モブ女子、約束です!
今回もお読みいただき、ありがとうございます!
視点が途中で変わるので、読みにくかったらすみません!
私達が、イザベルの働いているお店がある街『クヴァーレ』に着いたのは、お昼前だった。
そこはとても森の中とは思えない、石の壁に囲まれた大きな街で、その中には明らかに普通の飲食店ではない雰囲気持つ夜のバーも兼ね備えた造りや外装の店が多い。
大通りはまだ王都にもあるような活気のある
店が並ぶが、奥の通りでは人通りが一気に減り、ガラの悪そうな男や露出の多いセクシーお姉さんが立っていたりと、この街の夜の顔が今からすでにあちこちで見えている。
その中で私達は二手に分かれ、後から合流することとなった。
男性陣は宿屋の手配と酒場等での情報収集。
酒場には荒くれ者もいるとのことで、男性陣の担当となった。
私とイザベルは、せっかく街に来たのだからとイザベルが店に戻る前に買い物やおいしいお店に連れていってくれるということで、さっそく今はおいしいと評判のご飯屋さんに来ています!
「おいしいぃぃぃ〜〜〜!!!」
それは前世でいうところパスタとよく似たもので、森で取れた色々な種類のキノコを惜しげもなく使われクリームソースに絡められたそれは、本当に具沢山でお腹も満腹に満たされてしまった。
「味は濃いめだけど、けっこういけるでしょ?満足してもらえたならよかったわ!」
イザベルは、牛のお肉をシンプルに焼き上げた、前世でいうステーキの一口大に切られたものと、ブドウから作られたお酒・・・・ってつまり赤ワインじゃん!!
をゆったりとイスに腰掛けながら飲んでおり、無駄に色気を振りまいて店内の男性の視線を釘付けにしている。
「で、でもさ、仕事前にお酒飲んで大丈夫なの??」
「大丈夫よ、私けっこう強いから♪」
うん、確かに強そう!
お酒を手に持つ姿がまあ〜〜似合うことっ!!
「そっか。ちなみに、イザベルさんは甘いものとかって食べたりする?」
私は前世も今もお酒は弱い体質だ。
まあ、クローディアは前世の世界基準だとまだ飲んじゃダメな年齢なんですけどね!!
実はこっちの世界は、まだそういうのがきちんとは決まってない。
「・・・・・あら、けっこう好きよ?」
「ほ、本当?!」
「えぇ。ただ、残念ながらこの街だとお酒や食事がメインだから、おいしいデザートの店が少ないのよね」
それは、残念!!
ぜひとも食後はデザートが食べたい気分になったから、マッハで別腹を胃袋が勝手に作り上げたというのに。
「・・・・・あ!!そしたら、今度私の住んでる街にある、おいしいケーキ屋さんがあるから、一緒に行きませんか?!」
「えっ?」
自分の家がレストランということもあって、よくライバル店を知る為にという口実で王都の中のレストランやカフェを行きまくった時期があり、その時に覚えたおいしいデザートマイベスト10店なるものが実はあったりするのだ!
しかも、その中のベスト3はお互い牽制しあっていて競い合い、不動の1位は変わらないものの、そのおいしさは年々レベルが上がっている。
その、栄えあるマイライキング・不動の1位の店『RUKKA』!!
いや、マイじゃなくて王国内の公式ランキングでも、1位なんですけどね!
店内のアンティークな家具に囲まれた、品のあるそれでいて落ち着く雰囲気の店内。
そして繊細なデザインながらも1つ1つのケーキの大きさもしっかりあり、味も量も食いしん坊な私が大満足なケーキばかり。
甘いながらも後味はしつこくなく、何個でも行けそうな軽さとそれでいて一口でも満足してしまいそうな、そのアンバランスさ!!
あそこの期間限定で出た濃厚なクリームチーズのケーキは、一口ずつそのおいしさに悶えていたら食べ終わるのにかなりの時間がかかってしまった。
あれは本当に、心から幸せな時間だった!
そう、その私の舌を唸らせた期間限定クリームチーズケーキがなんと、近々再び期間限定で出るとの情報はすでに掴んでいる!!
「じ、じつはメチャクチャおすすめのケーキがあるんですっ!!!!」
バンッ!!!
