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モブ女子、生まれたばかりの恋

今回も読んでいただき、ありがとうございます!


エリザベス様の初恋です!


「この方はわたくしの大切な友人ですの。一緒に通してもらっても構いませんわよね?」




エリザベス様とともに、もう一度お城の門番に再チャレンジです。


すでに、門番の2人組は美しいエリザベス様の姿にお目目がハートマークになってます!


くそっ!分かってはいたが、私の時とはえらい違いじゃないか!!




「も、もちろん大丈夫です!!」


「大丈夫であります!!う、美しい〜!」


「さ、クロエ。行きますわよ」


「は、はい!!」




門番をあっさりとクリアーして、私とエリザベス様は城の内部へと進んでいく。


もし内部もゲーム通りだとしたら、確か王の謁見室までは少し距離があるはずだ。


ならばその間で、エリザベス様に気になっていることを聞いてしまおう。




「あ、あの、エリザベス様!」


「なにかしら?クロエ」




少し前をヒールでカツカツと優雅に歩くエリザベス様が、私の方へと首だけ振り返る。


おぉ!見返り美人!!




「その、グレイ様とはどこで出会ったんですか?」


「!!??」




あ、りんごになった!


『グレイ』の単語にすぐさま反応し、エリザベス様の顔が真っ赤に染まる。




「な、何を突然言い出しますの!!」


「いや、お城に来るのは団長のジークフリート様だろうし、グレイ様は基本騎士院にいるから、どこで会ったのかな〜〜と思いまして」




単純に気になっただけなんだけど、だめだったかな?




「・・・・・・・・も、森の中ですわ」


「!?」




私に顔を見られるのが恥ずかしいようで、エリザベス様は横を向いて顔を伏せながら答えてくれた。



うん、可愛い!!




「え?そしたらエリザベス様、1人で森の中へ行ったんですか?」


「わ、わたくしだって息抜きに森へ行きたい日もありますわ!あの時は、本当に1人きりになりたくて森に行きましたの」




その日のことを思い出したのか、エリザベス様の顔が柔らかいものになる。







そう、あの時は何日も次期王妃教育の為の勉強が詰まりにつまったあとで、さすがのわたくしも体も気持ちも疲れ果てて、森に心を休めに行った時だった。


メイドがついていくと聞かなかったけど、もしいたらわたくしの行動が全てお父様に伝えられる為に、それでは決して休もうにも休めない。


その日に限って、心を許し信頼を置いているわたくし専属のメイドの『サリー』は有給休暇で休みだった。


彼女以外のメイドは全員、わたくしではなく父に従順で何1つごまかしてはくれない。


ほんの少しの時間でいいからと逃げるようにして城を飛び出し、わたくしは森の中に逃げてきた。




『・・・・・あぁ、なんて気持ちのいい風なのかしら』




こうして、1人で森へ来たのは何年ぶりか。


次期王妃に向けての勉強が嫌なわけではないが、さすがにそればかりでは息がつまる。


民に憧れられる女性になる為の努力は、惜しまないつもりだが、少しでいいからホッとできる時間はやはり欲しかった。




『はぁ・・・・次はいつここに来れるのかしらね』



今はまだアルベルト王子の『婚約者』であるからまだいいものの、このまま聖女として認められ王妃となってしまえば、こんな風に1人で外出できることなど一瞬も許されないだろう。


今だって、国にとって大切な聖女がいなくなったりもし死んでしまったりしたら、その責任を問われたメイド達や兵士は死罪になってしまうかもしれない。



『・・・・やっぱり、軽率すぎたわ』



出てきたばかりだが、やはりすぐに戻ろう。

ここにいればいるほど、皆は混乱や不安に駆られてしまう。


私はもう、自分の意思で自由に動ける身ではないのだから。




『来た道は確かこっちの・・・・ッ!!』



『ウガァァァーーーッ!!!』




なぜ気づかなかったのか!


