モブ女子、君に逢いたくて
お読みいただき、ありがとうごさいます!!
ようやく『彼』のそれからを書くことができました!
ジークフリートはどうしても彼女が心配で落ち着かないアルフレド王子に、あの爆発の炎がボルケーノ様の炎だということを伝えた。
なぜ分かるのか?と問われれば、同じ炎でできているこの剣が反応しているからだとしか言えない。
剣を通して何か伝わってくるものがあるのだが、それを言葉にするのは難しかった。
いや、そもそもボルケーノ様の力を借りたクローディアが、屈強な男達とはいえ普通の人間に負けるはずがない。
しかも今の彼女には氷の神の魔法も使える。
「それで、いつまでここで待てばいいんだっ!?」
アルフレド様はすぐにもあの爆炎の地に向かいたいようで、立ったり座ったりしながらずっと安心できない様子だった。
そして、涙がようやく止まったイザベルは、爆炎の地を黙ったまま見つめている。
彼女もまた、クローディアが心配なのだろう。
騙して裏切ったとは言っても、少しの後悔もせずに彼女がそれをしたのではないことは、その目を見てわかった。
後悔も迷いもした上で、そうせざるを得ないと決めて動いた上での結果であると。
「・・・・・恐らく、もうすぐかと」
炎の気配がだんだんと強く近づいているのが分かる。
そして、次の瞬間ーーーーーーーー。
空に炎のサークルが突然現れてその中の空間が歪み、燃え盛る炎に包まれながらのクローディアがついに現れた。
「あ!!イザベルさん!!よかった〜〜無事だったんですね!!」
炎の中から地面に降り立ったクローディアは、真っ先にイザベルの元へと急ぐ。
「・・・・・あなた、裏切った相手に対して、最初に言うのがそれなの?」
イザベルの顔が、今の複雑な心情を表すかのように歪む。
「だって、あいつらが約束を守るとは到底思えなくて!何か仕掛けてくるとは思ったんだけど」
腕を組みながら、悔しそうに頬を膨らませるクローディアに、イザベルが顔を伏せる。
彼女からの言葉は、予想だにしないものばかりだったのだろう。
そして、彼女の出現を心待ちにしていた人物がここにもう1人。
「クローディアっ!!お前はどれだけ無茶をすれば気がすむんだっ!!」
「・・・・・アルフ、さま?」
彼の『変化』に、クローディアが目をパチクリさせている。
「なんだ、その顔はっ!!」
「あ、いえ。あの・・・・名前を読んでもらえて、嬉しいです!」
「!!??」
アルフレド王子の顔が一気に赤く染まり、腕を腰に当てながら彼女から顔を背ける。
「う、うるさいっ!!俺様が名前を呼ぶ庶民の女は、お前が初めてだからな!!光栄に思えよ!!」
「はいっ!!」
ニッコリと、心から嬉しそうにクローディアが笑った。
「!!??」
アルフレド王子の顔はさらに赤くなり、とうとうクローディアからはぐるっと回って背を向ける。
あんな王子の姿を見たのは初めてだ。
「クローディア、無事で何よりだ」
ジークフリートの大きな手が、クローディアの頭を撫でる。
「・・・・・は、はぃ」
先ほどの王子に見せたような笑顔が見れるかも思ったが、クローディアはうつむきながら小さく返事をした。
クローディアよりもだいぶ背の高いジークフリートからは、うつむいた彼女の顔が見えなかったのだ。
彼女の、真っ赤になった顔が嬉しさと気恥ずかしさとで、はにかむような照れたような笑みの顔が。
「!?」
その顔をふと振り返り、バッチリと見てしまったアルフレドは、突然胸に走った痛みに頭をかしげる。
「・・・・・な、なんなんだ?これは」
その痛みの意味を、彼はまだ知らない。
そして、クローディアは意を決したように真剣な表情になると、もう一度イザベルに向き合った。
「イザベルさん、あなたに渡したいものがあります」
「え?」
クローディアは、洋服のポケットにしまっていたそれをイザベルに見せる。
「・・・・・ッ!?」
それは、あの牢屋で出会った男性が身につけていた銀のブレスレット。
「こ、これをあなたはどこでっ!?まさか、まさかヨハンに会ったのッ!?」
申し訳なさと様々な後悔に襲われていたイザベルの顔が一気に変貌する。
「・・・・・何から話したらいいのか」
「お願い、なんでもいいから全部話してっ!!」
彼に繋がることなら、どんな些細なことでも構わない!
「・・・・・分かった」
イザベルの手に銀のブレスレットをそっと握らせると、クローディアはわたしが見たこと聞いたことを全部話しますと、口を開き始めた。
あの時、私が牢屋で出会ったのはボサボサの髪の毛と伸び放題の髭に覆われた、瘦せ細った男性でした。
彼は店のお金と女に手を出したことから、10年近くその牢屋に入ってたそうで、名前はロイドさん。
私も彼がヨハンさんかと思ったけど、彼は全くの別人でした。
そして、この銀のブレスレットは少し前に私が入っているこの牢屋にいた、ある人から頼まれて預かっていたそうです。
いつか牢から出たら、この街にいる『ベル』という女性に渡してほしいと。
「・・・・・どういう、こと?ヨハンが、店の牢の中にいた??」
ブレスレットを持つイザベルの手が震える。
私は話を続けた。
ロイドさんは何年もその牢屋の中に1人でい続けた為、久々の人との関わりに喜び、なんでもいいから話してくれとヨハンに頼み込んだ。
ヨハンさんは彼に色んな話をし、その中でも特にイザベルさんの話を多く聞かせてくれたそうです。
イザベルさんがあの日、村から消えてからの日のこともーーーーーーー。
ヨハンさんは、イザベルさんが村から消えた次の日に村に戻ってきた。
『父さん!!なんで、なんでどこにもベルがいないんだっ!?』
ベルは村にいないばかりか、ベルの家の中もメチャクチャにされていた。
絶対彼女に何かあったに違いない!
