モブ女子、穏やかな目覚め
今回も読んでいただき、ありがとうございます!
途中にでてくる歌には著作権がないとのことなので、イメージも湧きやすいと思い使わせていただきました!
感謝です!
イザベルの話を聞き真っ先に考えたのが、今のイザベルはヨハンと会う為に何かをしようとしているんじゃないか?ということだった。
自分がそのお店から自由になる為には、かなり高額なお金が必要。
その為に、山賊にまさかの追い剝ぎをするという無茶もしたのだろう。
お金が目当てなら今の私達はほとんど持っていない。
アルフレド様も高価なものは全て城に置いていってもらったから、今の所持金はもし街や村があった時の為に、食事や寝泊まりが出来るようにとのものだけ。
そして、服が『布の服』でも隠しきれない色々ものから、アルフレドがただの町民ではないとイザベルならばすぐに気がついたはずだ。
それなら彼を人質にして王室に身代金?とも考えたが、リスクが高すぎる。
たとえ王がそれに応じても、その後国の戦力が一気に自分へ向けられることを考えたらとても危険だ。
あと、考えられるのはーーーーーーーー。
たぶんそうなのだろうと、たとえ私がローズだったとしても彼女は同じことをするだろうと思った。
それでも彼女のヨハンへの気持ちを聞いてしまってからは、そうせざるを得ない彼女の気持ちも分かってしまう。
いや、もしかしたらそこまでわかった上で彼女は私に過去の話をしたのかもしれない。
そのままの流れに乗るのが正しいのか、それを避ける為の行動に出るのが正解か。
今の時点では、何も判断ができなかった。
それでも、彼女の足についた奴隷の証となる焼印だけはどうにかしたいと思って、他者自動回復能力が正常に機能することを祈って彼女に了承を得ずに動く。
もし彼女がこの先自由になった時に、それが足枷にならないように。
それから先の人生が、少しでも彼女にとって生きやすいものとなりますようにと。
「・・・・・イザベルさん、これがあなたにとって少しでも役に立つことになるかはわからないけど」
「ちょ、ちょっと!あなたいったい何をっ!!」
「すぐに終わると思うから、少しだけ私の手が触れるのを許してください」
「!!??」
焼印に触れて少ししてすぐに、それはやってきた。
そこに炎はないはずで、私にはボルケーノの炎の加護があるはずなのにも関わらず、手の平が今まさに炎の中で焼けているような、熱した何かを押し付けられているかのような激痛が押し寄せてくる。
「・・・・・ぐあっ!!あぁっ!!」
おそらく、これはこの焼印をつけられた時に同じような痛みが彼女を襲ったのだ。
いや、きっとそれ以上の痛みと恐怖だったに違いない。
何年分という彼女の苦しみや絶望すらも、その痛みに込められているような、強烈な感覚の中でただ必死にその時間を耐える。
そして痛みが急になくなり、無意識に止めていた息を吐き切ると、焼印の上に乗せていた手をそっとどけた。
そこにあったのは、シミひとつない透明感のある白く滑らかな、美しいイザベルのありのままの太ももだけ。
ただ細いだけじゃなくて、しっかり筋肉もついた本当に曲線美で美しい足だった。
「やった!!消えたっ!!」
「・・・・・・え?」
消えた焼印に驚愕の表情を浮かべたイザベルは何も言わずに全身を震わせたあと、私に勢いよく抱きついてきた。
「・・・・・・・ッ!!」
声をはりあげて大泣きしたっていいのに、彼女は声を殺して泣いていた。
私の腕の中でずっと泣き続ける彼女の姿に、それが演技とはとても私には思えない。
ルーク辺りには、甘いね〜と笑われてしまうかもしれないが。
ヨハンへの愛を今でも持ち続けている彼女を、信じたいと思った。
どんな形であろうとも、ヨハンさんとイザベルがもう一度会えたらいいのに。
それだけを祈って、私は彼女を抱きしめ続ける。
水浴びという名のお風呂を済ませた私たちに、遅いッ!!!と開口一番に怒鳴りつけてきたのは、アルフレド様。
しかも、なぜか私にだけ!!