いつの間にかわたくしの真後ろには、自分の背よりもはるかに大きな熊に似たモンスターが迫ってきていた。




『あ・・・・あっ・・・!』




攻撃魔法は勉強していた。


その呪文も覚えているし、使い方もマスターしている。


でも、実際にモンスターを前にして使ったことなど、ただの一度もなかった!


そうよ、モンスターに出会ったことすらも、わたくしはこれまでなかったのよ!




とにかく逃げなきゃと後ずさるものの、すぐに石につまづいて転んでしまい、その後は足が震えて動けなかった。




『ウガァァァーーーッ!!!』




怖い!怖い!怖い!!


誰か!助けて!!お父様!お母様!!




もう、ダメ!!と思って目をつぶった時だったわ。




『ーーーーーーー伏せろ!』


『!?!?』



その時、わたくしの背後から何かが急に現れて、そのモンスターをあっという間に持っていた剣で倒してしまった。



『ーーーーー大丈夫か?』



石につまづいて座り込んだまま、震えて立てずにいたわたくしに、先ほどの熊と同じくらい大きな体を膝を折って小さくたたみ、その人は真っ直ぐにその金の瞳を向けて話しかけてくれた。



『だ、大丈夫ですわ!!このくらい、わたくしにはどうってことなくてよ!』



わたくしは聖女であり、次期王妃。


守るべき民に弱いところは見せては行けない。



『ーーーーーーそうか』



それだけ言うと、その人はスッと立ち上がってその場から離れていく。



『・・・・ッ!!』



彼の背中を見ながら、すぐに立ち上がろうとしたが転んだ時にひねったのか右の足首がズキン!と痛んで、立ち上がれない。



わたくしとしたことが!!


