モブ女子、バレちゃいました!
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
どんな隠し事も、いつかはバレるものですね
「ーーーーーーーここ、は??」
ジークフリートが目を覚ますと、見たこともないような不思議な空間に横たわっていた。
体を起こして辺りを見回してみても、こんなにも美しく不思議な光景は見たことがない。
そこは黒い床、黒い天井の世界のなかで、虹色のジャポン玉のような大小色んな大きさの球体がフワフワと浮いていた。
「ここは、いったい・・・・??」
立ち上がって、歩き出してして見るもののどこをみても似たような景色が続き、気をぬくと自分がどこにいたのかも見失いそうになる。
【目が覚めたのですね】
「その声は、赤い魔女様!」
彼女の声はその空間のどこからか響いているようだった。
【ここは、クローディアの想いと記憶が詰まった世界。あなたに見てもらいたいものがあって、こちらに誘導しました】
「見てもらいたいもの??」
【えぇ。彼女はそれを伝えようとはしていなかったけど、私があなたに知っておいてほしかった】
「これは・・・・・っ!!」
ジークフリートの周りにある、虹色の透き通った球体をよく見てみれば、その中にはクローディアが映っていた。
ある球体には、赤ん坊のクローディアが初めて立ち上がって、周りから褒められ嬉しそうに笑う姿が。
ある球体には、もう少し成長した幼き彼女が母親と一生懸命に料理に挑戦する姿。
ある球体には友人とケンカしていたり、母親に怒られて泣きてる姿も。
そして、ジークフリートの目の前に降りてきた虹色の球体が眩しい光を放ち、ジークフリートは反射的に目を瞑ると、まぶたの裏に見たことがない光景が映った。
「な、なんだ??これは・・・・??」
そこは赤い魔女が住む、緋の山近くにある砂漠のようだった。
辺り一面が砂に覆われ、砂嵐がいたるところで吹き荒ぶ中で、1組の男女が見える、
『レオ、本当に今からでも帰っていいんだよ??』
『いーやーだ!俺が帰ったら、クロエが危ない目に合うじゃん!』
クローディアに、レオナルドっ?!
2人は砂漠の真ん中で、何かを待っているかのようにその場でじっとしている。
そうだ、この砂漠には少し前に俺が部下と一緒に、砂漠の近くの村から依頼を受けて向かったんだ。
だが、その依頼の対象は結局姿を現さなかった。
『・・・・にしても、本当にその小さな道具がアイツに効くの??』
『むしろ、これしかアイツには効かないから、けっこう困ったんだよね。散々力でなんとかなると思ってレベルアップして挑んだのに!』
『ふーーーーん。ちなみに、れべるあっぷってなに??』
『やばっ!!えっと・・・・特訓して強くなることかなっ!』
何かを片手に握りしめているクローディアと、話しながらも剣を構えたまま辺りを慎重に伺うレオナルドの周りで、それまで静寂を保っていた世界に変化が訪れる。
2人の背後で砂が大きく盛り上がり、そこから体長が2メートルほどある何かのモンスターが飛び出してきたのだ。
『シャーーーーーー!!!』
『きたっ!!!』
『うわ!思ったよりもでっけぇーーーー!!』
『ここであったが、100年目!!弱点を知らないうちは何十回とやられたけど、知識だけは強くてニューゲームをなめんなよ!!』
そうだ!
この黒々とした甲羅の巨大なモンスターであるサソリの名は、デスエンペラースコーピオン。
他のサソリと同じく尾に猛毒を持ち、強暴性も高く、本来この砂漠にはいなかった種であるのに、突然現れて砂漠の村に住む人々を襲い出した為に討伐の依頼を受けだのだ。
そして、デスエンペラースコーピオンの鋭い尾が2人に襲いかかる。
「危ないっ!!」
とっさに体が動いて2人の元へ行こうとするものの、ジークフリートの体は幻のように透き通って触れることすらも叶わない。
「これはっ!?」
2人は尾を上手く避けると、レオナルドが囮になってデスエンペラースコーピオンの注意を引き寄せ、クローディアが手に持っていたアイテムをその体に投げつける。
ガシャンっ!!