いや、人見知りというよりも疑心暗鬼なアルフレド様はイザベルに近づこうともしないので、言いやすい私に怒りの矛先を向けただけなのだろうが。
そのあと、焚き木の中で近くの川で取れたという魚を焼いて食べ、森の中でそのまま今夜も野宿だ。
「ーーーーーーやだ!!やめろっ!!」
「・・・・・ん?」
ふと、誰かの声に起こされて目を開けると、『彼』が何かの夢にひどくうなされていた。
「・・・・・今のは?」
今この場には、火の消えた焚き木を中心にして、その周りの木々を背にしながらアルフレド、イザベル、私が円になりながら寝ている。
ジークフリート様は辺りの見回りに行っているのだと、ボルケーノがこっそり頭の中で教えてくれた。
「・・・・・たのむから、やめてくれ!!」
「アルフ様?」
私の向かい側で寝ていたアルフレド様が、顔中に汗を大量にかきながら寝ながらうなされている。
「だ、大丈夫ですかっ?!」
「・・・・くっ!!うぅっ!!」
すぐにそばへ行き、彼の顔の汗を布で拭き取りながら声をかけてみるが、深い眠りに入っているのか起きる気配がない。
ならばと、彼の手を両手で握り締める。
「・・・・・は、母上!!バーチ!!」
「!?」
うなされながら、アルフレド様は泣いていた。
彼の母親である王妃は、王位継承者争いによって事件に巻き込まれ、今だ目覚めぬ眠りに落とされた可能性が高い。
もしかしたら、その事件に関する夢を見ているのかもしれない。
「・・・・ここにいるのがローズじゃなくてごめんね、アルフ様」
これも、もしかしたら2人が起こすはずのイベントのひとつかもしれないと思いつつ、うなされる彼の汗を布で拭い、その手をしっかりと握りしめながら彼の胸の辺りをトントンと優しくたたく。
昔、よく夢にうなされる子どもによくそうしていたせいか、自然と体が動いた。
ゆりかごのうたを カナリヤがうたうよ
ねんねこ ねんねこ ねんねこよ♪
その時に毎回歌っていた子守唄を口ずさむ。
覚えてるか不安だったけど、歌い始めれば自然と慣れ親しんだ歌詞もメロディーも体の奥から出てきた。
「・・・・・スゥ・・・・・スゥ」
胸の辺りを優しくたたきながら何回か歌っているうちに、アルフレド様の顔が穏やかになり、うなされていた声も規則正しい寝息に戻る。
「よかった。今度こそ、ゆっくり休んでね」
そのあと、歌を歌いながら自分自身の心も自然と落ち着いたようで、大きなあくびが出る。
「おやすみさい・・・・アレフさま」
元の場所に戻る気力もなく、そのままアルフレド様の隣に横になって眠りについた。
そんな2人の様子を、黙って見ていた者が2人。
1人はその場でもう一度目を閉じて眠りにつき、もう1人は森の奥へと静かに入っていく。
「・・・・・ん」
夜明け前、朝日に刺激されてアルフレドはゆっくりと目を開ける。
「!!??」
そして目の前には、視界いっぱいに眠る彼女の顔が。
「・・・・・なっ!!」
思わず上半身だけ飛び起き、違和感を感じた右手の行方を見てさらに驚くべき光景に言葉を失う。
「な、なっ、なっ!!??」
なんで庶民の女が目の前に!!
いや、そもそもなんで隣に寝ているんだ!!
しかも、なぜ俺の手とこいつの手が繋がっているっ!!!!
「!!??」
湧き上がる全ての疑問を叫びに載せようとしたのを、後ろから誰かの手が自分の口元をそっと塞いだ。
「・・・・・静かにしなさい」
こ、 この声はあの女のっ!?
やっぱりこの女は怪しかったんじゃないかっ!!
すぐさま、アルフレドが近くに置いてある剣を取ろうと手を伸ばす。
「大きな声を出したら、クローディアが起きてしまうわよ?うなされるあなたのせいで夜中に起きて、ずっとそばについててくれたんだから、まだゆっくり寝かしてあげなさいよ」
「・・・・っ?!」
それだけをアルフレドの耳元に赤い唇を寄せて小声で伝えると、声の主のイザベルは口元の手を外しアルフレドのそばから静かに離れていく。
そのまま、少し離れたところに座り込むと、森の中で取ってきたのであろう果物を布の上に置き、イザベルはクローディアが持ってきていた果物用の小さなナイフを使って食べやすい大きさに切り分け始めた。
「しょ、庶民の、女が・・・・??」
繋がれた手は、今もしっかりと握られている。
自分が見ていた夢の内容なら覚えていた。
それは小さい頃から繰り返し見ていたもの。
その夢でうなされたことも何度もあるが、毎回そんな時は目覚めた時に汗をびっしょりかき、全身がひどい疲労でぐったりしていた。
あの夢を見て、こんな穏やかな気持ちで目覚めたことなどこれまでただの一度もない。
「・・・・・本当に、変な女だな。お前は」
アルフレドの繋がれてない方の手が、クローディアの髪に触れてそっと髪をなでる。
その顔はいつもの眉間にしわを寄せた怒ったものではなく、口元に小さな笑みを浮かべながらーーーーーーー彼にしては大変に珍しく、優しい眼差しで彼女を見つめていた。
寝かしつけをしている時って、している方も実はすごく眠くなるんですよね。
それを耐えるのがすごく大変でした!