これでは、午後のダンスのレッスンは確実に無理ね。


あぁ、先生にはなんて言えばいいのかしら。




『ーーーーーー無理に動こうとするな』


『えっ??』




いつの間にそこにいたのか。


わたくしの目の前には、先ほどの背の高い青年が屈んだ状態でわたくしの腫れた足に何かの草を巻きつけていた。




『これは、マブレの葉。捻挫や打ち身によく効く。しばらくすれば痛みもひき、じき歩けるようになる』


『・・・・わ、わたくしは』




黒の上下のシンプルなデザインの服を着ていたが、細身ながら引き締まった筋肉質な体と腰に帯びた見覚えのある剣を見れば、彼が騎士院に属するものだと分かった。


この人は、わたくしを探しに来たのかもしれない。


聖女として、次期王妃としてのわたくしを。




『俺は、知り合いが森に入って帰ってこないんで探しに来ただけだ』


『え??』


『別に、あんたを探しにきたわけじゃない。さっきも、彼女を探していたらたまたまあんたが襲われていたから、俺の勝手で助けただけだ』


『・・・・・・・』


『痛みが引いたら葉は捨ててしまってかまわない』


『!?!?』




葉が巻き終わり、その人はそのまま森の中へ向かおうと歩き出す。




『あ、あの!あなたが探している子は、どんな子ですの?』




今思い出しても分からない。

なんで突然、そんなことを聞いたのか。




『ーーーーーー無茶ばかりする子だ』


『!?!?』




それまで無表情に近かったその人が、その時だけ一瞬柔らかく笑った。



『人のためにいつも無茶ばかりしている。しかも、無茶をしているという自覚がない』



そして、すぐに元の無表情に戻る。




『・・・・・・・』


『そういう人間は、人に助けを借りるのが苦手だ。俺は、そういう人間が安心できる場でありたい』


『!?』




そのままその人は森の奥へと去ってしまい、彼の後姿を見送ってしばらくした後で痛みの引いた足を動かし、わたくしは城へと戻った。


そして薬草の効果なのか、わたくしはそのあとのダンスレッスンも休まずにすんだ。


その日からわたくしはその人のことがどうしても気になって気になって、騎士院のことを信用のおけるメイドのサリーにお願いして調べてもらった。



こんな風にわたくしから頼み事をするのは初めてで、サリーはとても驚いていたけど、なぜかすごく嬉しそうだったわ。


わたくしは色々間違っていたと、彼のおかげで気づかされたの。




そして、サリーのおかげで『彼』が騎士院の副団長のグレイ=コンソラータという名だということが分かる。


真面目で派手さはないものの、ジークフリート団長の影になりながら、しっかりと騎士院を共に支えている騎士院内でも信頼の厚い人物。


副団長であればわたくしを知らないはずはないのに、あの時の彼はわたくしを聖女でも次期王妃としても扱わなかった。


ただの少女として、扱ってくれた。




「その後に、実はあなたのことも調べましたのよ」


「えっ?!なんで私をッ?!」


「グレイ様があの時に探していたのがあなただったから、ですわ」


「!!??」




グレイ様は森であった時に『彼女』と話していたが、騎士院に頻繁に出入りしている若い女性など、どれだけ調べても目の前の『クローディア=シャーロット』しかいなかった。




「あなた、面白い方ですわね」


「えっ・・・・よ、よく言われますが、何でですか?」


「サリーの調べによれば、ここ最近街で起きた事件は全てあなたが関わっていて、その事件は全てがあっという間に解決されていたわ」


「!!??」




最初はあなたにとても嫉妬していた。


あの人に影から守られてるあなたが、あの人と自由に会えて、楽しくお茶の時間までもを過ごせるあなたが、わたくしはとてもとても羨ましかった。



「・・・・・わたくしからも、あなたに聞かせて欲しいことがあるわ」


「な、なんでしょう??」


「なぜ、ただの街の少女に過ぎないあなたが、そこまで無茶をしてらっしゃるの?」




スッと背中を伸ばしたまま、彼女の方へ振り返る。


彼女はわたくしにじっと見られると、緊張したようにアワアワしていたが、すぐに息を飲みわたくしにきちんと向き直った。




「・・・・た、大切な人を、守るためです!!」




先ほどまでとは違い、その目には真っ直ぐな光が宿っている。




『ーーーーーー無茶ばかりする子だ』


『人のためにいつも無茶ばかりしている。しかも、無茶をしているという自覚がない』




「・・・・・・・」




たった、一度だけ。


わたくしは騎士院にサリーを伴って足を運び、『彼』に会いに行ったことがあった。


その時、彼は街にこれから向かうあなたを見送ったところだった。


彼の顔はとても穏やかで、優しさに満ち溢れていてーーーーーわたくしはその時に心の底から生まれて初めて『恋』をした。




「そうね。そんなあなただからあの人は・・・」


「エリザベス様??」


「いいえ。そんなあなただから、わたくしも今回手を貸したくなりましたのよ」


「あ、ありがとうございます!!」




何度も、クローディアがわたくしに必死に頭をさげる。




わたくしは、今でもあなたが羨ましい。


自由にどこでも行けるあなた。


思う方の為に、全力で走れるあなた。


自分の気持ちのままに、相手を想えるあなたが、わたくしはとても羨ましい。




分かってはいるのよ。



わたくしは『アルベルト王子の婚約者』。


婚約者のアルベルトとは、公式の場以外では会うことはほとんどない。


彼に対しては特になんとも思ってない。

お互いにこれが政略結婚だとわりきっているから、それは彼もそうだろう。



そんなわたくしが恋をしても意味のないことも、その恋の為に動くことが許されないことも。



分かっているの。



でも、あなたが大切に想う方の為に、わたくしにできることで力になれるなら。


それぐらいなら、許されると思ったのよ。




「さ、ここが王の謁見室に繋がる扉よ」


「は、はい!」


「エリザベス様!!今、王は大事なお話中で・・・・!!」


「わたくしも、聖女として王に急ぎ伝えるべき大事な用があるのです。それを邪魔することは何人も許しません!」


「・・・・・はっ!!」




わたくしは聖女であり、次期王妃となるもの。


その身はわたくしの物であり、わたくしだけの物ではない。




でも、まだわたくしの『心』は自由だわ。



恋は人を成長もさせるし、おかしくもさせるし、すごいものですよね。


エリザベス様の初恋は、この後もゆっくり書いていけたらと思います!

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