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モブ女子、約束を果たすために

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


今回がイザベル編のラストになります!

そう、彼の体にもついに恐れていた『モルス』が発症してしまったのだ。



だが比較的その進行が遅いことに気づいたヨハンは、父であるライアットと妻である娘に頭を下げて頼み込み、ある決意を伝える。



自分の残されたわずかな人生は、全てベルの為に使いたいと。



妻である娘は最初からヨハンの心に別の人がいることに気がついており、私にはこの子がいるから平気ですと、息子を抱き締めながらヨハンを許した。


ライアットも、残された家族の面倒はこの生有る限り自分が見守ろうと彼の決意を認めた。


いや、認めなくとも彼は絶対にそうしてしまうことを知っていたからかもしれない。


そしてヨハンはもう一度、『クヴァーレ』の街を訪れる。



『その娘なら、すでに死んだと前にも話しただろう!!』


『いいえ、彼女は生きてる!!お願いですから、一目彼女に合わせてください!!』



そんなやり取りを何十回と繰り返して追い返しても、ヨハンは決して諦めず何度でも店を訪れた。


そんなヨハンにしびれをきらした店側が、用心棒の男に彼を捕まえさせて、とうとう彼は地下の牢屋に入れられてしまう。



そこで出会うことになるのが、『ロイド』さん。


もう残された時間がおそらく少ないと悟ったヨハンは、ロイドにイザベルの話をたくさん伝え、自分の代わりに彼女に会えた時に渡してほしいと銀のブレスレットを託す。



「・・・・・・それで、ヨハンは?ヨハンはどうなったのっ?!」


「約束の樹の下に行けなくてごめん。君を心から愛してる。どうか誰よりも幸せに。これが、最後に大量の血を牢の中で吐いて、最後を迎えたヨハンさんからイザベルさんへの言葉だそうです」


「・・・・・・・ッ!?!?」



イザベルの顔が真っ青になり、顔は涙でぐしゃぐしゃになったまま、イザベルの足がその場に崩れ落ちて地面に座り込む。



「・・・・・いやよ、いや!!」



まさか、ヨハンがもうこの世にいないなんてっ!!



「ヨハン・・・・・ヨハンッ!!」



あなたに一目会うためだけに、あの地獄を耐えて生きてきたのに!!



「ごめんなさい。今、会いに行くわ・・・」


「!!??」



涙に濡れた瞳が強く光り、素早くイザベルが足に隠していたナイフを自分の胸に突き立てるために取り出す。


だが、そのナイフはイザベルの胸ではなくクローディアの手のひらの中で赤い血を流した。



「あ、あなた・・・・何をっ?!」



ナイフをとっさに掴んだことで、クローディアの手からの血が地面にポタポタ落ちる。



「ダメ・・・・死んじゃダメッ!!!」



目があったクローディアは、泣いていた。



「「クローディアッ!!!!」」



ジークフリートとアルフレドが、その血に慌ててその場に来るが、クローディアが首を振って笑いながら大丈夫と伝える。



「・・・・イザベルさん。私とも約束、したでしょ?」


「!!??」


「ゆびきり、したじゃない」


「・・・・何を言って」


「約束、守らないで死ぬなんて許さない!私や他の女性を騙して裏切ったのに、簡単にその命を投げ出すなんて、絶対に許さない!!」


「・・・・・・・ッ!!!」



止まらない涙を次から次へと溢れさせては、彼女の瞳は怒りに震えていた。



「ヨハンさんに会いに行くなら、彼の最後の言葉通りに幸せになってからでしょっ!!」


「・・・・・ヨハンが、ヨハンがいないのに幸せなんてッ!!」


「バカッ!!!ここに彼はいるじゃないっ!!!」


「!!??」



ガシッ!!と、クローディアが銀のブレスレットをイザベルの手の上から強く握りしめる。



「命をかけて、彼はここまで来たんじゃない!!ようやく、2つのブレスレットが出会ったんだよ?彼はちゃんとここにいる!!あなたのそばにずっといるっ!!」


「・・・・・・・・」




『ずいぶん前に、父さんの部屋にあった本で読んだんだ。村の外れのあの樹には伝説があって、お互いの名前を書いた銀色のアクセサリーを身につけて、木の下で愛を誓うと永遠にその2人は幸せになれるって』



