、俺は何も知らない。
いや、何年間も一緒にいたのにも関わらず、バーチという人間を俺は本当に何も知らないのだ。
「・・・・・俺は、お前が知りたいんだバーチッ!!」
「!?」
「バーチっ!!俺はお前が何もないのに、あんなことをする人間がだとはやはり思えないっ!!」
「・・・・愚かな。あなたに見せていた俺自身が偽りだと、そう言ったではありませんかッ!!」
「ぐっ!!」
バーチの重い剣に剣ごと吹き飛ばされて、地面にふたたび投げ出される。
身体にはすでにいたるところにバーチにやられた鋭い斬り傷があり、地面や木に何度も激しく投げ出されては打ち付けられてボロボロになっていた。
「もう、あなたはここで死になさい」
「!?」
そして、バーチがケガの痛みで動けなくなっている俺に向かってとどめの剣を突き刺す為に、大きく頭上に掲げる。
「バーーーチッ!!!!」
信じていた。
お前をずっと、ずっと憎んで恨んできたけれど。
本当はずっと、お前を信じていたんだ。
「・・・・・・ッ!!」
俺は来るべき痛みと衝撃に目を瞑って覚悟を決めるが、その痛みは来ない。
「バーチッ!?」
目を開けて見れば、バーチが俺に向かって剣を振り上げたまま、全身を震わせて立ち尽くしている。
「・・・・・・アル、フレド、さま」
バーチの瞳に光が映り、俺と彼の目がしっかり合う。
「ば、バーチ、なのか?」
「も、もうしわけ・・・・ありま、せん。これは・・・おれの、いし・・・では!」
震えたバーチが歯を食いしばり、全身に力を入れながら必死に何かと彼は戦っていた。
「は、バーチ!!」
「きてはいけないっ!!!」
「!?」
駆け寄ろうとした俺を、バーチがすぐさま鋭い目と声で止める。
その間もバーチの身体は震え、涼しい顔をしていたはずの顔中から汗が噴き出てていた。
「いま、あなたにちかよられたら・・・・おれは、あなたを殺してしまうかも、しれない」
「い、いったい、お前に何が起こってるんだっ?!」
「アルフレド王子、お前を殺す!」
「!?!?」
「そうは・・・・させないッ!!」
一瞬、先ほどまでの目がうつろなバーチに戻ったかと思えば、すぐさまそこに光が戻り、バーチは剣の柄をさらに力強く握りこむと、それを自分の腹に向かって一気につきたてた。
「バーーーチィィィーーーーッ!!!!」
俺の眼の前で、大好きだった男が血を噴き出して倒れていく。
あの時の母上のように、俺の眼の前で。
殺したいほど憎んだ男だったのに、なぜ俺はいま眼の前で死にそうになっている男を前に、涙がこんなにも溢れるのだろうか?
書き途中、何度もバーチの名前をバーズと書き間違えてしまい、そのつど彼に謝りました。
彼の名前を考える時に、最後まで悩んだ候補でした。




