約束の樹の下で 1
イザベルの回想シーンのスタートです。
前後篇になるか、もう少し伸びるか微妙なのでまだナンバーはつけません。後からこっそりついてたらすみません!
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
『ソフィーネ』村は、住人が30人もいない本当に小さな村で、そこで暮らす人達は毎日自分たちの暮らしに必要な分の食事や生活のものを自給自足でまかない、暮らしている。
私の母がこの村の出身で、街に一時期だけ暮らしていた際に父と出会い、私をお腹に宿したことでこの村に父とともに帰ってきた。
父は母をとても愛していて、父にとっては娘の私よりも母が何より大事なことが子どもの目からもよく分かってたわ。
優しく病弱な母に無理をさせてはいけないと、私が物心ついてからの家の家事は私の役割。
私も母のことが大好きだったから、それを苦に思ったことなんてなかったのよ。
『あ、こんにちは!ベル!』
『またあんたなの?こんにちは、ヨハン』
村の近くにある、小さな泉に夜中のまだ陽が出たばかりの頃。
朝ごはんの為に大きめの深い器をを持って水を汲みに行くのは朝一の私の仕事だが、ここで毎度毎度顔を合わせる私(今は8歳)と、同じような年頃の男の子がいた。
彼はヨハン=アリソン。
この村の長であるワイアット=アリソンの4番目の子ども。
村長の息子なのに、なんで私と同じような雑用係をやっているのかといえば、兄達の仕事も次々と頼まれて、全部断らないからだという。
体の線も細く、いつも優しい笑顔を浮かべるその子はいかにも人が良さそうで、中身ももちろん押しに弱過ぎる子だった。
彼だけが、イザベルという名の私をベルとよぶ。
『きょうもいっしょだったね!』
『まいにちおなじようなせいかつなんだから、あたりまえじゃない。それよりも、またおしつけられたの?』
『おしつけられたんじゃなくて、たのまれたんだよ。1ばん上のマシューにいさんがきょうはどうしても、あさからようがあるっていうから』
『それを、おしつけられたっていうのよ!』
簡単に言えば、嫌がらせやいじめだ。
それを本人は全くそう取らないものだから、その兄達も調子にのってるのだろう。
『いいんだよ、ベル。ぼくはみんなのやくにたてるならそれでじゅうぶんだから』
『そのうち、たおれてもしらないからね!』
『ありがとう。でも、それはベルもでしょ?』
『!?』
私のはいじめとか嫌がらせではない。
病弱な母と、そこにつきっきりな父に喜んでほめてもらうには、役に立つことをしなければダメなのだ。
私が泣いても、父は助けに来てはくれない。
『う、うるさい!ほら、はやくかえらないと2人ともおこらられちゃうわ!』
『そうだね、またゆうがたにあおうね』
『またゆうがたのぶんもおしつけられたのっ?!』
『でも、ゆうがたのはにばんめのソルにいさんのぶんだよ?』
『おんなじことでしょうが!!』
水汲みは毎日、朝と夕方のこの場所に取りに来る。
なので、自然と毎日のように私とヨハンは会って話をしていた。
ここに来るとヨハンに会える。
兄から仕事をおしつけられることをいい加減に断れ!と言いつつ、私はヨハンに会えることがうれしかった。
どんなに辛くても、私は1人じゃない。
ヨハンといることで、心からそう思えたから。
なのに、ある日ヨハンは、朝の水汲みにも夕方の水汲みにも来なかったーーーーーーー。
最初は、ついにあの横暴な兄たちからのおしつけに対して、あのヨハンが勇気を出して断ったのね!とうれしくなったのだが、その次の日の朝も来なかったことでそれは一気に不安なものに変わった。
いくらなんでも、おかしすぎる!!
ぜったいヨハンに何かあったのよ!!
ヨハンの住む村長の家は、村の1番奥の丘の上にあった。
村の端に住む自分の家とは全然違う、大きく広々とした二階建ての木の家。
いくつもある部屋のどこかに、ヨハンの部屋があるはずよ!
そう思ってヨハンの家の近くを歩いていた私の耳に、近所で有名な話好きのおばさん2人が、いつものようにおしゃべりに花を咲かせている声が聞こえてきた。
『ちょっと、奥さん聞いた?』
『あら、何かしら?』
『村長さんのところのヨハン坊ちゃん!どうやら病気らしいのよっ!』
『えぇっ!?まさか、流行り病じゃないだろうね!?』
『さぁ、村長が家の外に出さないから、どんな状態かは全然分からないんですって!!』
『いやだよ、流行り病だったらどうするんだい!!』
『本当にね!』
ヨハンがびょうき!?
しかも、はやりやまいって!?
どうしよう!?ヨハンがしんじゃうっ!!
いや、まって・・・・そうだ!!
あの実なら!!