『それを本で見つけてから、絶対にベルに銀のアクセサリーをあげよう!って、ずっと前から決めてたんだ』




イザベルが銀のブレスレットを手の中で動かすと、そこには少し錆び付いてはいるもののヨハンが自ら削り入れた『BERU』の文字が。



『約束の樹の下に行けなくてごめん。君を心から愛してる。どうか誰よりも幸せに』



「ヨハン・・・・ヨハンッ!!!」



イザベルの手からはナイフが落ち、クローディアは血まみれのその手を握りしめながらイザベルの体を抱きしめた。


ナイフで斬られた手の平は痛かった。


でも、こんな痛みよりも彼女の方が痛い。


ヨハンのことを聞いた、彼を何も知らない自分でも心が痛むのだから、彼を心底愛して愛された彼女の痛みは想像もできない。



しばらく、ただヨハンの名を声に出しながら泣くことしか出来ないイザベルを、クローディアは黙ったまま抱きしめることしかできなかった。








「・・・・私が、あなたのお店の店員に?」



イザベルが落ち着き、これから生きていこうにも居場所がないと話す彼女に、クローディアは自分の店で働かないか?と提案した。



「うん、そう!お母さんがウェイトレスさんを前に募集してたし、イザベルさんのようなキレイな人がお店にいたら、きっとどのお客さんもすごい喜ぶよ!!」



特に、彼女目当ての男性客は激増することだろう。



「でも、いいのかしら?こんな私が・・・」



いくら奴隷の焼印が消えたとはいえ、体を売っていたような人間がまともな仕事をするなんて。



「大丈夫!!お母さんはそういうことを気にする人じゃないし、一緒に働くおばさん達もみんな温かい人達だから、絶対にイザベルを歓迎してくれる!」


「・・・・・クローディア」


「それで私が王都に戻ったら、約束のケーキを一緒に食べに行こう!!」


「・・・・・・えぇ」



クローディアの明るく眩しい笑顔が、今はとても温かい。


私が騙して店に連れていった他の娘達も、クローディアが逃がしてくれたとのことだった。


彼女らは私を恨むどころか、死ぬことしか考えていなかった自分達に生きたいと思える今日の日を迎えられたのは、私のおかげだからと笑って店を出たという。


自分の目的の為に利用されたのに、なぜそんなことを彼女らは思えるのか。


申し訳ない気持ちと、彼女らの優しさに私は再び涙を流した。



そして、店の男達はクローディアの炎の魔法に丸焦げにされた挙句、全身を炎の鎖で巻かれて火傷の激痛を味わいつつ、近くの町の警備の騎士に引き渡されたとのことだった。



「ボルケーノ、イザベルをよろしくね!」


「あぁ、すぐに王都に送り届けてやろう」


「ありがとうございます」



しかも、あの炎の神が魔法で私を王都まで送り届けてくれるという。


ちなみにクローディアの傷ついた手には、すぐさまジークフリートによって薬が塗られた後、丁寧に布が巻かれていた。



「大丈夫か?」


「は・・・・はぃ」



彼の大きな手に包まれながらとても優しい眼差しで手当をされていることを、多分顔を真っ赤にした彼女は気づいていない。


そして、その光景を近くで見ながらわけのわからない苛立ちに歯を食い縛っているどこぞの王子様のことも。



「それじゃ、イザベルさん!また王都でね!」


「もう、クローディアったら。さんはいらないわ」


「えっ?!じゃ、じゃあまたね、イザベル!」


「えぇ・・・・あっ!」


別れの挨拶をしていたイザベルが、そっとクローディアの耳元に唇を寄せる。



「騎士さんと、お幸せにね」


「・・・・・・ッ!!??」



その言葉に顔を真っ赤にしてあわあわするクローディアの額にそっとキスを贈ると、今度こそ手を振って彼女達に別れを告げて歩き始めた。



「ボルケーノ様・・・・少しだけ、森を歩いてからでもいいでしょうか?」


「あぁ、もちろんだ」


「ありがとうございます」



炎の神の了解を得ると、イザベルは気持ちのいい風が吹く森の中を伸び伸びとした気持ちで歩く。


こんな風に爽やかな風を感じて歩くのは、本当に久しぶりだ。


ふと見上げて見れば森の上には澄み切った青空と太陽が光り、全てを温かく照らしている。



「ヨハン・・・・これからは一緒に、幸せになりましょうね」



そしてその空を見上げたまま、イザベルは優しい微笑みで自分の右手と左手の小指をそっと絡ませた。


左右にはそれぞれ銀のブレスレットがつけられている。




「ゆ〜びき〜りげんまん、う〜そついたらはりせんぼんの〜ます、ゆびきった♪」




森の中ではしばらく、イザベルの美しい歌声が響き渡った。



最後の場面が彼女のキャラとともに浮かび、そこに向けてこの話を書いていました。


また、イザベル嬢は王都に帰ったらぜひ登場していただきたいです!

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