「・・・・・あら、それはいいわね」
私が興奮気味に勢いよくテーブルの向かい側にいるイザベルさんに向かって体ごと前のめりになってつめよっても、なんら動じることなくイザベルさんが笑う。
「ほ、本当ですかっ?!?!そこのお店、女性2人で行くと、オマケのミニケーキがついてくるんですッ!!!!」
「いやだわ、そっちが目当てなの?」
「い、いいえ!女友達と一緒にそのRUKKAに行くのが、私すごい憧れだったんです!!」
「・・・・男性、じゃなくて?」
「はいっ!!!」
実はそのRUKKAは、いつからか男女がデートで使うと幸せになれると噂が立ち、女性同士で来るよりも、彼氏じゃなくとも男友達と来る人の率がとても高かった。
まさにカップル前の2人、カップルの2人、夫婦の2人に溢れている店である。
その中で、3時間も並んだ末に1人女子が入って一口ずつ身悶えながら食べている姿は、さぞかし異様だったことだろう。
そのことをイザベルさんに話したら、すぐさま笑われてしまった。
「バカね〜〜!!なんでそこにあの騎士さんを誘わないのよ?」
「えっ?!い、いや!?そ、そんな恐れ多い!?」
そのお店に一緒に行くだけでも鼻血ブーーものだが、ケーキに悦ってる姿を見られるのはさすがの私も恥ずかしい。
「フフフ・・・・いいわよ、今度一緒に行きましょう?あなたのオススメのケーキぜひ食べたいわ」
「やったぁぁぁーーーーー!!!」
「こんなことでそんなに喜ぶなんて、変な子ね」
「変でもいいんです!じゃ、イザベルさん、はい!ゆびきり!!」
「・・・・・・・え?」
キョトンとした顔のイザベルに向かって、小指を立てて向ける。
約束と言えば、全国世界共通ゆびきりだ。
「ゆび・・・きり?」
「はい!イザベルさん、知ってますか?ゆびきり」
「・・・・・・知ってるわ」
昔話の中でヨハンと約束した内容は教えたけど、彼女に『ゆびきり』のことは伝えていない。
まさか、今ここでそれが来るとは思わなかった。
「異世界でもゆびきりはゆびきりなんですね!」
「いせかい?」
「な、なんでもないですっ!!」
目の前に差し出された彼女の小指に、自分の小指をそっと絡める。
まさか、ヨハン以外の人間とコレをする日がくるなんてーーーーーーー。
「ゆ〜びき〜りげんまん、う〜そついたらはりせんぼんの〜ます、ゆびきった!!」
元気よく彼女が歌い上げ、私の指と彼女の指が離れる。
「本当においしいから、楽しみにしてて下さいね!!」
「・・・・えぇ、とても楽しみだわ」
こんな私との口約束に、なんでこの子はこんなにも嬉しそうにできるのかしら。
まだ会ったばかりなのに、なんでこんなに楽しそうなのかしら。
その後一緒に行った洋服のお店でも、彼女は大興奮で普段こんな服を着たことがない!!
と、少し露出の多い服を大興奮で着ては私を見てなぜか落ち込み、を繰り返していた。
でも、その間中も本当に楽しそうにずっと彼女は笑っていて、気づくと私は自分が普通の少女に戻ったような気持ちでその時間を一緒に楽しんでいる自分に気がつき、ハッとする。
ダメよ。
もうそろそろ、気持ちを決めなくては。
楽しい時間はもうすぐ終わるのだから。
「・・・・・・クローディア、最後にあなたにぜひ案内したいお店があるの」
「え?!なんだろ?すごい楽しみ!!」
「こっちよ」
街の大通りから少し外れたところに彼女を案内する。
ここを通るのは、もうこれで何回めだろうか?
「・・・・ついたわ、ここよ」
そして、今日が最後だ。
「へぇ〜〜〜骨董品屋さんか何かかな?古そうなものが多い感じ?」
「そうなの。何でも買い取って売り出してる、何でも屋さんなのよ」
「へぇ〜〜〜何でもか」
「そうだぜッ!!お前もなっ!!!」
「!!??」
ガバッ!!!
クローディアの後ろに突然現れた男が、頭の上からクローディアに大きな布をかぶせて、声が出せないように口の辺りを違う布ですばやく縛り上げる。
「ーーーーーーーッ!!!」
袋の中では彼女の声にならない声と、袋の中で手足をばたつかせて暴れている音だけが響いた。
「今回はずいぶん時間がかかったじゃねぇーーーか、イザベル!!」
「・・・・仕方がないでしょう!?若い女性が外からあの森に来るのは珍しいんだから!」
「お前もよくやるよな?これで何人目だ?」
「・・・・・それより、約束よ!!これで私は自由の身になるのよね?」
「あぁ、お前は今から自由だぜ。どこへでも好きなところへ行きな!!」
「!!??」
男のその言葉に、すぐさまきびすを返して店の入り口から駆け足で出て行く。
ごめんなさい!
ごめんなさいっ!!
ごめんなさいっ!!!
走りながら、自然と目からは涙が溢れた。
許してなんて、言わないわ!!
一生憎んで、恨んでくれてもいい!!
それでも、どんなことをしてでも私はどうしてももう一度ヨハンに会いたかったっ!!!
「・・・・・おい、リーダー。あの女逃していいのかよ?」
「まぁ、一応約束だからな」
「なるほど!! 確かに、約束だ」
イザベルの遠くなっていく後ろ姿をニヤニヤと下卑た笑みで見つめると、リーダーと呼ばれた片方の目に眼帯をつけた男が店の奥に入ろうと歩き始める。
「おい、リーダー!!こいつはどうすんだ!?」
「とりあえず、逃げないように手と足を縛って地下の牢屋にでも入れとけ!!」
「へっへっへ、りょーーーかい」
「街の入り口の奴らには伝えてあるんだろうな??」
「あぁ、ちゃんと伝えてあるぜ!!」
「ーーーーーーーー」
そして、クローディアを包んでいる袋を担いだ男が、地下へと繋がる階段に向かう。
先ほどまで袋の中で大暴れしていたのが、嘘のように静かになったことを気にしつつも、あまりのショックで袋の中で泣いているのだろうと理解し、男はそのまま牢屋へと向かった。
「一度捕まった蜘蛛の巣から、まさか本気で逃げられるとでも思ってるのか?」
店の奥にあった大きな椅子に座り、お酒の入ったグラスを手にとって一気に喉元へそれを注ぎこむと、眼帯をつけた男は窓から見える街の入り口に向かって怪しく話しかける。
「・・・・・なぁ?イザベル?」
そして、持っていたグラスを壁に叩きつけると、大きな声を上げて男は笑った。
別腹は、脳に食べたい!と刺激が行くと、満腹状態から一気に胃袋が食べたものを消化して本当に作り出すらしいですね!
まさに人間の細胞の神秘!!