『・・・・村の者は、彼女は1人で村を出ていったと』
『嘘だっ!!ベルが僕を置いて1人でどこかに行くはずがないっ!!』
『・・・・・だが、それが事実だ』
『父さんっ!頼むから本当のことを教えてくれっ!!』
イザベルをさらった男達は、村の人達にも脅しをかけていた。攫われたのではなく、自ら村を出て行ったと。
だが、そのことを決して信じることができなかったヨハンは自分でその行方を調べ始めるが、一向に手がかりの1つも見つからない。
そんな時に、村にはある恐ろしい病が襲う。
『モルス』と呼ばれたその病は、動物の血肉によって伝染し山奥の村に流行ることが多い。
王都などの栄えている場所であれば薬が手に入り完治しない病気ではないが、貧しい農村の村ではそれがかなわずに死んでいくものがほとんどだった。
そして、この病の特徴は進行のスピードが人によって違うということ。
同時期に発症しようとも、数ヶ月で亡くなるものもいれば、数年生きるものもいる。
だが最後はどちらも同じ。
体内の細胞がどんどん壊されていき、血を吐く量が増え、体が衰弱しながら死ぬのだ。
その病に村長の息子達3人が発症してしまい、その進行もとても早く発症してからわずか2ヶ月ほどで3人とも命を失ってしまった。
『なんということだ!まさか、マシューにソル、イサックまでもが死んでしまうとはっ!!』
父であり村の長であるライアットは、悲しみのあまりに酒を飲んで部屋に1人で篭っていたが、その扉を1人の青年がノックする。
『・・・・・父さん』
『ヨハンか。どうした?こんな遅くに』
自分に残された、最後の息子ヨハン。
彼は幼い頃から頭がよかったが、兄達を出し抜こうは微塵も思わず、次期村長の座も早々に自ら候補から外れていた。
もうすぐ訪れる、18歳の時になったら自分の力で生きていく為に他の国へと旅に出たいという彼からの申し出を、ずいぶん前から自分も了承している。
『・・・・僕が、引き継ぐよ』
『なんだと?』
『僕がこの村の村長を父さんから引き継ぐ。後継者が必要なら、結婚して子どもも作る』
『ヨハン?』
ヨハンはこの村に留まることをあんなに嫌がっていたのに、突然なぜこんなことを?
だが、その疑問は次の瞬間に解決される。
『・・・・・だから、ベルに何があったのかを、本当のことを教えて下さい!!』
「!!??」
ヨハンは何も諦めてはいなかった。
彼女に繋がることならなんでもする!
その気持ち1つで、あんなに拒んでいたこの村に留まることを選ぼうとしているのだ。
必死に何度も頭を下げるヨハンに、ライアットはそのことを告げる決心をする。
「ーーーーーー分かった」
そしてヨハンは、イザベルが父親の借金の為にいかつい男達に連れて行かれたことを知った。
「ベル・・・・ベルっ!!」
ヨハンは、あの日のままになっているイザベルの家の中で泣いた。
突然見知らぬ男達に襲われて、どれだけ怖かっただろう。
どれだけ、辛い思いをしたことだろう。
もし、という過程の話は無意味とわかってはいても考えずにはいられない。
もしあの時自分がそばにいたら、彼女はまだこの街で一緒にいられたかもしれないのに。
『ベル・・・・待っててね。絶対に君を見つけ出すから!』
涙を手の甲で拭い取り、決意を決めたヨハンはその日から別人のように変わった。
3人の息子達が死んでから、気力を失なったライアットのかわりに新しい村長として認められると、すぐさま隣の村から村長の選んだ娘と結婚して子どもを作った。
村の発展の為に、様々な街・村に赴き、村の発展の為に役立つことはどんどん取り入れていき、村に住むもの達がより快適で便利に暮らせるように仕事に明け暮れた。
だが、父であるライアットだけは気づいていた。
彼が様々な街や村に行くのはこの村の為でもあるのだろうが、一番の目的は『彼女』を探しだすこと。
ヨハンは妻や幼い赤ん坊の子どもにも優しく接しているが、常に距離をおき、家庭よりも仕事に専念していることが多かった。
そんなある時、ついにヨハンはイザベルがいると思われる街『クヴァーレ』にたどり着く。
だが、その街の『蜘蛛の巣』で働く彼女はすでにその店の中でかなりの客がついていて、彼女のことを聞きに来たヨハンに、店の者は
『確かにその名の娘はいたが、昨年病で死んだ』と伝えた。
ようやくたどり着いた彼女の痕跡を、目の前で無くしたヨハンは全てを諦めそうになるが、そんな彼の目の前に村を訪れた旅の行商人がヨハンの身につけている銀のブレスレットを見てあることを告げる。
『あんたと同じようなアクセサリーを身につけた、女神のように美しい女性をこの間見かけた!と』
行商人はかなり興奮しており、その美しい女性のことをヨハンに自慢するように話した。
その話から、すぐにヨハンはそれがイザベルと気づく。
そしてあることをきっかけに、ヨハンは強い決意をして村を出ることとなるのだ。
医療の発達した現代に生まれたことに、本当に感謝ですね!
キャラ名前が後から重複していたので、ルイーズ→ロイドに変更しました。大変申しわけありません。