クローディアが投げた小さな小瓶は、デスエンペラースコーピオンの体に当たった途端に外壁のガラスが割れて、中に入っていた液体が甲羅の上で大きく弾けとんだ。
すると、液体が触れたところが強力な酸のようにあの強固な甲羅を一気に溶かし、デスエンペラースコーピオンは激しく暴れながら、砂の上に出てきてからのそんのわずかな時間で息絶える。
『よっしゃーーー!!!ビクトリー!!!』
『クロエってば、すごーーーい!!それなんの液体なの??』
クローディアは片方の手を腰に手を当て、もう片方をジャンケンのチョキにして前に伸ばし、ビシッとポーズを取ると、誇らしげに胸を張る。
『これはね、クジャクの涙ってアイテムで、普段は回復アイテムの1つなんだけど、デスエンペラースコーピオンにだけは、致命傷を与えられるスーパーアイテムなんだ!』
『へぇーーーーーー!!』
それを見たレオナルドが、目をキラキラさせてその小瓶を眺めている。
『この裏技が分かるまでは、本当に苦労したんだから!さ、団長が来る日までに全部のデスエンペラースコーピオンをやっつけるよ!!』
「!!??」
まさかこれは、俺がこの場所に来る前の出来事なのか??
『えぇぇーーーーー!!!まだやっつけるのっ?!』
『当たり前でしょ!団長達の攻撃方法は剣が主で、デスエンペラースコーピオンにはほとんど傷がつけられないんだから!』
『そしたら、その小瓶を団長に渡せばいいじゃん!なんでクロエが危ない橋を渡らなきゃいけないの??』
そうだ、なんで彼女は俺にこのことを話さなかった??
その小瓶のことも、デスエンペラースコーピオンのことも。
レオナルドに声をかけられたクローディアは、くるっと背中を向けると少し黙り込んだ後に、ニッコリ笑って振り返る。
『それはもちろん、フラグを絶対に一本も立たせない為!!』
『うーーーーん、クロエがよく言うフラグって何??』
『それは内緒♪さ、次行こう!レオ!』
『あ!ちょっと待ってよクロエ〜〜〜!!』
俺の目の前で、2人の姿が砂漠の向こう側へとどんどん小さくなって消えていく。
そして、景色は再び先ほどの虹色の球体が浮かぶ、黒き場所に戻った。
「ーーーーーーーい、今のは何だ??」
まさか、自分たちが討伐の為に砂漠を訪れた時、デスエンペラースコーピオンが一匹もいなかったのはーーーーーーーッ!!
【フフ、これは欠片の1つ。次はこれなんかどうかしら??】
「!!??」
赤い魔女の声とともに、また違う球体が光を放ち別の光景がを俺に映す。
そこは王都から少し離れたところにある山で、よく遠征で隣の国等に行く際の休憩場所として野営をしているところだった。
その山の中で、クローディアとレオナルドが見えた。
『クローディア!!ここにもあのキノコあったよ!!』
『さすが!!それがお目当のやつよ!!』
雪の降る季節でもないのに、手袋をはめたレオナルドの手には全体が真っ白のキノコがあった。
あれは確か、野営の時に食用として山で採れるタケノコタケ??
同じく山で採れるタケノコと味や食感がとても似ていておいしいと、他の団員の中でも評判だ。
確か、ついこの間タケノコタケを野営の時にみんなで大量に食べたばかりだ。
『でも、俺も知らなかったな〜〜まさか、タケノコタケにそっくりな猛毒のキノコがあるなんてさ!』
「な、何だとっ!?」
この間もかなりの量のタケノコタケを皆で食べたが、誰1人として体調を崩すものはいなかったぞ??