私は母が病気の為によく食べている、毒やマヒ、発熱等にも効果がある『パル』の実のことを思い出し、森の中へと急いだ。
そして夕方の水汲みと夕飯の準備に間に合うよう、すぐにヨハンの家に向かう。
ヨハンの部屋はだいたい目星はついていた。
ある1つの窓にだけ、花が鉢植えに植わって置いてある。
白い花がさいている、そのかわいい小ぶりのはちうえをかざるような子はアリソン家ではヨハンだけ。
だんげんしたっていいわ!!
その窓の近くにある木を見つけてよじ登ると、窓の近くに行ける枝を伝って窓の中を覗き込む。
すると、窓のすぐ前には大きなベッドがあり、そこで横になってた男の子がこちらに気づいて、すぐさま窓を開けてくれた。
『べ、ベラッ!!こんなところでなにやってるの!!』
『ヨハン・・・よかった、げんきそうで』
『まさか、ぼくにあうために?ぼくのはすこしこじらせたけど、ただのかぜだからぜんぜんだいじょうぶだよ』
『ほかにわたしがこのいえにくるりゆうはなにもないわ!ほら、これたべて!』
『!?』
私はポケットに入れていたパルの実をヨハンに向かって放り投げる。
『これ、パルの実??』
『それたべて、はやくげんきになってよね!わたし1人であのもりのなかにいるのはもうあきたのよ』
『・・・・ベル、ありがとう』
ふだんどんなに辛くてもなみだの1つも見せないヨハンが、目になみだを浮かべて笑った。
私もその泣き顔に、ついついもらい泣きをしそうになる。
『あっ!ベル!!きみはいますぐここからかえったほうがいい!』
『えっ??』
だが、そのなみだをすぐに引っ込ませると、ヨハンはとても慌てた様子になる。
『こんなところをにいさんたちにみつかったら、ベルが・・・・!』
バタンっ!!!
『あーーーれーーーー??』
『に、にいさんっ!?』
その時、ヨハンと血が繋がっているとはとても思えないほど、憎たらしい顔をしたぽっちゃり兄貴が3人、乱暴にヨハンの部屋に入り込んでくる。
兄たちにおしつけられた仕事をこなすのに必死で、ごはんを満足に食べれてないヨハンの体は細く華奢なぐらいなのに。
その分、食べて寝て食べて寝てろくに動かない好き放題の他の兄弟たちはみな、全身がブクブクまるまると太っている。
『お前、なぁーーーーにいっちょ前に女と遊んでやがんの??』
『病気とかって、大嘘じゃーーーーん!!』
『そんなに元気なら、夕方の俺の分の仕事よろしくな!!』
『なっ!!』
『・・・・・ッ!!』
私が怒りにまかせて3人の子ブタに怒鳴ろうとしたのを察知したヨハンが、私に目だけでそれを止める。
ふだん穏やかな彼が見せる必死なその目に、私は何も言えなくなってしまった。
『ごめんね、イサックにいさん。ゆうがたのぶんはぼくがやるから。ゴホッゴホッ!』
『ヨハン!!』
『あーーーーあ、わざとらしく咳なんかしやがってよ!!そんな演技に親父もだまされてお前を休ませろ!なんて、アホじゃねーーの?』
『そうだぜ、マシュー兄さん!こんな女を連れ込むぐらい元気なら』
『!?』
『ベルは、かんけいない。とうさんにはもうだいじょうぶっていうから。あすのにいさんたちのぶんも、ぼくがやる』
私をかばうようにして、ヨハンがベットの前に立つ。
『おぉ〜〜〜!!聞いたか?明日も自分から進んで代わってくれるってよ!!』
『そりゃあーーーありがてぇや!よろしくな、ヨハン!!』
『あ、その次の俺の分も頼むわ!!』
『じゃーーな、ヨハン!!』
バタンっ!!
『・・・・・・ヨハン』
どうしよう、私が余計なことをしたから!
顔が真っ赤で、今も息が少し切れているヨハンが大丈夫なわけがない。
私が考えなしに動くからっ!!
『・・・・ごめっ』
『うれしかった』
『え?』
私の方へ振り返ったヨハンは笑っていた。
『ベルが、ぼくのためにパルの実をとりにいって、それをここまでもってきてくれて、すごくうれしかった!』
『・・・・ヨハン』
『じゃ、ゆうがたにまたあおうね』
『うん!まってる!』
夕方に森で会ったヨハンは、やっぱり顔も体も熱くてとても大丈夫とは思えなかったけど、ヨハンは笑っていた。
そのヨハンにもういいよって言われるまで、パルの実を食べさせたおかげなのか?
次の朝は、とてもスッキリした顔色をしていた。
ヨハンは優しく、そして本当は強い。
私たちはそれからも毎日お互いを励ましあい、支えあって生きてきたわ。
ヨハンがいてくれたから、私はその村で生きられた。
けれど、神様はなんてひどい人なのかしら。
私の幸せな毎日は、あの日を境にどんどん崩れていったのよ。
母さんが死んだ、あの日からーーーーーー。
次回は、もう少し成長した2人のストーリーがかければと思います!
よろしくおねがいします!