『そうなんだよね。本当にそっくりで気づかないんだけど、実は毒のある方はキノコの傘を裏を見ると、薄紫の筋が入ってるんだよね』
『へぇ〜〜〜〜でも、何でそんなことクローディアは知ってるの??』
レオナルドが、地面をキョロキョロ見渡しながらクローディアに尋ねる。
『それはもちろん、そういうイベントが・・・・・・』
『クロエ、いべんとってなに??』
『・・・・・・い、いたぁぁぁーーーー!!!』
クローディアはある一点を真剣に見つめていたかと思うと、目を一気に大きくひらかせ、どこかに向かって勢いよく走り出す。
『く、クロエ!!待ってよ!!』
レオナルドも急いでクローディアを追いかける。
そして、レオナルドが追いついた先では、クローディアが何かの鳥を体全身で地面に抑え込んでいた。
『く、クロエ、何やってるの??』
レオナルドが、ポカーーンとその光景を見ている。
『な、何って!!ちょっと、暴れないで!』
『クェーーー!!クェーーー!!』
クローディアの両手の中には、様々な色の絵の具をいっぺんにこぼしたかのような鮮やかな鳥が、今にも逃げ出そうと羽をばたつかせていた。
『れ、レオ!!さっきの!さっきのキノコを、この子の口にいれて!ちょっと、本当に痛いってば!』
『わ、分かった!!』
暴れる鳥の口を2人がかりでこじあけながら、レオナルドが先ほどのタケノコタケによく似た毒キノコを放り込むと、先ほどまで暴れに暴れていた鳥がすぐさまおとなしくなる。
『く、クエ〜!クエ〜!』
そして、機嫌の良さそうな声で鳴くと、暴れていたクローディアの腕に体をすり寄せていた。
『はぁ〜〜〜!これで、よし!!』
クローディアが腕を離すと、派手な色の鳥はクエ〜とどこか嬉しそうな様子で森へと戻っていく。
『ところで、何がどうなったの??これ?』
レオナルドは何が何だかよく分からないといった様子で、不思議そうにその光景を見つめていた。
『もう、街を出る前に説明したじゃない!この森には、時々タケノコタケに紛れて猛毒のキノコが生えるから、それを今回は無くすためだって!』
『そ、そうなんだけど、それとあの鳥って何の関係があんの??』
『レオ〜〜肝心な所聞いてなかったでしょ?あの鳥はボイズンバードって言って、毒のあるものが大好物なの。それで一度味を覚えさせれば、その山からその毒の食べ物が消えて無くなるぐらい根こそぎ食べて、無くなると別の山に移動するって、言わなかったっけ??』
『ごめーーーん!全然、聞いてなかった!』
『はぁ〜〜〜。まぁ、いいや。とりあえず、これで今度の団長達の野営の時に危険はないでしょう。さ、街に帰ろう!』
『えっ?もう??もう少し、山の中で散策してようよ!』
『あんまり遅くなると、夜のお店の開店時間に間に合わなくなるから、今日はここまで』
『ちぇーーー!!』
『ちぇっ!じゃないの!でも、いつも私の勝手に付きあってくれて本当にありがとうね、レオ』
『えへへ〜〜!!じゃ、ごほうびにチューして??』
『それはローズにお願いしてください』
『ケチーーー!!』
2人がそんな会話をしながら森を下っていく姿を最後まで見ることなく、その光景は光に包まれて消えた。
そして、再び目を開ければ虹色の球体が飛び交う場所に戻ってくる。
「・・・・・・今の光景も、俺たちが野営に使う前の出来事なんだな」
あの時、もしタケノコタケの中に猛毒の毒キノコが混ざっていたら、皆は何も知らずに食べて下手をしたら死者も大量に出ていたかもしれない。
「まさか、他にも??」
ふと周りを見てみれば、そこに浮かぶ虹色の球体の中では俺がここ最近で訪れた場所ばかりが映されていた。
どの場所も、予想していたよりも障害がほとんどなく、驚くほどスムーズに仕事が進められたものばかり。
普段なら大怪我をするものも出る中で、ここ最近は命に関わるような大きなケガをするものはほとんどいなかった。
【これを見てあなたが何を思い、何を感じるのかはあなたの自由よ。このことをクローディアがあなたに告げるつもりはなかったし、知られなくてもいいと彼女は思っているから】
「・・・・・・・」
正直色んな思いが胸に湧き上がってきていて、考えようとしても冷静に頭の中の整理がまだまだできていなかった。
【これからあの子を助けに行く前に、どうしてもこのことをあなたに伝えたかったの】
「・・・・・赤い魔女さま」
【さぁ、ここにいるのはもうおしまい。先へ進みましょう。あの光の先を目指してちょうだい♪」
赤い魔女が言葉を放つと同時に、ジークフリートから少し離れた前方の空間に光の扉が現れる。
「分かりました」
ジークフリートが光の扉に向かって歩き出すと、周りを浮いていた虹色の球体も、虹色の淡い光を放って光りだした。
「・・・・・クローディア、今度は俺がお前を助ける番だ」
強い意志を持ってその言葉を口に出すと、ジークフリートの姿は光の扉の中へと吸い込まれていく。
球体の中では、どのクローディアも最後にはとても嬉しそうにに笑っていた。
実は色んなところでフラグを折っていた、クローディアちゃんです。
強くてニューゲームがあると、散々苦戦したボスがあっという間に、下手したら通常攻撃だけであっという間に倒せるのが快感でした♪




